第1話:真夜中の祈り

「聖翼さまだ……、神に近き者……!」
「ああ、私の生きているうちにこうして猊下を聖宮にお迎え出来るなんて……!」
「猊下がご成長なされたその時こそ、我ら、天空の民が神のお傍へ侍る日だ……!それまで聖宮で大切にお育てしなくては。」
「猊下が何ものにも害されぬよう、聖宮守護団も一層の精進をいたしましょうぞ。」
「ああ!我ら天空の民が一丸となって、猊下をお守りするのだ……!」
「聖翼さまをお迎えした、この善き日を、聖なる夜を、これより聖ミシェリアの日と定め、祝いの日としよう!」

「ああ……、なんてこと。神よ、これは罰なのでしょうか……!いったいどうしたら……!」
「なんだ……!?街が騒がしいな……。」
「決まった、決まったぞ!今夜は善き日、聖ミシェリアの日だ!」
「聖宮からのお達しだ!一晩中、聖女さまのお迎えを祝う日だ!」
「神の言葉にあるように、皆すべて、扉を開き、手を取り合って、恨みもいさかいも忘れて喜び合おう!」
「今日が祝祭日に……!まずい、その子を隠せ!」
「うわああああん!」
「ああ、ほら泣き止んでちょうだい!お願いだから、静かに……!旦那さま、どうしたら……!」
「どこかに隠さねばならぬ。誰かにみつかりでもしたら……、特にこの聖都で……!」
「父上、その子をわたしに。すべてがその子の敵だというのならば、わたしがすべてから守ってみせます。」
「ラヴィオル……、そんな、いったいどうやって……。」
「……!まさか……、」
「いいえ。このさまでは、どちらの方でもなじめはしないでしょう。」
「ならばどうするというのだ。」
「わたしがよい場所を知っております。誰にも知られず、誰にも害されず、誰にも訪れられぬ場所を。」
「そんな場所がどこに……、」
「塔か……!たしかに、あそこには聖宮守護団の者しか入ることはない。」
「だが、それは同時に私たちの手からも離れるということだ。それがどういうことか、わかっているのか。」
「わかっております。この子は……、弟は、わたしひとりでも、守ってみせます。」
「ラヴィオル……!」
「おーい!」
「お達しを聞いたか!?こんなめでたい日になに閉じこもっているんだよ!一緒に祝おうじゃないか!」
「旦那さま、人が……!」
「……わかった。私が街の者の気を引き付けている間に、裏口から行きなさい。おまえに神の加護が……、」
「……おまえとその子が無事であるように願っている。」
「ラヴィオル、あなたたちと共に行けぬ母を許してください。どうか、無事で。その子を……、オルトスを頼みましたよ。」
「はい。」
「おーい!」
「ああ、すまない。妻が出産中だったもので。」
「なんだ、そうだったのか!それはすまないことをした……!」
「いや、もうすんだことだ。」
「おお、生まれたんだな!それにしてもこんな善き日に生まれるなんてよかったじゃないか!」
「ああそうだ、おれがここに立ち会ったのも神のお導きかもしれない!どうか、おれにも祝福を授けさせてくれないか?」
「すまないが、息子は……、」
「死産だ。」

「チ、チチッ!」
白い鳥「チチッ!」
?(オルトス)「やあ、おはよう!いい天気だね!」
白い鳥「チチッ!」
?(オルトス)「おはよう!よかったら、朝ごはんを一緒に食べていかない?今日は僕の……、」
白い鳥「チチッ!」
?(オルトス)「えっ、もう行くのかい?」
?(オルトス)「そうか、もう群れが旅立つんだね。でも、ここはどこよりもすばらしいところだぜ?別に旅立たなくたって……、」
白い鳥「チチ……、」
?(オルトス)「しょうがないか。君たちは渡り鳥だものな。」
?(オルトス)「残念だな、君たちのおかげで楽しい朝ごはんが食べられていたのに。」
白い鳥「チチッ!」
?(オルトス)「はは!ちょっと、くすぐったい!」
白い鳥「チー!」
?(オルトス)「慰めてくれるの?大丈夫、僕には兄さんがいるから。」
?(オルトス)「……まあ、今日は仕事があるから、丸1日来れないんだけどさ。」
白い鳥「チチィ!」
?(オルトス)「毎年のことさ。もう慣れたよ。」
?(オルトス)「ほら、もう行きなよ。群れからはぐれたら大変だ。うん、それじゃあ寂しいけど、さよなら!」
白い鳥「チチッ!」
?(オルトス)「……、」
?(オルトス)「行っちゃったな……。今日はいい風が吹いてるし、旅立つにはぴったりの日だものな。」
?(オルトス)「……けど、朝ごはんくらいは一緒に食べたかったな。とりわけ今日は……。」
?(オルトス)「……、」
オルトス「……16歳の誕生日、おめでとう、オルトス。今日も聖都は、世界で1番美しい町だ。」

フラフィ「クルルルッ!」
「うわああっ!」
「フェイエル団長補佐!申し訳ありません、これ以上は……!」
フェイエル「ちっ……!」
フェイエル「エリオダス、トイフェル、補助へ回れ!ラヴィオル団長が来られるまで、持ちこたえろ!これ以上、聖宮に近づけさせるな!」
フラフィ「クルルルゥッ!」
フェイエル(とは言ったものの……、聖宮におられる団長がここに来るまでにはもうしばらくかかるはずだ)
フェイエル(それまで団長抜きでこの数のモンスターをどうにかできるか……?)
フェイエル(いや、どうにかするしかない……!聖宮には猊下がおられるのだ)
フェイエル(この翼に誓って、モンスターどもを聖宮に……、あの方に近づけさせるわけにはいかない。特に今日は聖ミシェリアの日の日だっていうのに……!)
フェイエル「なんだ……!?」
「グルルルル……、」
フェイエル「この強風は……、まさか……、」
?(ウェルネシア)「グルルゥアアアッ!」
フェイエル「雲喰い……、だ……!」
フェイエル(駄目だ!僕たちだけじゃ……、こいつには太刀打ちできない……!)
雲喰い「グルルル……ッ!」
フェイエル「よりにもよってこの日に……ッ!我らが神よ……!」
「フェイエル、退(の)けッ!」
フェイエル「……!」
?(ラヴィオル)「祈るために剣を放すな。我らの刃こそ、神から授かりし、第2の翼。」
?(ラヴィオル)「この刃をもって聖都を護ることこそ、我らの祈りだ。聖宮守護団に入った時の誓いを忘れたか。」
フェイエル「ら、ラヴィオル団長……、」
ラヴィオル「フェイエル団長補佐、お前も守護役ならば最後まで剣を手放すな。」
ラヴィオル「お前が諦め、剣を手放したとき、聖都を護る者はいなくなり、神への祈りも届かなくなる。」
フェイエル「……、」
フェイエル「はい!」
雲喰い「グルルル……!」
ラヴィオル「フェイエル、お前はトイフェルたちと他のモンスターを。雲喰いは私が相手をしよう。」
フェイエル「そ、そんな無茶です!これまで聖宮守護団が束になっても追い返すのがやっとだった雲喰いを団長お1人だなんて……!」
フェイエル「せめて私も……、」
ラヴィオル「……お前はもう少し、経験を積んだ方がいいな。だがまあ……、今は都合がいい。」
フェイエル「えっ?」
ラヴィオル「聖都に入ってきたモンスターは1匹残らず追い出せ。万が一にでも、聖宮にたどり着かせるわけにはいかん。ただし、外まで深追いしなくていい。」
フェイエル「それは……、」
ラヴィオル「別にお前たちが力不足だと言っているわけではない。私たちの役目はなんだ?モンスターを倒すことか?」
フェイエル「いえ……、聖都と聖宮、そして猊下をお守りすることです。」
ラヴィオル「その通りだ。ならば、わかるだろう?」
フェイエル「はっ!」
雲喰い「グルルルゥ……!」
ラヴィオル「ふん、ようやくお前と決着がつけられそうだ。雲喰いよ。」
雲喰い「グルルルルゥッ!」

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