第3話:虚妄の蘭

「ねえ。ここは、どこ?」
「深い、深い。森の、なか。」
「庭、ではないみたい。」
「なんか、おかしいね。とっても、不思議なところだね。」
「ダレモイナイ。ダレモイナイ。」
「いるよ。ここに、ほら。」
「オトコノコ?オンナノコ?」
「ふふ。失礼しちゃうなあ。」
「アイサレタホウ?ソレトモ、ソレトモ。」
「意地悪だね。そんなの、知ってるくせに。」
「でも、どうしてだろうなあ。やっぱり、かわいかったからかなあ。」
「ふふ。理由を知りたい?」
「どっちでも、いいけどね。教えてもらいに行くところだったもんね。」
「もう、忘れちゃった。なんていうひとだっけ。」
「あはは。どっちでも、いっか。」
「結局、私をかわいがるのは、私だけだもんね。」
「ワタシッテ、ダレ?ワタシッテ、ナニ?ダレダッケ。ナンダッケ。」
「ねえ、おかしいの。呼ばれているような気がするの。」
「種に還る?種に還ろっか?」
「うん。そうだね。」
「いいこ、いいこ。ねんねんころりよ、おころりよ。ねんねんころりよ、おころりよ。」

?(メルローゼン)「ミルトニア!」
ミルトニア「メルローゼン。どうして、キミがいるの……?」
メルローゼン「はァ?そいつはあたしン台詞だっつ~の。」
メルローゼン「すっかり、ボロボロだな。おまえ、まさか種にでも還るつもりかよ。」
ミルトニア「あはは。だって、ここまでの相手とは思ってなかったんだもん。」
?(ブラン)「……。」
メルローゼン「ふ~ん。おまえが、白灰の王ってわけ。」
メルローゼン「緑精の活動が抑制された環境下にあるとはいえ、庭園の管理人であるミルトニアをここまで追い込ンだか。」
ミルトニア「王さまのことは以前から認知していたんだけど。当時はまだ脅威と呼べるほどの勢力ではなかったから。それに、もうすでに鎮静化されているって話だったし。」
ミルトニア「でも。想定していたよりも、遥かに力をつけていたみたい。」
メルローゼン「ああ。こいつはどうやら緑精を摂取して成長するらしいな。」
メルローゼン「神樹さまに惹かれてる、だとか?永遠に近づこうとしてるンだってさ。」
ミルトニア「あはは。もしかして、私たちといっしょになりたいのかな。」
ミルトニア「でも、そっか。緑精を過剰に吸収したせいで、力が暴走しているんだね。」
メルローゼン「ああ、たぶんな。ンでも、どうしよっかなァ。」
ミルトニア「あははは!」
ミルトニア「決まってる、でしょ。庭園を守るために、管理人のやるべきことは。」

ユウ「森のなかに、玄関……?ずいぶんと古びているみたいだけど。」
ユウ「様子が、おかしいな。白灰の王の影響を受けていないのか?」
ユウ「う~ん。それにしても、妙な気分だ。」
ユウ「さっきから、頭もぼうっとするし。ここまでの道のりも、思い出せない。」
ユウ「ええっと。いったい、どうしたんだっけ。」
ユウ「なあ、グリゼル。この場所について、知ってるのか?」
ユウ「ん。」
ユウ「いない、な。そばに、いたはずなのに。ノラさんもどこに行ったんだろ。」
ユウ「おい、メルク。なにがあったのか、覚えているか?」
ユウ「え……?」
ユウ「メルクも、いない。まさか、ひとりだけはぐれたのか?」
ユウ「いやいや、そんなはずはっ!ひとまず、周囲を調べてみるか。」
ユウ「というか、まあ。どう考えても、あの門が怪しいよな。」
「ダメ、だよ。」
ユウ「うわっ!?足元に誰か倒れて……!?」
?(ロワロ―ゼン)「ふあ、あ。ごめんなさい、おにいさん。」
?(ロワロ―ゼン)「すっかり寝ちゃってたみたい。こんな昼寝日和に、来客があるとは思わなくて。」
?(ロワロ―ゼン)「それで、どうするの?ボクと、遊んでいきたいの?」
ユウ(知らない、子どもだ。指先で転がしているのは、チェスの駒か?)
ユウ「悪い、ゲームをしている暇はないんだけど。もしかして、この場所について知ってるのか?」
?(ロワロ―ゼン)「ん?へんなことを聞くんだね。」
?(ロワロ―ゼン)「もちろん、知ってるよ。だって、ボク、門番だもん。」
ユウ「へ、へえ……?ちなみに、向こうにはなにがあるんだ?」
?(ロワロ―ゼン)「おにいさん、やっぱりヘンだなあ。」
?(ロワロ―ゼン)「森のにおいも、しない。いったい、どうやってここに来たの?」
ユウ「いや、それがどうも。まったく、記憶になくてだな。」
?(ロワロ―ゼン)「メルのイタズラ、かなあ。まあ、なんでもいいや。ボクは外のことはさっぱりわからないし。」
?(ロワロ―ゼン)「それでおにいさん、名前は?」
ユウ「ああ。ユウだけど。」
?(ロワロ―ゼン)「そうなんだ。ボクは、ロワロ―ゼン。」
ロワロ―ゼン「こうして、呼ばれてきたんだから。いつかまた、招かれることもあるかもしれないね。」
ロワロ―ゼン「ふああ。おやすみなさい、ユウさん。」

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