第11話:レルハルニー

レルハルニー「つまんない。」
レルハルニー「外で魔力制御するの、すごく大変なのに。誰も褒めてくれない。」
レルハルニー「みんなにとっては、自分の魔力をコントロールできるのは当然だから、誰も褒めてくれないんだろうな。俺はこんなに頑張ってるのに……、」
レルハルニー「……まあいっか。どうせ喜んだら、父さまと母さまに怒られるんだ。」
レルハルニー「……、」
レルハルニー「あっ!ぬいぐるみが星に……!」
レルハルニー「……ダメだ。こんなこともできないなんて、ヴェヒターの恥だ。」
レルハルニー「こんなんじゃ、ヴェヒターの長子じゃない……。」

レルハルニー(つまんない)
レルハルニー(ずっと家の中なんて、最悪だ。変身魔法を爆発させちゃったんだから、仕方ないけど)
レルハルニー(俺がもっと魔力を制御できてれば、許してもらえて、外にも出してもらえるんだろうな)
レルハルニー「……。」
レルハルニー「……やりたくない。」
レルハルニー「何で俺だけ、こんなことで苦しまなきゃいけないんだ。」
レルハルニー「……あ。涙……、星になっちゃった。」
レルハルニー「……、後で砕いちゃえばいいや。」

レルハルニー「弟?」
「そうだ。占いによると次の『アストロギアの夜』の頃に生まれるらしい。」
「あなたが昔使っていた、杖や箒をおさがりにしてあげようと思うんです。レルハルニー、それでもいいですか?」
レルハルニー「……。」
レルハルニー「うん。」
レルハルニー「あっ!ごめんなさい、また魔法が……、」
レルハルニー「父さま?……どうして撫でてくれるの?」
「嬉しくて仕方がなくて、当然だ。初めて弟ができるんだからな。」
レルハルニー「……。」
「嬉しいのですね。」
レルハルニー「うん。」
レルハルニー「……ごめんなさい、父さま、母さま。俺、魔力を制御する修行、好きじゃなかった。制御できても……、嬉しくなかった。」
レルハルニー「でも、これからはちゃんとやる。家の中でも外でも、完璧に制御できるようになる。」
レルハルニー「……弟ができるから。」
レルハルニー「いい心がけだ。」
レルハルニー「俺、いいお兄ちゃんになりたいな。」
「あなたなら、何にでもなれますよ。才能豊かなヴェヒターの長子なのですから。」
レルハルニー「うん……。」
レルハルニー「ねえ、母さま。おなか、触ってもいい?」
「どうぞ。」
レルハルニー「……あったかい。」
レルハルニー「不思議だね、父さま、母さま。」
レルハルニー「まだ会ったこともなくて、名前も知らない誰かのことが、世界で一番大好きになるなんて。」

「魔力がない?」

「どうしましょう……!魔力がないヴェヒターの子だと知れたら、あの子が一体、どんな目に遭うか……!」
「どうするも何もあるか!隠し通すしかないに決まっている!」
「どうして魔力が無い体質なのか、エグザグランマ家の占星術で占ってもらえば……、」
「ダメだ!私たちは、国史編纂と監査を司る『記録』の御三家。国のために、常に『不干渉』を保たなければならない。」
「ヴェヒターが私情ゆえに他の名家の協力を仰いだと知れてみろ!そうなれば一家全員、もう家の名を名乗れない……!」
レルハルニー(どうして、アインレーラには魔力が全然無いんだろう)
「私が……、あの子をちゃんと産んであげられなかったから……、」
「馬鹿なことを言うな!あれはお前のせいなんかじゃない!」
レルハルニー(俺のせい?)
レルハルニー(俺がアインレーラから、魔力をとっちゃったのかな)
レルハルニー「……っ!」
アインレーラ「兄さま?」
レルハルニー「あ……ごめん。何でもないよ。」
レルハルニー(俺が魔力の暴走なんて起こしたら、アインレーラは自分の身を守れない)
レルハルニー(アインレーラの前では……、絶対に『いいお兄ちゃん』でいなきゃ……)
アインレーラ「ねえ、兄さま。」
アインレーラ「俺って一体何ができるのかな?」
レルハルニー「……、」
レルハルニー「アインレーラ。」
アインレーラ「……何?」
レルハルニー「オレはお前を愛してる。」
レルハルニー「父さまも母さまも、お前を心から愛してる。みんなお前のことが大好きだ。」
レルハルニー「それでいいだろ。」
アインレーラ「……。」
レルハルニー(俺に聞くなよ)
レルハルニー(俺だって、分かんないよ……)

レルハルニー「……。」
レルハルニー(アインレーラはずるいな)
レルハルニー(父さまや母さまからあんなに心配されてるのに、大切にされてるって気づかない)
レルハルニー(俺は我慢してるのに、あいつは弱音を吐いても許される。俺はたくさん修行したのに、あいつは何もしなくていい。俺は後継ぎとしてやらなきゃいけないことがあるのに……)
レルハルニー「……こんなの、いいお兄ちゃんじゃないな。」
レルハルニー「いいお兄ちゃんになりたいなら……、弟に何か、してあげなくちゃ。」
レルハルニー(でも、魔力がないなら、魔法も教えてあげられない。魔力を分けてあげる魔法は。一時的にしか効果がないし)
レルハルニー(ベルクベルクみたいに、魔宝石でも作れたら)
レルハルニー(……恥ずかしいな。俺はヴェヒターの子だ)
レルハルニー(そもそも宝石魔法にはコツがいるから、初めから魔法が使える人じゃないと難しいって聞いた。なら、初級魔法すら使えない子には到底……)
レルハルニー「……。」
レルハルニー「……魔道具、だっけ。」
レルハルニー(魔法が『本当に』使えない、魔法を『本当に』使ったことがない子でも、使える魔法の道具……)
レルハルニー(父さまが言ってた。ゼディー家の人が、ずっと昔に魔宝石の用途に関する研究について話してたって)
レルハルニー(その人は国からいなくなっちゃったけど、そんな研究が、本当に進んでるって)
レルハルニー「魔道具だ。」
レルハルニー(魔力はあげられなくても、魔道具ならあげられる。……俺には、魔宝石は作れないけど、『道具』なら作れる)
レルハルニー(魔法石だけ買って、外側の部品は俺が作っちゃおう。変身魔法で『真似』するのは、得意なんだ。『真似』する魔道具は……どこかで買えばいい)
レルハルニー(最近、どんどん魔力が多くなって、制御するのも大変だし……)
レルハルニー「ねえ、アインレーラ。もし、何でも好きなものが手に入るとしたら何が欲しい?」
アインレーラ「ん……。」
アインレーラ「プレゼント。」
レルハルニー「え?」
アインレーラ「星祝祭のプレゼント……。」
アインレーラ「俺も、祝ってもらいたい。生まれてきてよかったねって。」
レルハルニー「……。」
レルハルニー「そうだな。俺たち、まだ星祝祭のお祝いをしたこと、なかったよな。」
レルハルニー「祝ってあげるよ。お前が生まれてきてくれてありがとうって。」
レルハルニー(……俺が魔道具を作ったってアインレーラに話したら、父さまと母さまに、俺のしたこと、分かっちゃうかな)
レルハルニー(そしたら、怒られるかな。困らせるかな)
レルハルニー(……俺が、自力じゃ魔力制御できなくなったってことも……)
レルハルニー「……。」
レルハルニー(……内緒にしよう。もしバレちゃったら、内緒にしてくれってお願いしよう)
レルハルニー(アインレーラならきっと、俺の言うこと、分かってくれるはずだ)
レルハルニー「アインレーラは、俺の弟なんだから。」

「俺が馬鹿だったんだ。馬鹿だから気づかなかったんだ。」
「あいつのこと、かわいそうな子だって思ってた。魔力のある俺が守らなくちゃいけない子だって思ってた。」
「あいつが生まれる前から、あいつが大好きだったから。」
「そんなの、俺の勝手な押し付けだったんだ。あいつのこと、何も分かってなかった。だからあいつは、俺の弟じゃなくなっちゃったんだ……!」
『呪い(アインレーラ)』【それだけじゃないよ】
「……。」
『呪い』【俺が壊しちゃった指輪。もう何をしても、元に戻らない】
『呪い』【呪われちゃったから】
「呪い?」
『呪い』「【解けない感情が『呪い』になる】
『呪い』【……これが俺の、お前への気持ちなんだよ】
『呪い』【……】
『呪い』【俺って、こんなことしたくて生まれてきたのかな?】
「違う。」
『呪い』【……】
「それはお前のせいじゃない。それは元々、俺が作ったんだから。」
『呪い』【俺のせいじゃないなんて嘘だろ。嘘は絶対バレるって、まだ分かんないんだな】
「ならこれから、もっと上手い嘘つきになるよ。俺は……、」
「オレは、ヴェヒターの長子だ。」
「僕を、誰もが『無面』と称える。」
「私は……、何にだってなれる。」
『呪い』【お前は……】
『呪い』【かわいそうだよ】

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