第1話:迷子のふたり

(人は何のために生まれて、何のために生きて、何のために死ぬのか……?)
(オレは特別な人間でもないから、生まれたことに意味なんてないし生きることに理由もない)
(そう思って生きてきたし、そう思って死んでいくと思っていた)
(オレは―)


ラッドストー「で……?探索隊の人間が、刑事なんかになんの用だ?」
?(ラルト)「突然お時間いただいて、すみません。」
?(ラルト)「『失踪者』について、お話を聞かせてもらえないでしょうか?」
ラッドストー「失踪者……?」
?(ラルト)「私なりに調べてはいるんですが、本職の刑事さんの方が詳しいかと……。」
ラッドストー「……そりゃそうだが。ラルトさん、何が知りたい?」
ラルト「『失踪者』を探すために、その人物の周辺や人物像について調べられていると思います……、」
ラッドストー「おいおい、個人情報について話すわけにはいかないぞ?こっちにも守秘義務ってもんがあるんだ。」
ラルト「えぇ……なので、いままで刑事さんが調べて感じた失踪者についての共通点があれば教えてもらえたらと……。」
ラッドストー「……それなら構わないが、探索隊のお前さんがなんでそんなことを知りたいんだ?」
ラルト「……ふふ、好奇心ですよ。」
ラッドストー「……好奇心、ねぇ?」
ラッドストー(兄ちゃん、言ってることと表情があってないんだよ……)


?(ルト)(母さんが、またラルトに無理言ったんだろうな。いい加減……、諦めればいいのに)
ロベルタ「きゃ……!」
?(ルト)「あ、すみません……。考え事してて……、怪我しませんでしたか?」
ロベルタ「わたしは、大丈夫ですよ!あの、あなたは?」
?(ルト)「……オレは大丈夫です。怪我がなくてよかった。」
ロベルタ「大変!服が汚れちゃってるよ!」
ロベルタ「私のお家、この近くなのっ!すぐ洗えば落ちると思うから……、」
?(ルト)「いえ、大丈夫です。オレがよそ見していたのが悪いんで。」
?(ルト)「あなたに怪我がないならよかったです。それじゃあ……。」
ロベルタ「……ちょ、ちょっと待って!」
?(ルト)「……はい、何か?」
ロベルタ「……実は私、道に迷っちゃったの。『笑わせ屋』ってところに行きたいんだけど、案内してほしいなっ?」
?(ルト)「……。」


ラルト「モンスターの能力によって退屈という感情が増幅された……、か。」
ラルト「興味深い話ですね。」
ラッドストー「まぁ、そいつだけが失踪者の原因じゃないけどな。」
ラッドストー「世間じゃ失踪者のことを、『退屈に負けた』なんてひとくくりにしているが、そんな簡単な問題じゃない。」
ラッドストー「現にこの国はこれだけ娯楽が発展しているんだ。酔わせ屋、笑わせ屋、睡眠屋……、そのどれも退屈を紛らわすために生まれた。」
ラルト「そして……、そのどれもが失踪者をつなぎ止められなかった。」
ラッドストー「エレメント依存症には治療の光が見えてきたが、失踪者の根本的な解決はまだ見つかってない。」
ラルト「……。」
ラルト「不思議ですよね、それでも国から出ようとする国民は他国にくらべて、圧倒的に少ないと言われています。」
ラルト「みんな、この国の中で退屈を誤魔化しながら生きている。」
ラッドストー「……何だあんた、国を出たいのか?」
ラルト「いいえ。ただ……、」
ラッドストー「……?」
ラルト「……怖いんです、家族を失いそうで。」
ラッドストー「それが探索隊のあんたが、俺の話を聞きたがった理由か……。」
ラッドストー「なるほどな、家族に失踪者予備軍がいるのか?」
ラルト「可能性がある、ってだけですが……。ただ、本人もですがその家族も辛い思いをしてます。」
ラッドストー「たしかに、そう言ってるあんたも相当辛そうだ。」
ラルト「……。」
ラッドストー「気持ちは分かる。俺もあんたと同じ立場だった。」
ラッドストー「よし、今度あんたの家族に会わせてやりたい子がいる。」
ラルト「え?」
ラッドストー「俺にとって、娘みたいな子だ。その子なら、あんたの家族の気持ちを分かってやれると思う。」
ラッドストー「近々帰ってくると、手紙ってのを送ってきてくれたんだ。」


?(ルト)「つきました。あそこの突き当りにあるのが『笑わせ屋』です。」
ロベルタ「ありがとう~!」
ロベルタ「ねぇねぇ、よかったら一緒に行かない?ひとりで見るより、ふたりのほうが楽しいと思うの!」
?(ルト)「……。」
ロベルタ「私、ロベルタっていうの!お名前教えてもらってもいい?」
?(ルト)(こういうとき、どう返せば失礼じゃないんだっけ……?)
?(ルト)「……すみませんオレ笑うの好きじゃないんで失礼します。それじゃあ。」
ロベルタ「……。」
ロベルタ「……で、いつまで隠れてるつもりなの?」
ノーフィール「ばれてましたか……!」
ロベルタ「隠れて見ているなんて、いい趣味してるわね。」
ノーフィール「いやぁ~、偽恋屋として名高いロベルタ嬢でも彼をときめかせることができなかったと!」
ロベルタ「……なに、あなたたちもダメだったの?」
ノーフィール「事件屋一同、総力をあげてがんばったんですけどねー。」
ノーフィール「ニセ誘拐してみたり、なんちゃって爆破事件に巻き込んでみたり……。」
ノーフィール「でも彼、まーったく動じない。逆にすごい!」
ロベルタ「はぁー。何それ、さんざんじゃないの。」
ロベルタ「それにしても彼、表情ひとつ変わらないものね。あれじゃあ、家族も心配するわ。」
ノーフィール「……ですねぇ~。」
ロベルタ「次の手を考えるかしら。」


?(ルト)「……。」
ラルト「ルト~!お、お、おまたせぇ……。はぁ、はぁ……、」
ルト「ラルト……。そんなに急がなくていいのに。」
ラルト「ごめんね……、人と話してたら待ち合わせの時間になってしまっていて……。」
ルト「ふぅーん。」
ラルト「刑事さんなんだけど、いろんな話が聞けたよ。今度、ルトも一緒に話を聞きにいかないかい?」
ラルト「なんでも、国を出て旅に出た……、」
ルト「あー、悪いけどパスパス!……どうせ、聞いても興味もてないだろうから。」
ラルト「……そっか。」
ルト「それより、悪かったな。お袋がまたラルトに無理言ったんだろ?」
ルト「ラルトが頼んでくれなきゃ部外者のオレが、探索隊の任務に同行なんてできないのにさ。」
ルト「本当に、……悪い。」
ラルト「んーん!いいんだよ。僕もルトが一緒だと楽しいしね。」
ラルト「それに、叔母さんはルトに何でもいいから興味が持てるものを、見つけてほしいんだよ。」
ラルト「そのために色んな体験をすることは、とても貴重なことだと僕も思うよ。」
ルト「……それで小さい頃からさんざん、色々させられてきたけど……、結局何ひとつ楽しいなんて思えなかったけどな。」
ルト「それに、前に探索隊に同行した時だって……、オレは……。」
ラルト「ほら、今回は2回目だから。また違ったものが見れるだろうし……。」
ラルト「あ……!それに前回と違って、王国からのお客様もいるみたいなんだ。」
ルト「王国から……?」
ラルト「うん。王国の癒術士だって。僕も初めて会うんだけど、今からすごい楽しみだよ。だからきっと、ルトも……。」
ルト「……オレが欠陥品じゃなかったら、楽しいって思えるかもな。」
ラルト「……。」
ラルト「大丈夫だよルト。さ……、行こうか?」


ジャモ「今回は、長い長い商談になるじゃもよ。上手く行けばエレキの国で一儲けできるじゃも。」
ジャモ「10日後にはこの国を発つから、それまではふたりは自由時間とするじゃも。」
ジャモ「ふたりはどう過ごすつもりじゃも?」
ユウ「実は、ベルデライトさんから手紙を貰ってて次にエレキの国に立ち寄る際は、声をかけてくれって言われてるんです。」
メルク「それで私たちは、ベルデライトさんの探索隊のお仕事に同行させてもらうのですよ~!」
ジャモ「探索隊……!?」
ジャモ「探索隊に知り合いがいたとは知らなかったじゃも……。いつそんな人と知り合ったじゃも?」
ユウ「く、食いつき方がすごい……!」
メルク「ベルデライトさんは、前にエレキの国に来た時に迷子になった私たちを助けてくれたのですよ!」
ジャモ「そうだったじゃもか。次は探索隊の人たちとも商談をしてみたいじゃも。」
ユウ「ジャモさん、そろそろ密談……じゃない。商談に行かなくていいんですか?」
ジャモ「そうじゃも……。では、また10日後にここでじゃも!」
メルク「楽しみなのですよ~、ユウさん!」
ユウ「エレキの国には何回か来てるけど、探索隊に同行させてもらうのは初めてだもんな!」
メルク「誘ってくれた、ベルデライトさんに感謝なのですよ!」
ユウ「ベルデライトさんが声をかけてくれたってことは、探索隊の解析班に同行するかもな。」
ユウ「……ん?あれ?なんか聴こえないか?」
ぼほおおおおぉ……。
ユウ「ジャモさん……?」
メルク「みゅ!?違うのですよ!通路の奥から風が吹いているのです!」
ユウ「エレキの国でも、こんな感じで風って吹くんだな。」
オキュペ「ぼほほほほぉぉお!」
ユウ「……か、風じゃない!でかいモンスターだ!」
メルク「みゅみゅー!なんだかすごい顔をしているのですよ!」
オキュペ「ぼぉぼぉぼぉぉぉぉー!」
ユウ「やばい!何か知らないけどすごい威圧感だ!」
メルク「ユウさん、あの勢いで突撃されたら私たち弾き飛ばされてしまうのですよ!」
ユウ「に、逃げるぞメルク……!」
メルク「みゅー!」
メルク「ユウさん、もっと早く走るのです!追いつかれるのですよー!」
オキュペ「ぼぉぼぉぼぉー!」
メルク「ユウさん!逃げ足の速さはメフテルハーネで一番なのです!もっと本気出すのですよー!」
ユウ「い、いつから俺そんな称号もってたの……!?」
メルク「みゅー!だ、だめなのですぅぅ……!」
オキュペ「ぼおおおおおおーーーーー!」


ベルデライト「おかしいな、この場所で待ち合わせたはずなんだ。……ふたりとも、どこに行ってしまったのかな?」
?(プリル)「ハンチョー!癒術士殿はどこでございますか?アタシ、癒術士殿に会えるのをとってーも、楽しみにしていたのでございます!」
ベルデライト「わかっているよ。だからこうして、君の班の任務に主人公を誘ったんだ。」
ベルデライト「ふたりともこの国には何度か訪れているはずだけど……、もしかしてまた迷子になってしまったのかな?」
?(プリル)「ま、迷子……!?それは大変だ、迷子の案内放送を頼まないと……!」
?(プリル)「ハンチョー!おふたりの特徴をアタシに教えるのです!」
ベルデライト「ふたりの特徴……?」
?(プリル)「迷子の案内放送といえば、名前、年齢、身体的特徴を伝えて、目撃者の情報を募ったり、捕獲してもらうのです!」
ベルデライト「捕獲……?」
ベルデライト「ずいぶん物騒な物言いだね……。そうだな、群青色の布を頭に乗せて、目は虚ろで覇気がない。」ベルデライト「うーん……、そしてなで肩だ。」
?(プリル)「それだけ!?それだけでございますか!?」
ベルデライト「ゆ、ゆら、揺らさないでプリル……。」
ベルデライト「そう言われても、これと言って特徴的な容姿をしていないんだ。」
ベルデライト「目を閉じれば顔を思い出すことはできるけど、言語化するには難しい見た目をしている。」
プリル「……うう~~ん。」
プリル「しょうがない!青い布でなで肩で覇気のない目をしている……、この情報で迷子案内放送を……、」
ベルデライト「あぁ、思い出した。ひとりはしゃべる瓶詰め水の少女だ。」
プリル「めっちゃ特徴あるじゃーーーん!唯一無二じゃん!ハンチョー、それだよそれ!」
ベルデライト「だ、だから……、揺らさないでくれ……!落ち着くんだ……、プリル……。」
「ば……の……、すよ~……。」
「め……だ……!」
ベルデライト「あれは……?」
ユウ「も、もうだめだ……!足がもげる……、これ以上走れな……、」
メルク「ユウさん、なんだかあのモンスター様子がおかしいのですよ?」
ユウ「……はぁ、はぁ。」
ユウ「ああ、メルクも……気づいたか……。あのモンスター……もしかしたら、」
オキュペ「ぼぉぼぉーん!」
プリル「おおおぉぉぉーっと!こんなところにモンスターとは珍しいっっ!」
プリル「あはは!誰だあいつ、追いかけまわされているぞ!」
プリル「どんくさい、やつだなー!」
ベルデライト「……彼が癒術士殿だよ。」
プリル「ムャッ!?」
ベルデライト「彼は癒術の能力はあるけど、戦闘能力はほとんどないんだ。きっと癒術を使う余裕もないまま、追い回されているんだと思うよ。」
ベルデライト「……そうか、待ち合わせ場所にいなかったのは、モンスターから逃げ回っていたからか。」
プリル「なにー!このプリル、癒術士殿をお助けするですぞ!」
プリル「行くぞ、ハンチョー!」
ベルデライト「……そうだね、助けるとしようか。」
メルク「ユウさん、3カウントで止まるのですよ!そして勢いよく振り返るのです!」
ユウ「はぁ……、はぁ……、でも、これで……、違ったら俺たち突進されてぺちゃんこだな……。」
メルク「みゅ~!今までどんな修羅場もくぐり抜けてきたのです!きっと大丈夫なのですよ!」
メルク「それに、このまま逃げ回っていてもユウさんの体力が尽きて、どのみち潰されてしまうのです~。」
ユウ「そ……、それもそうだな、よし!」
メルク「いくのですよ、スリー、ツー、ワンー……!」
ユウ「よし、こい!」
プリル「たぁぁぁぁー!」
ユウ「ちがうのが来たー!」
オキュペ「ぼぉぼぉ!?」

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