第1話:チョコレートの町

?(フランシール)「どうして……、どうしてなの……。女王にふさわしくなるため、全てをささげてきたのに……!」
?(フランシール)「この髪がいけないの?それとも舌?それとも……、」
「いやあ、新しい女王様が即位されて安心だ。」
「まだお若い方だが、チョコレートを愛する気持ちをお持ちなら、きっと大丈夫だろう。」
「しかし……、戴冠式でチョコレートを召し上がっていたときはお顔の色が優れないようだったが……、」
「緊張されていたんだろう。ご幼少のころから女王となることが決まっていたとはいえ、まだ16歳であられるのだ。」
「現に、今も別室で心を落ち着けておられる。」
「それもそうか。では、新たな女王に。」
「これからのチョコレート・ワールドに。」
「すばらしき甘さと苦さを。」
?(フランシール)「……、どうしよう。」
?(フランシール)「どうしよう、どうしよう……!このままではチョコレート・ワールドが……、わたくしは、いったいどうすれば……!」
?(フランシール)「……!」
?(ティラミスタ)「……、」
?(フランシール)「あなたは……、」

メルク「みゅわ~!す、すごいのですよ!」
メルク「あたり一面、チョコレートのお店でいっぱいなのですよ~!しかもぜーんぶ、チョコレートとかのお菓子でできているのですよ!」
ユウ「み、見てるだけで胸やけが……。」
ユウ「だけど、ショコラタウン、だっけ?確かにチョコレートで有名な町ってだけはあるな。」
ユウ「これだけいろんなチョコレートの店があるなら、ジャモさんがお菓子の国にまでチョコレートを仕入れに来るのも当然か。」
ジャモ「じゃもじゃも!チョコレートといえば、ショコラタウン。ショコラタウンといえば、チョコレート!」
ジャモ「ここはチョコレートに関することなら、ほぼ全てにおいて世界で1番の称号を手にする、チョコレートの名産地なのじゃも!」
メルク「そんなにすごい町だったのですよ……!?」
ジャモ「そうじゃも!じゃもから、ここで高品質のチョコレートを大量入荷して王国で売れば大儲け間違いなしじゃも!」
ジャモ「さっそく商店で取引の話を……、」
町人(ジョルジュ)「もしかしてあんた、商人さんか?だとしたら、ずいぶんタイミングの悪いときに来たもんだなあ……。」
ジャモ「ど、どういうことじゃも?」
町人(ジョルジュ)「実は今、チョコレートの輸出は禁じられてんだよ。」
ジャモ「な、なんじゃも~!?」
町人(ジョルジュ)「ちょうど1年くらい前、チョコレート・ワールドに新しい女王様が即位されたんだけどよ……、」
メルク「チョコレート・ワールド、なのですよ?」
町人(ジョルジュ)「どうしたんだ、お嬢さん。そんなに不思議そうな顔して。」
町人(ジョルジュ)「あんたたちのいるこの町だって、チョコレート・ワールドの一部だろうよ。」
メルク「そもそもチョコレート・ワールドが何か、わからないのですが……。」
ジャモ「知らなかったじゃもか?お菓子の国には、上質のお菓子の原料がたくさん採れる地域がいくつかあるのじゃも。」
ジャモ「チョコレート・ワールドはそういった地域の一つで、ショコラタウンはチョコレート・ワールドの首都じゃもよ。」
メルク「そうだったのですよ~!」
ユウ「だからショコラタウンは、チョコレートの名産地なのか……。」
メルク「はっ!ということは、チョコレートのほかにもミルク・ワールドとかジャム・ワールドとかもあるのです!?」
ジャモ「まだ訪れたことはないじゃもが、そう聞くじゃも。」
町人(ジョルジュ)「ははは!さすが、商人さんだな!詳しいこった!」
ジャモ「情報収集は商売成功の秘訣じゃもよ。」
ジャモ「じゃもが、このチョコレート・ワールドで何が起きたかは、恥ずかしながら知らなかったじゃも。いったい何事なのじゃも?」
町人(ジョルジュ)「おお、そうだった。」
町人(ジョルジュ)「チョコレート・ワールドには、代々その地を治める王がいるんだけどよ。」
町人(ジョルジュ)「今の王様はチョコレートの月、14の日に……、つまり明後日で17歳になる女王様なんだよ。」
メルク「じゅ、じゅうななさい!」
町人(ジョルジュ)「ははは、他の国の人は若すぎると思うかもしれねえな。」
町人(ジョルジュ)「だが、チョコレート・ワールドを治めるのに必要な資格は、王の家系に伝わる、チョコレートを操る魔法の力……、そして何よりもチョコレートを心から愛していることさ。」
町人(ジョルジュ)「といっても、チョコレートが嫌いな人間なんて、このチョコレート・ワールドには1人もいないだろうがな!」
ユウ「たしかに町中チョコレートだらけだしな……。」
ユウ「それで、その女王様がどうかしたんですか?確か、去年即位したばっかりなんですよね?」
町人(ジョルジュ)「ああ、そうなんだ。」
町人(ジョルジュ)「噂じゃ、即位される前は、よき女王になるべく勉強熱心で、お若いながらも女王としての立ち振る舞いを身につけておられたと聞くんだがな……。」
町人(ジョルジュ)「即位した翌日に、訳も言わずチョコレートの輸出を禁じる、なんてお触れを出されたんだ。」
町人(ジョルジュ)「そのお触れを解く方法はたった1つ。女王陛下を満足させるチョコレートを作ること。さらに期限は次の陛下の誕生日までときた。」
メルク「って、もうすぐなのですよ!期限に間に合わなかったらどうなるのですよ……!?」
町人(ジョルジュ)「さあなあ。そこんとこも、何もおっしゃらないのさ。」
町人(ジョルジュ)「それでこの1年、いろんなショコラティエたちが腕によりをかけてそれぞれ自慢のチョコレートを作ったものの全部女王様のお口には合わなかったみたいでな……。」
町人(ジョルジュ)「それで多くの職人が諦めちまった。今じゃ、あの城でチョコレートを作っているのは、こないだのコンテストで優勝したショコラティエ1人だけさ。」
町人(ジョルジュ)「えらく洗練された、美しいチョコレートを作る職人だって聞いたが、どうなることやら……。」
メルク「では、その方が女王様を満足させられなければ、チョコレートは買えないのですよ?」
町人(ジョルジュ)「だからタイミングが悪かったのさ。観光客が少しばかり買っていくならともかく、輸出禁止令が出された今、商隊には売れないからなあ。」
町人(ジョルジュ)「チョコレートに関しては、チョコレート・ワールドの女王に従わざるを得ないのさ。」
ジャモ「そ、そんな~!はるばるここまで来たじゃもに……。」
ジャモ「チョコレートを仕入られなかったら、チョコレートを売ることもできないじゃも……。」
町人(ジョルジュ)「まあそう気を落とすなよ!おいしいチョコレートでも食べて行きな。」
町人(ジョルジュ)「そしたらきっと、儲け話のことなんてどうでもよくなるからよ!むしろただでチョコレートを配りたくなるはずだぜ。」
ジャモ「チョコレートがなかったら、そもそもチョコレートは配れないじゃもよ~!だいたい、そんなことあるわけないじゃもよ!」
町人(ジョルジュ)「はっはっは。さすがの商人さんもチョコレートの魔法は知らないみたいだな?」
ジャモ「じゃも?」
町人(ジョルジュ)「大事なことだぜ。チョコレートの持つ、幸せの魔法さ。」
ジャモ「幸せの魔法じゃも~?」
町人(ジョルジュ)「ああ、おかげでオレはこの年になってもばあさんとらぶらぶだぜ。なんならおすすめの店を紹介しても……、」
「だからイヤだって言ってんだろーうが!」
メルク「な、何事なのですよ!?」
?(タルトレード)「だいたい、オレのほかにもショコラティエはいくらでもいるだろ!他のやつに頼め!」
?(ジネット)「それは……、……ミル兄が、言ってたから。」
?(タルトレード)「あいつが……?」
?(ジネット)「レド兄のチョコレートには、幸せの魔法が詰まっているって。」
?(タルトレード)「……、」
?(ジネット)「だから、レド兄にお願いしたいんだ。女王様にチョコレートを作ってほしい。」
?(タルトレード)「……、けど、オレは、もうショコラティエは……、」
町人(ジョルジュ)「誰かと思ったら、タルトレードの坊主じゃねえか!最近見ねえと思ったら、こんな道端で痴話喧嘩たあ、隅におけねえなあ?」
タルトレード「は、はあ!?そんなんじゃねーよ!」
町人(ジョルジュ)「ったく、女の子の扱いがなってねえなあ。」
町人(ジョルジュ)「って、んん?」
?(ジネット)「……?」
町人(ジョルジュ)「お前さん……、」
町人(ジョルジュ)「ジネット!もしかして、ハンター一家のジネットか!?」
ジネット「そういうおじいさんは、らぶらぶ夫婦で武器職人のジョルジュさん!」
ジョルジュ「ふぇっふぇっふぇっ!ほんとのこと言うなよ、照れるだろぉ!」
ジョルジュ「それより、大きくなったなあ!お前さんたちがこの町を出て、もう5、いや6年か?オレの渡した餞別(せんべつ)は使えるようになったか?」
ジネット「へへっ、ボクももう一人前のスイーツハンターだよ。まだまだ父さんたちには追い付けないけどね。」
ジネット「ジョルジュさんからもらった槍だって、使いこなせるようになったんだよ。」
ジョルジュ「おお、そうか。そりゃあ、オレが丹精込めて作ったかいがあった。」
ジョルジュ「ま、もし手入れや修理が必要になったら、オレのところか、そうでなきゃ、ガトーっつー武器職人に頼むのがおすすめだな。」
ジネット「ガトーさん?」
ジョルジュ「ああ、オレの弟子なんだが、なかなかいい腕をしてる。ちょいと堅物すぎるところはあるがな!」
ジョルジュ「そうそう、この町には仕事か?」
ジネット「あ、うん。そのはずだったんだけど……。」
ジョルジュ「輸出禁止令か。」
ジネット「うん……。チョコレート・ワールドがこんなことになってるなんて、ちっとも知らなかったよ。」
ジョルジュ「なるほどな。それで、タルトレードの坊主に頼み込んでたのか。」
タルトレード「……ふん。」
ジョルジュ「やれやれ。こんなかわいい女の子の頼みを聞いてやらんとは、男の風上にもおけねえなあ。」
ジョルジュ「例えばオレがあと30、いや20歳若ければ、喜び勇んで協力したってのによお。」
タルトレード「って、男なら協力しないのかよ!」
ジョルジュ「当たり前だろ!男に協力したって、何も楽しくねえよ!」
ジョルジュ「……まあ、とにかく、いい機会だ。ジネットのお嬢さんの頼みを聞いておけ。」
タルトレード「……、」
ジョルジュ「最近は店も開けずに、家に籠りっぱなしと聞くぞ。何があったかは知らんが、このままじゃお前……、」
タルトレード「な、なんだよ……、」
ジョルジュ「無職だぞ。」
タルトレード「……!」
ジョルジュ「いい年をした男が無職。旅にも出ず家に籠って、何に情熱を注ぐわけでもなく、日がな一日だらだらしている無職。」
ジョルジュ「あー、情けない!」
タルトレード「う、うるせー!」
タルトレード「オレは、オレはもう……、」
タルトレード「ショコラティエはやめたんだ!これから就職斡旋所(ハロージョブ)に行くところなんだよ!」
ジネット「や、やめたって……、」
ジョルジュ「やめとけやめとけ。どうせやめられねえし、お菓子作り以外に取り柄もねえだろ。」
タルトレード「んなっ!?」
ジョルジュ「それよりよ。そういうことなら、なおさらジネットちゃんに協力しねえといけねえだろう。」
タルトレード「なんでだよ?」
ジョルジュ「やれやれ、受けた恩を忘れるとは……。さては恋人の記念日も忘れるタイプだろう。」
ジョルジュ「お前がお嬢さんの兄貴から、格安で材料を卸してもらってたことを忘れたのか?」
タルトレード「うっ……、そ、それは……。」
ジョルジュ「ショコラタウンをやめるってんなら、ショコラティエとして受けた恩を返してからってのがスジだ。そうだろ?」
タルトレード「べ、別にショコラティエを辞めてからでも……、」
タルトレード「そ、それに!最近じゃ、モンスターがたくさん出るって聞くしな!癒術士もいないのに、ジネットとオレだけじゃ……。」
ジャモ「いるじゃもよ!」
タルトレード「……えっ。」
ジャモ「うちの隊から癒術士を貸し出すじゃも!これでモンスターの心配は大丈夫じゃもよ!」
ジャモ「頼んでもいいじゃもな?」
ユウ「い、いいですけど……。」
メルク「ジャモさんの目が再びゴルドの文字に輝きだしたのですよ……。」
ユウ「絶対、女王様のお触れを解いてもらって大儲けとか考えてるよな……。」
メルク「なのですよ……。」
タルトレード「で、でもだな……。」
ジネット「……レド兄、お願いだ。」
タルトレード「……、」
タルトレード「そもそもなんでそんなに必死になるんだよ。そこまで重要な仕事なのか?」
ジネット「……仕事のためじゃないよ。これはボクがしたくてやってるんだ。」
タルトレード「……?」
ジネット「女王陛下は、訳もなくあんなお触れを出す方じゃない。何があったのかはわからないけど……。」
ジネット「とにかく、ボクは彼女のためになにかしたいんだ。彼女がチョコレートを求めるのは、きっと彼女なりの考えがあってのことだから。」
タルトレード「ジネット……。お前、どうしてそこまで……。」
タルトレード「そりゃ、確かに女王はチョコレート・ワールドには必要不可欠な存在だ。女王の魔法で、秩序が保たれてる。」
タルトレード「けど、女王なんてオレたちにとっては綿あめの上の存在だろ?お前がそこまでする義理は……、」
ジネット「……確かにそうだよ。だけど……、」
ジネット「それでもボクにとって女王陛下は、大切な人なんだ。だから、その大切な人のために、何かしたいんだよ。」
ジネット「ボクができることならなんだってね。」
タルトレード「……、」
タルトレード「わかったよ。恩もあるし、癒術士もいるし、それに……、お前がそこまで言うなら引き受けてやる。」
ジネット「レド兄……!」
タルトレード「……ただし、本当にこれが最後だ。そして、初めに言っておくが、オレに期待するな。オレはたぶん、ショコラティエに向いてねえんだ。」

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