第5話:木偶の茶会

メルク「みゅっ!ユウさん、目が覚めたのですね~!」
ユウ「ああ、心配かけたな。でもどういうわけか、倒れるまでの記憶がなくて。」
メルク「そうなのですよ?実は、私もなにがあったのかあやふやなのです。」
ユウ「うーん、森の中を歩いていたところは思い出せるんだけど。」
ジンジャー「オヤ、オヤ。庭園で発見された少年ですな。」
ジンジャー「積もる話もあるでしょうが。ひとまず席についていただけますか。」
メープル「ヘヘッ!ボサッとしてると紅茶が冷めちゃうからよ!」
ユウ「はっ!?人形が、喋って……!?」
メリーベル「いやはや、なにもおかしなコトはございません!ここはヒミツの廃園、そのくらいワケもないでしょう。」
メリーベル「ミることなかれ、キくなかれ、イうなかれ。ささいなコトは気になさらず、木偶の茶会を満喫あれ。」
ユウ「いや、明らかに怪しいだろ。そんな、いかにも当然のように言われても……?」

「ふふ、ふふふ。色とりどりのケーキ、フルーツ、スコーン!ゼリーにサンドイッチも、たくさんあります~!」
「はあ、なんときらびやかな食卓でしょうか。わたしの村では、ありえない贅沢ですね。」
「ふうん。そなの。」
「キアンちゃんも、まるでお姫さまみたいです。森の古城で、このような暮らしをしているなんて。」
「む。わかんない。」
「わたしも、夢のなかにいるような気分です。ついさっきまで森をさまよっていたはずなのに。気づけば、古城の会食に招待されているんですから。」
「ねえ、キアンちゃん。古城では、昔からこうした喫茶習慣があるんですか?」
「ん。茶会の、こと?」
「あ、はい。わたし、初めての体験でしたので。」
「しらない。メリーベルの、趣味だし。」
「なるほど。ふふふ、メリーベルさんはステキな城主ですね。」
「ところで、シナモンさんたちって食事はできるんですか?ケーキとかスコーンとか、もし手をつけないのなら、ぜひとも、このわたしがいただきたいな~って!」
「ンン!?ンン、ンンン~!?」

キアン「グリ。シナモン、こまってるぞ。」
グリゼル「キアンちゃん!?わたしのことはグリゼルと呼んでください~!」
ユウ「すっかり満喫してるみたいだな。さっきからなにやってるんだよ、グリゼル。」
グリゼル「へっ、ああっ!?ユウさん、体調のほうは平気なのですか!?」
ユウ「まあ、怪我をしてたわけでもないし。それにしても、気づいてなかったんだな。」
グリゼル「えへへ、すみません。ケーキに、あ、いえ、会話に夢中で。」
ユウ「な、なるほど。でも、グリゼルはあのあと平気だったのか?」
グリゼル「はい!わたしはすぐに目が覚めましたので。」
グリゼル「どうにも、森の中で倒れていたみたいなんですが。そんなところを、メリーベルさんに助けていただいて。」
メリーベル「いやはや、驚きましたよ。付近で人間を見かけることはほとんどありませんからネ。」
メリーベル「メルクさんに声をかけてもらえなければ、気づかないまま素通りしているトコロでした。」
ユウ「ん……?俺は、みんなといっしょじゃなかったのか?」
メリーベル「ええ、ユウさんはそばにいませんでした。庭園に倒れていたトコロを、キアンが見つけたのです。」
ユウ(古い門のまえに立っていたときも、ひとりだけだった。やっぱりあれって、夢ではなかったのかも)
ユウ「そうか。助かったよ、キアン。」
キアン「うげ。にがい。」
ジンジャー「オヤ、失礼いたしました。ミルクはコチラでございます、キアン。」
メリーベル「ハハッ、まだ年端もいかない幼子ですからネ。あまり、ヒトの話を聞かないトコロはありますが。」
ユウ「ああいや、気にしてないから。この女の子が、さっきのぬいぐるみ部屋に住んでいるのか。」
キアン「む。まだ、にがい。」
ジンジャー「イエ、イエ。糖分の過剰な摂取はなりません。」
キアン「ぬ。サルめ。」
ユウ「それで、グリゼル。ノラさんはどこにいるんだ?」
グリゼル「えっと、ですね。ノラさん、なんですが。」
メリーベル「祭司のかたですネ。ザンネンながら、まだ見つかっていないのです。」
グリゼル「わたしも探しに行こうとしたところ、ひとりで出歩くのは危険だとたしなめられまして。」
ユウ「そうなのか……、心配だな。いいかげん日も暮れるだろうし。のんびりお茶会してる場合じゃなかったな。」
メリーベル「さすがに、いまからでは遅いですネ。白灰の森を探索するのは、やめておくべきでしょう。」
メリーベル「白灰の森は、アナタたちが考えているよりも広大です。地理に明るい者がいたトコロで、たったひとりの人間を見つけ出すなど不可能ですよ。」
グリゼル「そうかもしれませんが。とはいえ、ノラさんを放っておくわけには。」
メリーベル「いえ、ここはワタシたちに任せてください。まずはシナモン、メープル、ジンジャーを向かわせます。」
メリーベル「いちおう、アナタたちは病み上がりですからネ。いずれにせよ、本日は安静にしておくべきでしょう。」
メリーベル「それと、ひとつ。アナタは気を失うまえに、祭司の歌を聞いたのでしょう?」
グリゼル「あ、はい。ノラさんの歌う姿を、目にしたような……?」
メリーベル「アナタたちに起きた異変は、もしかすると祭司の歌が原因かもしれません。」
メリーベル「外傷はありませんでしたからネ。おそらく、モンスターの仕業ではないでしょう。」
メリーベル「祭司ならば、集団を昏睡させるような効力のある術を習得していてもなんらおかしいコトはありません。」
ユウ「ノラさんが……?」
メリーベル「ええ。モチロン、たんなる憶測に過ぎませんがネ。」
メリーベル「緑精の活動が抑制されているこの森では、たとえ祭司であろうとほとんど力を使えないはずです。」
メリーベル「ただ、アナタたちがここに来るまえ、ワタシは白灰の森で大きな力を感じました。念のため、気に留めておくべきでしょう。」
メリーベル「さて。ひとまず、この場は解散としましょうか。これより祭司サンの探索に向かわねばなりませんので。」
メリーベル「みなサンには客室を用意しております。よろしければ、そこで身を休めてください。」
グリゼル「至れり尽くせり、ですね。ありがとうございます、メリーベルさん。」
グリゼル「ねえ、キアンちゃん。わたし、あなたの部屋を見に行ってもいいですか?」
キアン「だめ。こないで。」
グリゼル「ユウさんは連れて行ったのに!?ど、どうしてわたしはいけないんですかっ。」
キアン「けけ。グリ邪魔。」
グリゼル「ひどいっ!?」
キアン「おわっ。やめろ、すがりつくな~っ。」
メリーベル「ユウサン。いまから、時間をいただいてもよろしいでしょうか。ぜひともアナタを案内したいトコロがありましてネ。」
ユウ「ああ、もちろん構わないけど。古城のなかを歩いてみたいとは思ってたし。」
メリーベル「ハハッ、ちょうどよかった。それでは、こちらになります。」
メリーベル「ちなみに、暗い場所ですので。足元には、細心の注意を払ってくださいネ。」

メルク「みゅ。真っ暗、なのですよ。」
ユウ「こんなところに、階段があったのか。古城の地下に、いったいなにがあるんだ……?」
メリーベル「ハハハッ!それは着いてからのお楽しみになります!」
ユウ「わりと広い部屋、だな。さすがにただの物置、ではないみたいだけど。」
ユウ「ええっと。もしかして、メリーベルの部屋だったり?」
ユウ「あれ?メリーベル?」
「アンタ、妙なニオイがするなあ。ま、そいつはともかく、遠路はるばるようこそ。」
ユウ「えっ?」

(ブレイデン)「ケケケ。ど~も、こうして顔を合わせるのは初めてだな。」

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