ティラミスタ「グルルル……!」
メルク「どうしてあなたがここにいるのです!?」
ティラミスタ「グルルッ!」
メルク「あなたは、地下で私たちに道を教えてくれたのですよ……!なのに、どうして……」
ユウ「うわっ!?」
メルク「な、なんなのですよ!?」
オペラティオ「城が……、溶けだしている……!?」
タルトレード「んな、バカな!城は女王の力で維持されて……、まさか……」
オペラティオ「……、」
フランシール「かまわないわ。初めからあなたが来るか来ないかなど、どうでもよかったのだから。」
ジネット「え……、」
フランシール「わたくしには、友人も王子も、必要ないのよ。」
ジネット「……、そう、だよね。」
ジネット「……ごめんね、ボク、もう行くから……。」
フランシール「……、」
フランシール「……そうよ、わたくしは1人で立たなくてはいけないの。」
フランシール「初めから間違っていたのよ。王子も友人も、女王には必要ない。必要ないの。」
フランシール「……、」
「あら、お嬢様。今日はなんだかそわそわしていらっしゃる。やはり誕生日ですものね。」
フランシール「べつに、いつもと同じよ。」
「そうでございますか?あら、お客様がいらしたようで……、」
フランシール「お出迎えに行ってくるわ!」
「まあ……。」
フランシール「……、」
フランシール「……遅い。」
「フラン!」
フランシール「……!」
「シール様!こんなところにいらっしゃったのですね!」
フランシール「……、」
「お嬢様、もう本日のお客様はみな、お帰りになられましたが……、」
フランシール「……星を見てるだけよ。あなたは休んでいいわ。」
「お嬢様……。」
フランシール「……、」
フランシール「……、」
フランシール「……、」
フランシール「星の王子さまなんて、いるはずないわね。」
フランシール「じねっとの、ばか。」
幼少ジネット「それじゃ、またね!」
フランシール「約束を破ったら、モグー1000匹食べさせるから!」
幼少ジネット「わかってるってー!」
フランシール「フーリィ!」
フードリィドール「ふゅ~?」
フランシール「帰るわよ。乗せてちょうだい。」
フードリィドール「ふゅ~!」
フランシール「ふふ……、」
フードリィドール「ふゅ~?」
フランシール「誕生日会は少し、憂鬱だったけど……、ジネットが来てくれるなら、きっとわたくしも頑張れるわ!ふふふ……。」
フードリィドール「ふゅ~?」
「では、今日はバレンティア家の歴史について。」
フランシール「はい。」
「バレンティア家は代々チョコレート・ワールドを治める王の家系であり、チョコレート色の髪が特徴的で……」
「ああ、もちろん、その他の色をした方もお生まれになってますが……」
フランシール「……、」
フランシール「かまいません。続けてちょうだい。」
フランシール(……どうして、お父さまもお母さまもチョコレート色の髪をなさっていたのにわたくしは……、こんな……)
フランシール(こんな真っ白な髪に生まれてしまったの……。これではバレンティア家の姫としても、女王としても……)
フランシール(いえ、こんな髪でも、立派な女王になればみんな認めてくれるはずよ)
フランシール(そうよ。わたくしはバレンティア家に恥じない、女王になるの)
フランシール(誰にも頼らず、何の支えがなくともひとりで立てる、立派な女王に!そうすれば、きっとみんな認めてくれる!)
ジネット「……、」
フランシール「……!」
フランシール「あ、あなた、なにをじろじろ見ているの?わたくしにかまわないでちょうだ……、」
ジネット「その髪……、」
フランシール「……、」
フランシール「たとえ髪が白くともわたくしはれっきとした……、」
ジネット「おひめさまみたいだ……。」
フランシール「『そうして星に乗って現れた王子さまは、愛するお姫さまを救い出し、いつまでも、いつまでも、幸せに暮らしたのです』」
フランシール「面白い本だったけど……、星の王子さまなんているはずないわね。」
フランシール「……さて、明日の授業に備えてもう寝なくては……。」
フランシール「あ、流れ星……。」
フランシール「ふふ……、」
フランシール「おいしいわ。」
ジネット「……フラン。」
ジネット「ずっと、このチョコレートが食べたかったの。ずっと、ずっと。」
ジネット「……ごめん、あの時に渡せなくて。」
フランシール「……約束を破ったから、モグーを1000匹食べないとね。」
ジネット「えっ……!」
ジネット「う……、フランがそれで許してくれるなら……、」
フランシール「そうしたいところだけど……、モグーはいないから、かわりにこれで許してあげる。」
ジネット「これ……。」
ジネット「……ボクも好きなチョコレートだって忘れたの?代わりにならないよ。」
フランシール「わたくしのチョコレートが食べられないというの?」
ジネット「そ、そういうわけじゃ……、……。」
ジネット「ふふふ。じゃあ、いただきます。」
フランシール「どう?おいしいでしょう?」
ジネット「うん。」
ジネット「……うん。」
フランシール「……、」
ジネット「……、城は崩れちゃったね……。レド兄たちは逃げられたかな……。」
フランシール「大丈夫よ。」
ジネット「え?」
フランシール「……わたくしの髪がホワイトチョコレートのようだと言ってくれたのは、あなたでしょう?」
ティラミスタ「ぐるるる~。」
ユウ「うう……、き、気持ち悪い……。」
メルク「ユウさんは三半規管まで軟弱なのですよ……。魔法の国でも箒酔いしたとか言ってたのです。」
ユウ「生まれつきなんだからしょうがないだろ……、うう……。」
ティラミスタ「ぐるるっ。」
ユウ「鼻で笑われた!?」
ユウ「いいだろ、どうしようもないんだから。見方を変えようぜ……。これも俺のチャームポイントってことで……、」
メルク「さすが軟弱がウリなだけあるのですよ。」
ユウ「ウッ……。」
ユウ「でも、助かってよかったよ、ありがとう……。」
メルク「そうなのですよ!あなたがいなければ、溶けだすチョコレートに流されてしまっていたのかもしれないのですよ。」
ティラミスタ「ぐるる……、」
メルク「クールなモンスターさんなのですよ……。」
ユウ「だけど……、なんで俺たちを助けてくれたんだ?その前も、俺たちを助けたり、襲って来たり……。」
ユウ「それに、いきなり城が溶けだして、かと思ったらホワイトチョコになって固まったり……、いったい何が起きたんだ?」
オペラティオ「全て女王がらみだろうな。」
メルク「オペラティオさん!それにタルトレードさんも!無事だったのですね~!」
フードリィドール「ふゅ~!」
タルトレード「こいつが乗せてくれてな。助かったが、おかげで服が綿あめだらけだ……。」
メルク「綿あめなのに、上に乗れるのですよ……?」
フードリィドール「ふゅ~!」
オペラティオ「ご苦労。」
ルナ「わふっ!」
ルナ「わぶっ!?」
オペラティオ「仮にもモンスターなら、もっと身軽に着地できないのか……。」
ルナ「わふ……、」
メルク「そういえば、女王様のことなのです。オペラティオさんは、何が起こったのかわかるのですよ?」
オペラティオ「……陛下は、女王の力を1度失われたようだ。いや、もしかすると即位なさってからずっとそうだったのかもしれない。」
ティラミスタ「ぐるる……、」
オペラティオ「しらを切るならそれでいい。とにかく、城が溶けたのは力を失って、維持できなくなったからだ。」
メルク「ではどうして、また城が立ったのですよ?」
オペラティオ「陛下の力が戻ったんだろう。」
オペラティオ「……おそらくは、こいつのチョコレートでな。」
タルトレード「……、」
オペラティオ「このモンスターがお前たちを手助けだのなんだのしてたのはこいつのチョコレートが女王を救うことをわかっていたからだろう。」
オペラティオ「それに……、あのスイーツハンターも1枚かんでいたのかもしれないな……。」
オペラティオ「タルトレード。」
タルトレード「なんだよ……」
オペラティオ「……師の顔に泥を塗らずにすんだことをほめてやる。そして……、」
オペラティオ「確かにお前は師のおっしゃる通り、俺にはない何かを持っているのかもしれない。」
タルトレード「……頭でも打ったのか。」
オペラティオ「ばかものめ。」
オペラティオ「いいか。たとえそうだとしても、次のコンテストで勝つのは俺だ。俺は俺のやり方で、俺のチョコレートを師に認めさせる。」
オペラティオ「だから……、お前はお前のやり方を忘れるな。」
タルトレード「……、」
オペラティオ「ああ、そうだ。1つ、返し忘れていた。受け取れ。」
タルトレード「何投げ……、」
ルナ「わふっ!」
タルトレード「……、」
オペラティオ「……、ばかもの……。」
オペラティオ「だから、お前と遊ぶために投げたんじゃない!タルトレードに渡せ!」
ルナ「わふ……、」
オペラティオ「……、とにかく!」
オペラティオ「ナイフは返したからな。……お前にはまだ、必要なものだろう。」
オペラティオ「ではな。」
タルトレード「って、待てよ!」
オペラティオ「……、」
タルトレード「……お前の、チョコレート……、……悔しいけど、オレには真似できねーよ。」
タルトレード「けど、……そのうち、絶対俺のチョコレートをうまいって言わせてやるからな!」
オペラティオ「……ふん。」
オペラティオ「ルナ、行くぞ。」
タルトレード「無視かよ!」
ルナ「わふっ!」
フードリィドール「ふゅ~!」
オペラティオ「なんでお前までついてくるんだ!」
フードリィドール「ふゅ~?」
タルトレード「いいか、オペラティオ!師匠と同じくらいすごいの作ってやるからな!」
フードリィドール「ふゅ~!」
オペラティオ「ええい!もう知らん!どっちも勝手にしろ!」
フードリィドール「ふゅ~!」
タルトレード「……、」
ジネット「城が……。フランの髪の色とおんなじだ……。」
ジネット「……本当に、女王さまなんだね。」
フランシール「……、」
フランシール「そうよ。わたくしは女王になるべくして生まれたのだから。」
ジネット「……もう王子さまはいらない?」
フランシール「……そうね。女王はひとりで立たなくてはならないもの。チョコレートを愛しチョコレート・ワールドを治めなくては。」
ジネット「そうだね。」
フランシール「……でも、1人ぐらいはいてくれないと、チョコレートを愛し続けることができないかもしれないわね。」
フランシール「誰かが、わたくしにとびきりおいしいチョコレートを、毎年贈ってくれないと。」
ジネット「……なら、フラン。ボクが毎年チョコレートを贈る。君が助けてほしい時は、いつだって助けてあげる。」
ジネット「だからさ。」
ジネット「ずっと、ボクだけのおひめさまでいてよ。」
タルトレード「それじゃあ、あいつにまた材料を卸してくれるよう、伝えといてくれ。」
ジネット「うん、わかった!ミル兄も喜ぶよ!」
ジネット「レド兄がチョコレートを作らなくなって、しょんぼりしてたし……。」
タルトレード「あいつ、いつもおんなじ顔してるだろ……?」
タルトレード「……まあ、いいや。それと、その……、代金は出世払いってことで……。」
ジネット「え?」
タルトレード「実はずっと店開けないでごろごろしてたせいで、金がなくてだな……、」
ジネット「ミル兄はお金よりもチョコレートで払ってほしいと思うけど……。」
ジネット「あ、じゃあ、ボクの報酬金を使ってよ!後で払うって言ったままだったし……。いくら?」
タルトレード「あ?……いや、もうもらったからいい。」
ジネット「えっ!?もしかしてボクに遠慮して……、」
タルトレード「ちげーよ!とにかく、今回の報酬は……、」
ジネット「レド兄、お金ないんだから、遠慮しなくても……、」
タルトレード「うるせー!」
タルトレード「報酬が払いたいなら、これからもオレの店でチョコレート買っていけ!んで、2人でうまそうに食ってろ!」
ジネット「なるほど!ボクたちに広告塔になってほしいってことだね!」
ジネット「さすが、レド兄!王室御用達なんて使わない手、ないもんね!」
タルトレード「って、そういうことじゃねーよ!」
メルク「タルトレードさん……、無欲なのですよ……。」
ユウ「ジャモさんもちょっとだけ見習ってくれたら……、」
ユウ「って、そうだ。ジャモさんに報告しないと……、」
ジネット「あ、そっか……。メルクちゃんたちは、そもそもチョコレートを仕入れに来たんだもんね。」
ジネット「もう輸出規制は取り下げられたし、……ここでお別れだね。」
ジネット「……ありがとう。ボクがいろんなことに気づけたのは、君たちのおかげだよ。」
メルク「ジネットさん……、」
ジネット「いつか、君たちが困ったときは、ボクを呼んで。今度はボクが、君たちを助ける番だからね。」
メルク「はいなのですよ!いつかまた、ジネットさんと会える日を楽しみにしているのです!」
ジネット「任せてよ!その時は、もっともっとすごいスイーツハンターになっておくからね!」
タルトレード「……その、……。」
ユウ「……?」
タルトレード「……いろいろ世話になった。餞別(せんべつ)だ。旅の途中で腹が減ったら、食え。」
ユウ「これって……、塩クッキーの詰め合わせ……?」
タルトレード「……ここで手に入る食べ物といや、甘いもんばっかりだからな。ま、そんなに大したもんじゃねーが、ないよりは……」
ユウ「うわあああ、塩だあああ!これで胸焼けと戦わずにすむ……!ありがとうございます、ありがとうございます!」
タルトレード「……そこまで喜ぶなんて、ホントに王国のやつらって甘いものを食い続けられねえんだな……。」
タルトレード「……けど、喜んでくれたならそれでいーや。」
ユウ「……、」
メルク「みゅ、ユウさん!ジャモさんがあそこにいるのですよ!」
ユウ「ほんとだ……」
ユウ「って、うわっ!」
メルク「ジャ、ジャモさんが……!」
ティラミスタ「……、」
フランシール「待って。」
ティラミスタ「ぐるる?」
フランシール「あなたは去る時も突然なのね。それとも、わたくしの誕生日が終わってしまったから?」
ティラミスタ「……、」
フランシール「あなたにこれを。」
ティラミスタ「ぐるる……?」
フランシール「わたくしがずっと欲しかったものよ。」
ティラミスタ「……、ぐるる。」
フランシール「ありがとう。」
ティラミスタ「ぐるる?」
フランシール「契約のことじゃないわ。」
フランシール「……わたくしの誕生日を、祝いに来てくれたことよ。」
ルナ「わふっ!」
フードリィドール「ふゅ~。」
オペラティオ「転ぶなよ。……それにしても、見事なチョコレートだ。」
オペラティオ「なにに使えばいいか、迷うなど……、初めてチョコレートを作った時以来だな。あの時は、Cランクのチョコレートだったが……、」
オペラティオ「……。」
オペラティオ「いや、チョコレートには変わりないな。師のおっしゃる通り……。」
オペラティオ「……ふん、案外俺も、あいつとそう変わらないのかもしれないな、ルナ。」
オペラティオ「……、」
オペラティオ「……ん?」
ルナ「わふ~!」
オペラティオ「チョコレートの川に溺れるプルナーがどこにいるんだ……、ばかもの……!」
フードリィドール「ふゅ~!」
オペラティオ「そしてお前は、綿あめのくせに川に飛び込むんじゃない!自力で上がれないのはわかるだろう!」
オペラティオ「ええい!そこでじっとしてろ!」
ルナ「わふ~!」
フードリィドール「ふゅ~!」
オペラティオ「泳いで遊んでるんじゃない!」
オペラティオ「待て、下手に俺に近づこうとするな!余計、チョコレートが綿あめにつくだろう!ルナ、お前は溺れながらはしゃぐな!」
オペラティオ「だからじっとしていろー!」
ジャモ「このチョコレートはおいしいじゃも~!」
ジョルジュ「そうだろそうだろ?なんたって、オレがあんたのために選んだスペシャルアソートだからな!」
ジャモ「……なんだか、喧嘩別れした兄のことを思い出したじゃもよ……。」
ジャモ「もし、違う未来があったなら、このおいしさを、兄とともに分かち合うことも、あったのかもしれないじゃもな……。」
ジャモ「それにしても、どうしてこのチョコレートはこんなにおいしいじゃも?それに、結局チョコレートの魔法とはなんだったのじゃも?」
ジョルジュ「はははは!そりゃー、答えは簡単だ。」
ジョルジュ「愛ってやつさ。」