第1話:瓶の中の少女

メルク「起っきるのですよ~っ!」
ユウ「うわあっ!?なな、なんだ!?ってメルク!朝からそんな大声出すなよ……。」
メルク「いつまでたっても起きない方が悪いのですよ~!って、それどころじゃないのです!癒術士なのです!癒術士が村に来てるのですよ!」
ユウ「癒術士って、モンスターを癒すために世界を巡ってるっていうあの癒術士か?」
メルク「そうなのです!癒術でモンスターを穏やかにできるあの癒術士なのですよ!」
メルク「って、どうしてそんなに他人事なのですよ!?あなたにだって癒す力が現れたのですから、癒術士になれるのですよ!」
ユウ「メルクまで母さんみたいなこと言うなよ……。俺は癒術士になる気なんかないっての。だいたいモンスターに好んで近づくなんて……。」
メルク「もう!いい加減そのモンスター恐怖症を治すのですよ!そろそろパン屋さんの看板モンスターから大幅に遠回りして村を歩くのは嫌なのですよ!」
ユウ「ってメルクはびんから出られないんだから、疲れるのは俺だけだろ……。それで、癒術士がなんなんだよ?」
メルク「はっ!そうなのですよ!私を癒術士のところまで連れて行って欲しいのですよ!」
ユウ「ええ?やだよ。母さんに知られたらまた癒術士になれってうるさく言われるだろうしさ……。」
メルク「ケチ!見損なったのですよ!長年の友達の頼みを断るなんて!」
ユウ「……だいたいどうして癒術士のとこに行きたいんだよ?」
ユウ「まさかイケメン癒術士との出会いを求めて……。やめとけ?液体と固体の恋は難しいぞ?」
メルク「頑固な個体と包容力のある液体、お似合いでは……、」
メルク「って違うのですよ!聞きたいことがあるのです!」
ユウ「聞きたいこと?」
メルク「私のことなのですよ!ずっと探してきましたが、これまで私のようなびん詰め美少女にあったことはないのです!」
ユウ「いや、いっぱいあるぞ?あの戸棚の上の……、」
メルク「あれはびん詰めのマムシなのですよ!?」
メルク「ってそうじゃないのですよ!私は私と同じ仲間を探したいのですよ!そうしたら私の記憶の手がかりも手に入るかもなのですよ!」
ユウ「俺に会う前の記憶がないんだっけ?なるほどな。それで、世界を旅する癒術士ならなにか知ってるかもってことか。」
メルク「そうなのです、私は自分が何者か知りたいのです!とりあえずびん詰めのマムシじゃない確証だけでも!」
ユウ「たしかにずっと記憶がないこと気にしてたしな……。ま、メルクにはいろいろ世話になったし、連れてってやるよ。」
メルク「ほんとなのですか!ようやく私の魅力に……、」
ユウ「もうちょっといろいろ成長してから言え。」
メルク「く、質量保存の法則が恨めしいのです……!」

エルト「うーん、私もその子みたいな不思議な子には初めて会ったよ。どこで出会ったんだい?」
メルク「あれは、ある寒い冬の夜のことでした。夜空から舞う粉雪が……、」
ユウ「父が行商人の露店で10ゴルドで買ってきたんです。」
メルク「ああ!せっかく素敵な出会いを考えていたのに!せめて10ゴルドじゃなくて1000ゴルドと言って欲しかったのです……。」
ユウ「売られてたときはただの水にしか見えなかったんだから妥当な値段だろ。」
癒術士・エルト「水?」
ユウ「あ、はい。今は人間の姿をとってますけど、父が買ったときは意識もなくてただの液体だったんです。」
ユウ「意識があれば姿を変えられるみたいなんですが、目覚めたのが俺のところに来てからだったんで、その前は単なる謎の水扱いでした。」
ユウ「ただ、目覚める前の記憶がなくて……。そのせいか自分が何者かもわからないんだそうです。」
癒術士・エルト「なるほどね。私はそういったことに詳しくないが、昔一緒に旅をした仲間なら知っているかもしれない。」
癒術士・エルト「アイオスという名で変わったやつなんだが、博識なんだ。研究に専念すると言って別れたが、今頃何をしているのやら……。」
メルク「それで、そのアイオスさんは今どこにいるのですよ?」
癒術士・エルト「たしか南の……、あれ、南にあんな山あったかな?」
ユウ「……ん?」
癒術士・エルト「あれ、どうしたんだい?そんな顔をして……。」
ユウ「あの、エルトさん。その方向は北です。」
癒術士・エルト「あれ?おかしいな、こっちが南だと思ったんだがな……。」
メルク「……。」
ユウ「……。」
ユウ(……この人、方向音痴だ……!)
メルク「あ、あの、えっと……、アイオスさんのいる村の名前を教えて欲しいのですよ~」
癒術士・エルト「ああ、そうだな。たしか……、」
パン屋のおやじ「癒し手さん!村の東にモンスターが出ました!」
癒術士・エルト「すまない!話はあとだ!村の東だったな……。こっちか!……たぶん……。」
ユウ「できるぜ!って顔なのに全然安心できない……!?」
ユウ「しょうがない、俺も癒し手です!手伝わせてください!」
メルク「もっと安心できないのですよ!?」
ユウ「エルトさんだけで行かせるよりはましだろ!?だって、あの方向東じゃないもん!」
癒術士・エルト「こ、こっちじゃなかったのか……。教えてくれてありがとう。君の名前は?」
癒術士・エルト「ユウか。いい名前だ。」
癒術士・エルト「もしかしてその名は、導きという意味では!?」
ユウ「東につれてけってか!?行くけど、今までよくそれでやっていけましたね!」

癒術士・エルト「モンスターが多いな……。どうやら群れのようだ。私の仲間を預けるから、君はそちら側のモンスターを頼む!」
メルク「これはちょっとモンスター恐怖症のユウさんには厳しいのでは……。」
ユウ「安心しろ、メルク。お前だけは俺が絶対守ってやるさ!」
メルク「って、後ろのほうで応援してるだけなのですよ!?」
ユウ「だって、メルクは俺が持ってるんだから、一心同体だろ?つまりメルクを守ることは俺を守ることなんだよ。」
ユウ「というわけで頑張ってください!俺は後ろで弱ったモンスターを癒すことしかしない!むしろできない!だって俺は、癒し手だから!」
メルク「カッコよさげに言っても、中身はなにもカッコよくないのですよ!?」

第一部一章

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