第12話:仕掛人

マンドラ「みゃっ!みゃっ!」
ピエトロ「うわわわわわわっ!な、何がどうなってるのだ!」
ピエトロ「リュカリュカー!ヒトデ男ー!無事なら俺に返事しろー!というか、どこに行ってしまったのだー!」
フロッパ「けろろ~っ!」
ピエトロ「うわあぁっ!?」
ルスティ「はあっ!」
フロッパ「けろっ!?」
ルスティ「ピエトロ!」
ユルエ「大丈夫だったんだよ?」
ピエトロ「むっ!?お前たちは昼間の……!」
メルク「無事で何よりなのですよ!」
ピエトロ「お前も昼間の!」
ユウ「はあ、はあ……。ゆ、雪の上を走るのって……、普通に走るのより、きつい……。」
ピエトロ「お前も昼間のふにふに男!」
ユウ「俺だけ一言多くない?」
ピエトロ「そうだ、昼間のお前たち!リュカリュカとヒトデ男を知らないか?」
ピエトロ「お前たちと別れた後、一緒に星祝祭の屋台を回っていたのだ。だが、どこからか手紙が来て……、二人とも、顔色を変えて飛んでいってしまった。」
ルスティ「それを追いかけてここに来たのか。」
ピエトロ「ああ、俺はリュカリュカの友達だからな。友達が不安そうな顔をしていたら、駆け付ける!」
ユウ「俺たちは、森のモンスターが暴れてるって聞いて来たんだ。リュカリュカとアイザックさんも、俺たちと同じように……、」
ルスティ「……いや、違うな。そんな魔力の波長は感じられない。」
ユルエ「どういうことなんだよ?」
キーフェルン「『呪いだ』」
ルスティ「昼間のモンスター……!」
キーフェルン「『ここにいない人間は、呪いを止めに行ったのさ』」
キーフェルン「『あの呪いは人間が生んだモンだ。俺たちにゃ、止められねえ』」
キーフェルン「『だから手伝ってやる』」
ユウ「え?」
キーフェルン「『俺たちにできることと言やァ、お前たちに手を貸してテンパってるこの森の奴らを落ち着かせることだからな』」
キーフェルン「『被害者ヅラして黙りこくってるなんざ、この森に住まう奴の名折れってモンだぜ』」
ユウ「……いいのか?」
キーフェルン「……るん。」
ユルエ「ああっ!魔道具の光の効果が切れちゃったんだよ!?」
メルク「決め台詞が台無しなのですよ!」
キーフェルン「………るん!るんるん、るん!」
メルク「……。でも、気持ちは伝わってくるのです。」
メルク「お願いするのですよ、キーフェルン!」
キーフェルン「……るんるん!」
ユウ「あっちか……、行こう、メルク!ユルエ!ルスティ!」
ユウ「……、」
ピエトロ「なぜ黙る!?昼間一緒に戦ったではないか!」
ユウ「わ、分かってるよ!でもピエトロは……、」
ピエトロ「俺の心配など必要ない!」
ピエトロ「俺は確かに、リュカリュカやヒトデ男を探しに行きたい。でも、あの二人が俺に何も言わずに行ってしまったのは、きっと、俺を思ってのことなのだ。」
ピエトロ「だから俺は、今俺にできることをする!」
ユウ「……そうか。ありがとう。」
ユウ「ついてきてくれるか、ピエトロ。」
ピエトロ「もちろんだ!」
ルスティ「頼もしいじゃねえか。」
ルスティ「……そうだ、ピエトロ。その魔法剣を貸してくれ。」
ピエトロ「ぬわっ!?いくら俺でも武器がないと、ちょっと困るぞ!」
ユルエ「ち、違うんだよ!るーくんはこの魔法剣を強化しようとしてるんだよ。」
ピエトロ「む?」
ルスティ「『加えよ。重ねよ。新たなる魔を纏え』」
ルスティ「『重ねて命ずる。積め。補え。更なる魔と化せ』」
ルスティ「……師匠の発表、こんなにすぐに実践で使うことになるとはな。」

アイザック「『星よ。輝け。夜闇の果てまで』」
アイザック「『縛れ。捕えろ。この地に縛れ』」
リュカリュカ「『星よ。隠れよ。夜闇の奥へ』」
リュカリュカ「『縛れ』……、え、えと……。」
リュカリュカ「……『捕えろ』?」
リュナリュナ「『この地に縛れ』」
リュカリュカ「あ……、ごめんなさい、お兄ちゃん。リュカリュカ、お兄ちゃんに頼っちゃっ……、」
リュナリュナ「お前は僕に、助けてくれと言ったか?」
リュカリュカ「へっ?い……言って、ない。」
リュナリュナ「そうだ。今のは、僕が勝手に手を出したんだ。お前は僕に、頼ってない。」
アイザック「リュナリュナくんの言う通りだ、リュカリュカ。正直、君たちを頼っているのは俺の方だよ。」
アイザック「これだけ強大化した呪いの影響を屋敷内にとどめ、周囲への影響は最小限に抑える……、俺だけでは不可能だった。君たちももう、一人前だな。」
アイザック「……君たちに突然、こんな重荷を背負わせてすまない。魔術協会の応援が来るまで、耐えてくれるか。」
リュカリュカ「は……はい。もち、ろん……!」
リュナリュナ「馬鹿げたことを言うな。この程度、たやすいものだ。」
リュナリュナ(僕たち三人がかりでも、一時しのぎなのか。あの道化男……、認めたくはないが、やはり洒落にならん実力の持ち主だ)
リュナリュナ(いや、実力以上の無理をしていただけか?)
クラフト「これは珍しい呪いだね。『アストロギアの夜』の星の巡りの影響を受けているとは……、」
アイザック「クラフトさん!あまり近づくと危険です。」
クラフト「ああ、ごめんごめん。目の前に呪いがあったから、つい。」
リュカリュカ「何であの人、笑ってるの……?」
リュナリュナ「見るな、リュカリュカ。」
クラフト「いやあ、生きているうちにこんなに珍しい呪いを見られるとは、何て幸運だ!解呪される前にしっかり分析しておかないとね!」
リュカリュカ「……。」
リュナリュナ「おい、お前!あっちへ行け!」
アイザック「な、何か分かったことはありますか?」
クラフト「ああ、もちろん!」
クラフト「まず、この呪いは最近生まれたものではない。とはいえ、そこまでの年代物でもない。魔力波長から計測するに、20年ほど前かな。」
クラフト「ここからは推測だが、この呪いは、本来これほどの脅威ではなかったんじゃないかな。それが、『アストロギアの夜』の影響を受けて強大化した。」
アイザック「だから今まで、見つからなかったということか……。」
クラフト「おそらくこの呪いは、『アストロギアの夜』に関係するものなんだ。だから呪いは……感情は、それに影響されて増幅した。」
リュナリュナ「はた迷惑な。なら、この夜さえ終わればこの事態は解決するのか。」
クラフト「表面上はね。」
リュナリュナ「それは解決と言わないだろう。」
クラフト「君の言う通りだ。だから、この事態を本当に解決するのはとても難しい。」
クラフト「……解呪では、解決しきれないかもしれないな。」

「シエラ。」
シエラ「入っていいわよ。」
シエラ「……弟子を置いてここに来たの?ずいぶん信用してるのね。」
アロイス「いやぁ、本当はルー君たちについていこうとしたんだけどね。こっちは大丈夫って、気をつかわれちゃって……。」
アロイス「君が無事でよかった。じゃあ、行くね。君も念のために、店から出ない方が……、」
「手伝って!」
頭蓋骨「って、言わないのかよ!この意地っ張り……、」
頭蓋骨「……あいたぁ!」
シエラ「何でもない。」
アロイス「……。そういえばシエラ、ずっと何を作ってるの?」
アロイス「星祝祭の指輪……、じゃないよね。」
シエラ「……別に、見たいならどうぞ。制作途中の不出来なものだけど。」
アロイス「ありがとう。」
アロイス「……なるほど。呪いに関する魔道具か。」
シエラ「……。」
シエラ「へえ、分かったのね。それが何なのか。」
アロイス「こんなものを作ったのは多分魔法の国でも君が初めてだろうから、推測なんだけどね。」
シエラ「それ、依頼で作ってるの。指定の期日はもっと先。でも、今すぐにでも仕上げなきゃいけなくなったわ。」
アロイス「シエラ。」
シエラ「……何?隣に座ったりして。もう行くんじゃなかったの?」
アロイス「うん、行くよ。ルー君たちのこと、やっぱり心配だから。」
アロイス「でもこれが完成すれば、あの呪いを止められるんだろう?」
アロイス「なら、僕も手伝うよ。……一緒に創ろう。」
シエラ「……、やりたいなら、好きにしなさいよ。」
アロイス「うん。」
アロイス「……こんなこと言ってる場合じゃないんだろうけど、何だか、あの頃に戻ったみたいだ。」
シエラ「私たちの学生時代はもう終わったでしょ。」
シエラ「……なんて、言うのも変な感じね。アインレーラがあの様子じゃ。」

エミー「……オッケー。結界、完成したわ。」
シャルドネ「これで呪いの影響を二重に抑え込めるって寸法ね。隠ぺい魔法もかけてあるし、ばっちり!傍目にはただの星祝祭よ、ボス!」
フレデリック「二人とも、感謝する。急な事態だというのに手を貸してくれて、我々としてはありがたい限りだ。」
エミー「水臭いわねー。私達とボスの仲じゃない。」 
シャルドネ「そうそう。頼れるバイトは、ボスとクリフォードさんが慌てて街中を走ってるだけで『これは私たちの手が必要かしら?』って思うものよ。」
シャルドネ「ま、もちろんバイト代はもらうけどね!」
フレデリック「まったく、本当に頼もしい限りだな。」
クリフォード「……しかし、この人だかりは厄介だな。夜になって、昼以上に人が増えてきた。事実が露見すれば、最悪の事態が起こりかねんぞ。」
クリフォード「徹夜で済めばいいが。……いや、済まさねばならん。」
フレデリック「クリフォード。お前の力も、もう少しだけ借りるぞ。」
クリフォード「……ふん。オレがお前に最後まで付き合うのは、正真正銘、これが最後だからな。」
エミー「でも、ボスとクリフォードさんて捜索課でしょ?こういうのって専門外なんじゃない?」
フレデリック「元々魔術協会に呪い専門の部署はない。呪いは……魔法ではないからな。いずれにせよ、魔術協会に応援を要請しなければ……、」
ヨルスウィズ「そいつは大丈夫だよ。」
クリフォード「ゼディー最高議会員……!」
シルキー「待てぇ~い、学園長!わたしたちと共に星祝祭見回り隊をやるという話はどうなったのだ!」
ヨルスウィズ「あっ、わりー。俺ちょっと急用できちゃった。」
シルキー「何ィ!?」
リービット「まあ、そういうこともあるだろうな。」
シルキー「むむむ……、致し方ない。わたしたちだけで見回るとするか。」
シルキー「見回りと言えば風紀!風紀と言えばわたし!行くぞ、リービット!」
リービット「人混みで指揮棒をむやみに振ると危険だ。」
シルキー「ぬぐぅ!」
リービット「学園長。」
リービット「……誰も森に行かないよう、オレとシルキーが見ている。心配はするな。」
シルキー「……。」
「さあ行くぞ、リービット!まずはあちらから……、」
フレデリック「今のは……アカデミーの生徒か。彼女たちに見回りを手伝わせていたのですか?」
ヨルスウィズ「祭にはトラブルがつきものだから、としか言ってないけどな。」
フレデリック「正直なところ、とてもありがたい。感謝する、ゼディー最高議会員。」
ヨルスウィズ「俺の功績じゃない。生徒自身がしっかりしてくれてるのさ。」
フレデリック「……一つお聞きしたい。魔術協会へ応援を要請する必要がないとは、一体どういうことなのか。」
フレデリック「あなたが既に応援を要請したのか?それともあなた自身が、魔術協会からの応援なのか?」
ヨルスウィズ「全部、外れ。」
フレデリック「……、」
ヨルスウィズ「応援は来ないからだよ。」

レルハルニー「……ごめんなさい、ごめんなさい……、ごめ……、」
アシステア「……お兄さん、ずっと謝ってる。」
アシステア「この人、何か悪いことしたの?」
アインレーラ「……、」
アインレーラ「して、ないよ。」
アインレーラ「したとしても、絶対に許されないことじゃない……。」
ヨルスウィズ「レルハルニー君の具合はどう?」
アシステア「ヨルくん……、」
ヨルスウィズ「魔力の分割封印は上手くいってるみたいだね。それでもこの魔力量ってのは驚きだ。」
ヨルスウィズ「これだけの力を抱えて、よく社会生活なんか送れたな。常人なら、有り余る自分の魔力に押しつぶされたっておかしくなかっただろうが……。」
アシステア「その……、あたしたち、他に何かできることはある?」
ヨルスウィズ「アシステアちゃんたちは十分協力してくれてるよ。」
アシステア「……ない、のね。」
アインレーラ「……。」
ヨルスウィズ「手を握っても何もならないぜ。」
アインレーラ「分かってるよ。」
アインレーラ「気休めなんだ。」
ヨルスウィズ「……、」
ヨルスウィズ「そうか。それも大切なことだったな。」
アインレーラ(熱い)
アインレーラ(俺が寒いって思ってる間、こいつはずっと熱いって思ってたんだ)
アインレーラ(ずっと、こいつを見て生きてきた。自分とこいつを比べて、できないことを数えて、やっぱり適わないって信じてた)
アインレーラ(だから気づかなかったんだ。気づいてても、嘘だって思ってたんだ。こいつがこんなに弱い人間だって)
アインレーラ(こいつが今まで、俺をずっと……)
アインレーラ「……、」
アシステア「魔法の手紙……?もしかして、このお兄さんあての……、」
『ご報告、ありがとうございます。状況について把握しました。あくまで想定内の範疇で進行しているとのことで。』
アインレーラ「……、」
『この件について、我々はあなたの主張する通りに対応してきました。ゆえに今一度質問いたします。』
『これで本当に問題ないのですか?』
ヨルスウィズ「大ありだよ。」
ヨルスウィズ「だが、解決するのは俺たちはいけない。魔術協会は、この件にはまだ介入してはならない。」
ヨルスウィズ「—報告は以上、と。『包め。飛べ。果てまで届け』……。」
アインレーラ「……何だよ、今の。」
ヨルスウィズ「魔術協会との定期連絡。この呪いにまつわる異変に関する一部始終のな。」
ヨルスウィズ「この前のアカデミーの調査の時だった。俺がヴェヒター家の旧所在地近くで『呪い』の欠片を見つけたのは。」
ヨルスウィズ「レルハルニー君がヴぇヒター家の屋敷を移動させたこと、そこでは20年前に、粗悪な魔道具の暴走騒ぎがあったこと、彼が『呪い』の欠片を必死に回収して封じ込めていたこと。」
ヨルスウィズ「そこまで分かっていれば、部外者の俺でも何となく察しが付くわけだ。」
アインレーラ「……最初から全部、知っていたのかよ。調査するなんて、嘘、だったのか。」
ヨルスウィズ「全部知ってたわけじゃないぜ。」
ヨルスウィズ「アシステアちゃんがお前を若返らせるとか、お前がエルバスの町にいるとか、予想外の出来事ばっかりだったからな。」
ヨルスウィズ「だがお膳立ては俺がした。」
アインレーラ「……。」
ヨルスウィズ「お前を騙したのは俺だけだよ。このことを知っていたのは、魔術協会でもごく一部だった。フレデリックたちは何も……、」
アインレーラ「どうして何もしなかったんだよ。」
アインレーラ「知ってたならどうして、あいつを誰も止めてくれなかったんだ?」
ヨルスウィズ「実弟であるお前の言葉でなければ、あいつが踏みとどまることはないからだよ。」
アインレーラ「……、」
ヨルスウィズ「……魔術協会はこの件にいつでも介入できたし、初めはそうなるはずだった。」
ヨルスウィズ「だが俺が止めた。」
ヨルスウィズ「俺は、俺達魔術協会のジジイやババアが法と力で始末をつけるよりお前とレルハルニーがやるのが最善だと踏んだからだ。」
ヨルスウィズ「これは呪いだ。呪いは魔法では解決しない。あの呪いを本当に紐解けるのは、お前たちの心だけだ。」
ヨルスウィズ「それにお前たちには……、あの呪いにどう向き合うか、選択する自由がある。自分たちの苦しみに、自分たちで答えを出せる可能性がある。」
アインレーラ「……、」
ヨルスウィズ「そう、俺は踏んだ。というより……、信じた。」
ヨルスウィズ「レルハルニーは、全てをお前に隠して自分だけで背負うという答えを選んだ。お前はどうする?」
ヨルスウィズ「止めてくれと言うなら、今すぐにでも最高議会を動かそう。あの程度、5分で片がつく。」
アインレーラ「いらない。」
ヨルスウィズ「……、」
アインレーラ「お前は、俺たちに選択の自由をくれたんだな。」
ヨルスウィズ「ま、そういう名目で、お前たちに責められてしかるべきことをしたとも言えるがな。」
ヨルスウィズ「『当事者には何も知らせず、部外者が片をつけておしまい』なんてそれこそ薄情だ、とか何とかいう思想でお前らに背負わなくてもいい重荷を押し付けた。」
アインレーラ「……。」
アインレーラ「あいつを助けてほしかったのは、本当だ。でも、俺にそんなことを頼む資格なんてなかった。」
アインレーラ「本当は、俺が助けなきゃならなかったのに。」
アインレーラ「だから……、俺がやる。」

ヨルスウィズ「……中身は魔道具か。一応聞いとくが、今使えるのか。魔道具の制御は……、」
アインレーラ「できる。」
アインレーラ「もう焦って失敗したりしない。やり方はもう、教わってるんだ。」

「魔道具の制御のコツは、魔力の制御のコツとおんなじなんだ。」
「コツは、感情に惑わされないこと。でも、感情を捨てないこと。」
「魔法も魔道具も、結局は手段でしかない。だから、それを用いて大切にしたいものを見失っちゃいけないよ。」
レルハルニー「自分が何かを大切にしたいと思う気持ちが、俺たちを、本当の魔法使いにしてくれる。」

アインレーラ「もう、何もできない俺じゃいられない。」
アインレーラ「俺は魔法使いだ。」
アシステア「先生……、」
アインレーラ「……っと。」
アインレーラ「くそ、散らかりすぎなんだよ。さっき落とした魔道具は……、」
アインレーラ「……何だ、これ。袋?」
ヨルスウィズ「それは……、クラフト魔法古物店のマークか。」
アインレーラ「箱だ。……壊れてる。昼間、シュトフティが暴れた時に壊れたんだ。」
アインレーラ(……じゃあ、これは『俺』が?)
アインレーラ「……。」
アシステア「指輪?」
アシステア「……ひどい。壊れちゃってる……。」
ヨルスウィズ「……魔道具研究黎明期の代物だな。星憶魔宝石を実用化させようとして、ついぞ成功しなかった時代の産物か。」
ヨルスウィズ「だが何でこんなものが……、」
アインレーラ「兄貴が俺にくれた指輪だ。」
ヨルスウィズ「何?」
アインレーラ「忘れるわけない……見間違えるわけない。壊れてるけど、間違いなく同じだ……!」
ヨルスウィズ「……矛盾してるぜ。それは昔お前が壊して、呪いになったんだろう。」
アインレーラ「でも……、ここにある。」
アシステア「同じものが、二つあったの?」
アインレーラ「確かに、あいつは同じものを何個も持ってたけどそれは店に売れるようなものじゃ……、」
アインレーラ「……。」

「あいつは変身魔法で、元々あった魔道具を『模造』してた。……これがその、魔道具部分のオリジナルなんだ。」
「それを『俺』がクラフトの店で探し出して、今年の星祝祭の日に、贈ろうとした。」

「指輪を壊したことを、謝りたかったから。」
「あいつのことを、許したかったから。」
「そうか。」
「俺は……、」

「あいつと、仲直りしたかったんだ。」

アインレーラ「……っ。」
アインレーラ「こんなの、今更だよな。」
アインレーラ「どんなに大切なものでも、壊れてからじゃ直らないのに。」
アインレーラ「……、もう元に戻らない。」
アインレーラ「俺じゃ戻せない……。」
アシステア「戻せるわ。」
アインレーラ「……、」
アシステア「あ、あたしなら……、じゃなくて、その。あたしのおうちの魔法、なら。」
アインレーラ「……若返りの魔法が?」
アシステア「エルヴィヒの魔法は、ものの時間を巻き戻す魔法なの。」
アシステア「だから、その……このくらい小さなものなら、魔法薬でお手入れしたら、長い間、元に戻せる、と思うの。」
アシステア「……あたし、お姉さまに頼んでみるわ。この指輪を直してもらえないかって。」
アインレーラ「……本当か?」
アシステア「あたしじゃダメでも、お姉さまなら……、」
アシステア「……。」
アシステア「……先生。」
アシステア「あたしが直してもいい?」
アシステア「あたし、まだ何にもできない子のままなの。でも、それじゃダメなの。」
アシステア「先生から、教わったから。できないって思うことをやらなきゃ、自分で自分を認められないって。」
アシステア「あたしも、魔法使いになりたい。」
アインレーラ「……。」
アインレーラ「……俺の言葉、覚えてたんだな。」
アシステア「……はい。」
アインレーラ「こんな俺から、教わったのか。」
アシステア「先生は、すごい魔法使いだわ。」
アインレーラ「悪いけど、俺はそんな人間じゃないよ。」
アインレーラ「でも、これからそうなる。」
アインレーラ「……そうならなくちゃ、お前に責任取れねーしさ。」
アシステア「……。」
アインレーラ「これ、頼む。すごく大切なものなんだ。」
アインレーラ「……行ってくる。」
アシステア「……はい。」
アシステア「待ってるわ、先生。」

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