第10話:幸せの魔法

ティラミスタ「グルルル……!」
メルク「どうしてあなたがここにいるのです!?」
ティラミスタ「グルルッ!」
メルク「あなたは、地下で私たちに道を教えてくれたのですよ……!なのに、どうして……」
ユウ「うわっ!?」
メルク「な、なんなのですよ!?」
オペラティオ「城が……、溶けだしている……!?」
タルトレード「んな、バカな!城は女王の力で維持されて……、まさか……」
オペラティオ「……、」

フランシール「かまわないわ。初めからあなたが来るか来ないかなど、どうでもよかったのだから。」
ジネット「え……、」
フランシール「わたくしには、友人も王子も、必要ないのよ。」
ジネット「……、そう、だよね。」
ジネット「……ごめんね、ボク、もう行くから……。」
フランシール「……、」
フランシール「……そうよ、わたくしは1人で立たなくてはいけないの。」
フランシール「初めから間違っていたのよ。王子も友人も、女王には必要ない。必要ないの。」

フランシール「……、」
「あら、お嬢様。今日はなんだかそわそわしていらっしゃる。やはり誕生日ですものね。」
フランシール「べつに、いつもと同じよ。」
「そうでございますか?あら、お客様がいらしたようで……、」
フランシール「お出迎えに行ってくるわ!」
「まあ……。」

フランシール「……、」
フランシール「……遅い。」
「フラン!」
フランシール「……!」
「シール様!こんなところにいらっしゃったのですね!」
フランシール「……、」

「お嬢様、もう本日のお客様はみな、お帰りになられましたが……、」
フランシール「……星を見てるだけよ。あなたは休んでいいわ。」
「お嬢様……。」
フランシール「……、」

フランシール「……、」
フランシール「……、」
フランシール「星の王子さまなんて、いるはずないわね。」
フランシール「じねっとの、ばか。」

幼少ジネット「それじゃ、またね!」
フランシール「約束を破ったら、モグー1000匹食べさせるから!」
幼少ジネット「わかってるってー!」
フランシール「フーリィ!」
フードリィドール「ふゅ~?」
フランシール「帰るわよ。乗せてちょうだい。」
フードリィドール「ふゅ~!」
フランシール「ふふ……、」
フードリィドール「ふゅ~?」
フランシール「誕生日会は少し、憂鬱だったけど……、ジネットが来てくれるなら、きっとわたくしも頑張れるわ!ふふふ……。」
フードリィドール「ふゅ~?」

「では、今日はバレンティア家の歴史について。」
フランシール「はい。」
「バレンティア家は代々チョコレート・ワールドを治める王の家系であり、チョコレート色の髪が特徴的で……」
「ああ、もちろん、その他の色をした方もお生まれになってますが……」
フランシール「……、」
フランシール「かまいません。続けてちょうだい。」

フランシール(……どうして、お父さまもお母さまもチョコレート色の髪をなさっていたのにわたくしは……、こんな……)
フランシール(こんな真っ白な髪に生まれてしまったの……。これではバレンティア家の姫としても、女王としても……)
フランシール(いえ、こんな髪でも、立派な女王になればみんな認めてくれるはずよ)
フランシール(そうよ。わたくしはバレンティア家に恥じない、女王になるの)
フランシール(誰にも頼らず、何の支えがなくともひとりで立てる、立派な女王に!そうすれば、きっとみんな認めてくれる!)
ジネット「……、」
フランシール「……!」
フランシール「あ、あなた、なにをじろじろ見ているの?わたくしにかまわないでちょうだ……、」
ジネット「その髪……、」
フランシール「……、」
フランシール「たとえ髪が白くともわたくしはれっきとした……、」
ジネット「おひめさまみたいだ……。」

フランシール「『そうして星に乗って現れた王子さまは、愛するお姫さまを救い出し、いつまでも、いつまでも、幸せに暮らしたのです』」
フランシール「面白い本だったけど……、星の王子さまなんているはずないわね。」
フランシール「……さて、明日の授業に備えてもう寝なくては……。」
フランシール「あ、流れ星……。」

フランシール「ふふ……、」
フランシール「おいしいわ。」
ジネット「……フラン。」
ジネット「ずっと、このチョコレートが食べたかったの。ずっと、ずっと。」
ジネット「……ごめん、あの時に渡せなくて。」
フランシール「……約束を破ったから、モグーを1000匹食べないとね。」
ジネット「えっ……!」
ジネット「う……、フランがそれで許してくれるなら……、」
フランシール「そうしたいところだけど……、モグーはいないから、かわりにこれで許してあげる。」
ジネット「これ……。」
ジネット「……ボクも好きなチョコレートだって忘れたの?代わりにならないよ。」
フランシール「わたくしのチョコレートが食べられないというの?」
ジネット「そ、そういうわけじゃ……、……。」
ジネット「ふふふ。じゃあ、いただきます。」
フランシール「どう?おいしいでしょう?」
ジネット「うん。」
ジネット「……うん。」
フランシール「……、」
ジネット「……、城は崩れちゃったね……。レド兄たちは逃げられたかな……。」
フランシール「大丈夫よ。」
ジネット「え?」
フランシール「……わたくしの髪がホワイトチョコレートのようだと言ってくれたのは、あなたでしょう?」

ティラミスタ「ぐるるる~。」
ユウ「うう……、き、気持ち悪い……。」
メルク「ユウさんは三半規管まで軟弱なのですよ……。魔法の国でも箒酔いしたとか言ってたのです。」
ユウ「生まれつきなんだからしょうがないだろ……、うう……。」
ティラミスタ「ぐるるっ。」
ユウ「鼻で笑われた!?」
ユウ「いいだろ、どうしようもないんだから。見方を変えようぜ……。これも俺のチャームポイントってことで……、」
メルク「さすが軟弱がウリなだけあるのですよ。」
ユウ「ウッ……。」
ユウ「でも、助かってよかったよ、ありがとう……。」
メルク「そうなのですよ!あなたがいなければ、溶けだすチョコレートに流されてしまっていたのかもしれないのですよ。」
ティラミスタ「ぐるる……、」
メルク「クールなモンスターさんなのですよ……。」
ユウ「だけど……、なんで俺たちを助けてくれたんだ?その前も、俺たちを助けたり、襲って来たり……。」
ユウ「それに、いきなり城が溶けだして、かと思ったらホワイトチョコになって固まったり……、いったい何が起きたんだ?」
オペラティオ「全て女王がらみだろうな。」
メルク「オペラティオさん!それにタルトレードさんも!無事だったのですね~!」
フードリィドール「ふゅ~!」
タルトレード「こいつが乗せてくれてな。助かったが、おかげで服が綿あめだらけだ……。」
メルク「綿あめなのに、上に乗れるのですよ……?」
フードリィドール「ふゅ~!」
オペラティオ「ご苦労。」
ルナ「わふっ!」
ルナ「わぶっ!?」
オペラティオ「仮にもモンスターなら、もっと身軽に着地できないのか……。」
ルナ「わふ……、」
メルク「そういえば、女王様のことなのです。オペラティオさんは、何が起こったのかわかるのですよ?」
オペラティオ「……陛下は、女王の力を1度失われたようだ。いや、もしかすると即位なさってからずっとそうだったのかもしれない。」
ティラミスタ「ぐるる……、」
オペラティオ「しらを切るならそれでいい。とにかく、城が溶けたのは力を失って、維持できなくなったからだ。」
メルク「ではどうして、また城が立ったのですよ?」
オペラティオ「陛下の力が戻ったんだろう。」
オペラティオ「……おそらくは、こいつのチョコレートでな。」
タルトレード「……、」
オペラティオ「このモンスターがお前たちを手助けだのなんだのしてたのはこいつのチョコレートが女王を救うことをわかっていたからだろう。」
オペラティオ「それに……、あのスイーツハンターも1枚かんでいたのかもしれないな……。」
オペラティオ「タルトレード。」
タルトレード「なんだよ……」
オペラティオ「……師の顔に泥を塗らずにすんだことをほめてやる。そして……、」
オペラティオ「確かにお前は師のおっしゃる通り、俺にはない何かを持っているのかもしれない。」
タルトレード「……頭でも打ったのか。」
オペラティオ「ばかものめ。」
オペラティオ「いいか。たとえそうだとしても、次のコンテストで勝つのは俺だ。俺は俺のやり方で、俺のチョコレートを師に認めさせる。」
オペラティオ「だから……、お前はお前のやり方を忘れるな。」
タルトレード「……、」
オペラティオ「ああ、そうだ。1つ、返し忘れていた。受け取れ。」
タルトレード「何投げ……、」
ルナ「わふっ!」
タルトレード「……、」
オペラティオ「……、ばかもの……。」
オペラティオ「だから、お前と遊ぶために投げたんじゃない!タルトレードに渡せ!」
ルナ「わふ……、」
オペラティオ「……、とにかく!」
オペラティオ「ナイフは返したからな。……お前にはまだ、必要なものだろう。」
オペラティオ「ではな。」
タルトレード「って、待てよ!」
オペラティオ「……、」
タルトレード「……お前の、チョコレート……、……悔しいけど、オレには真似できねーよ。」
タルトレード「けど、……そのうち、絶対俺のチョコレートをうまいって言わせてやるからな!」
オペラティオ「……ふん。」
オペラティオ「ルナ、行くぞ。」
タルトレード「無視かよ!」
ルナ「わふっ!」
フードリィドール「ふゅ~!」
オペラティオ「なんでお前までついてくるんだ!」
フードリィドール「ふゅ~?」
タルトレード「いいか、オペラティオ!師匠と同じくらいすごいの作ってやるからな!」
フードリィドール「ふゅ~!」
オペラティオ「ええい!もう知らん!どっちも勝手にしろ!」
フードリィドール「ふゅ~!」
タルトレード「……、」

ジネット「城が……。フランの髪の色とおんなじだ……。」
ジネット「……本当に、女王さまなんだね。」
フランシール「……、」
フランシール「そうよ。わたくしは女王になるべくして生まれたのだから。」
ジネット「……もう王子さまはいらない?」
フランシール「……そうね。女王はひとりで立たなくてはならないもの。チョコレートを愛しチョコレート・ワールドを治めなくては。」
ジネット「そうだね。」
フランシール「……でも、1人ぐらいはいてくれないと、チョコレートを愛し続けることができないかもしれないわね。」
フランシール「誰かが、わたくしにとびきりおいしいチョコレートを、毎年贈ってくれないと。」
ジネット「……なら、フラン。ボクが毎年チョコレートを贈る。君が助けてほしい時は、いつだって助けてあげる。」
ジネット「だからさ。」
ジネット「ずっと、ボクだけのおひめさまでいてよ。」

タルトレード「それじゃあ、あいつにまた材料を卸してくれるよう、伝えといてくれ。」
ジネット「うん、わかった!ミル兄も喜ぶよ!」
ジネット「レド兄がチョコレートを作らなくなって、しょんぼりしてたし……。」
タルトレード「あいつ、いつもおんなじ顔してるだろ……?」
タルトレード「……まあ、いいや。それと、その……、代金は出世払いってことで……。」
ジネット「え?」
タルトレード「実はずっと店開けないでごろごろしてたせいで、金がなくてだな……、」
ジネット「ミル兄はお金よりもチョコレートで払ってほしいと思うけど……。」
ジネット「あ、じゃあ、ボクの報酬金を使ってよ!後で払うって言ったままだったし……。いくら?」
タルトレード「あ?……いや、もうもらったからいい。」
ジネット「えっ!?もしかしてボクに遠慮して……、」
タルトレード「ちげーよ!とにかく、今回の報酬は……、」
ジネット「レド兄、お金ないんだから、遠慮しなくても……、」
タルトレード「うるせー!」
タルトレード「報酬が払いたいなら、これからもオレの店でチョコレート買っていけ!んで、2人でうまそうに食ってろ!」
ジネット「なるほど!ボクたちに広告塔になってほしいってことだね!」
ジネット「さすが、レド兄!王室御用達なんて使わない手、ないもんね!」
タルトレード「って、そういうことじゃねーよ!」
メルク「タルトレードさん……、無欲なのですよ……。」
ユウ「ジャモさんもちょっとだけ見習ってくれたら……、」
ユウ「って、そうだ。ジャモさんに報告しないと……、」
ジネット「あ、そっか……。メルクちゃんたちは、そもそもチョコレートを仕入れに来たんだもんね。」
ジネット「もう輸出規制は取り下げられたし、……ここでお別れだね。」
ジネット「……ありがとう。ボクがいろんなことに気づけたのは、君たちのおかげだよ。」
メルク「ジネットさん……、」
ジネット「いつか、君たちが困ったときは、ボクを呼んで。今度はボクが、君たちを助ける番だからね。」
メルク「はいなのですよ!いつかまた、ジネットさんと会える日を楽しみにしているのです!」
ジネット「任せてよ!その時は、もっともっとすごいスイーツハンターになっておくからね!」
タルトレード「……その、……。」
ユウ「……?」
タルトレード「……いろいろ世話になった。餞別(せんべつ)だ。旅の途中で腹が減ったら、食え。」
ユウ「これって……、塩クッキーの詰め合わせ……?」
タルトレード「……ここで手に入る食べ物といや、甘いもんばっかりだからな。ま、そんなに大したもんじゃねーが、ないよりは……」
ユウ「うわあああ、塩だあああ!これで胸焼けと戦わずにすむ……!ありがとうございます、ありがとうございます!」
タルトレード「……そこまで喜ぶなんて、ホントに王国のやつらって甘いものを食い続けられねえんだな……。」
タルトレード「……けど、喜んでくれたならそれでいーや。」
ユウ「……、」
メルク「みゅ、ユウさん!ジャモさんがあそこにいるのですよ!」
ユウ「ほんとだ……」
ユウ「って、うわっ!」
メルク「ジャ、ジャモさんが……!」

ティラミスタ「……、」
フランシール「待って。」
ティラミスタ「ぐるる?」
フランシール「あなたは去る時も突然なのね。それとも、わたくしの誕生日が終わってしまったから?」
ティラミスタ「……、」
フランシール「あなたにこれを。」
ティラミスタ「ぐるる……?」
フランシール「わたくしがずっと欲しかったものよ。」
ティラミスタ「……、ぐるる。」
フランシール「ありがとう。」
ティラミスタ「ぐるる?」
フランシール「契約のことじゃないわ。」
フランシール「……わたくしの誕生日を、祝いに来てくれたことよ。」

ルナ「わふっ!」
フードリィドール「ふゅ~。」
オペラティオ「転ぶなよ。……それにしても、見事なチョコレートだ。」
オペラティオ「なにに使えばいいか、迷うなど……、初めてチョコレートを作った時以来だな。あの時は、Cランクのチョコレートだったが……、」
オペラティオ「……。」
オペラティオ「いや、チョコレートには変わりないな。師のおっしゃる通り……。」
オペラティオ「……ふん、案外俺も、あいつとそう変わらないのかもしれないな、ルナ。」
オペラティオ「……、」
オペラティオ「……ん?」
ルナ「わふ~!」
オペラティオ「チョコレートの川に溺れるプルナーがどこにいるんだ……、ばかもの……!」
フードリィドール「ふゅ~!」
オペラティオ「そしてお前は、綿あめのくせに川に飛び込むんじゃない!自力で上がれないのはわかるだろう!」
オペラティオ「ええい!そこでじっとしてろ!」
ルナ「わふ~!」
フードリィドール「ふゅ~!」
オペラティオ「泳いで遊んでるんじゃない!」
オペラティオ「待て、下手に俺に近づこうとするな!余計、チョコレートが綿あめにつくだろう!ルナ、お前は溺れながらはしゃぐな!」
オペラティオ「だからじっとしていろー!」

ジャモ「このチョコレートはおいしいじゃも~!」
ジョルジュ「そうだろそうだろ?なんたって、オレがあんたのために選んだスペシャルアソートだからな!」
ジャモ「……なんだか、喧嘩別れした兄のことを思い出したじゃもよ……。」
ジャモ「もし、違う未来があったなら、このおいしさを、兄とともに分かち合うことも、あったのかもしれないじゃもな……。」
ジャモ「それにしても、どうしてこのチョコレートはこんなにおいしいじゃも?それに、結局チョコレートの魔法とはなんだったのじゃも?」
ジョルジュ「はははは!そりゃー、答えは簡単だ。」
ジョルジュ「愛ってやつさ。」

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