第10話:全ては懸けられなくても

ユウ「ということは、あの森のお菓子だけじゃマーガレットの体質を元に戻すことはできなかったんですね……。」
ターネス「研究者が言うには、ゆるやかに戻していくしかねえらしくてな。そのためには、ひとつじゃ足りないんだと。」
メルク「では、これからどうするのですよ?」
ターネス「んー、あちこち旅しようかと思ってる。異形化した土地を探してな。」
ユウ「それじゃあ、あの森でやったみたいに……、」
ターネス「そ、俺の力で異形の土地を元に戻していく。そうしたら、モンスターからも幻の菓子を譲ってもらえるってわかったしな。」
ユウ「でも……、いいんですか?」
ターネス「いいっていいって。面倒になりそうならすぐさま逃げるし、その後のことはそこに生きてるやつらに丸投げすっから。」
ターネス「俺は俺のやりたいことをやるさ。自分勝手にな。」
ユウ「……そうですか。」
メルク「でも、異形の森はモンスターがいっぱいなのですよ。癒されてないモンスター相手にはどうするのですよ?」
ターネス「ああ、それだけどよ……、」
ホイッパー「くえっ。」
ターネス「こいつが協力してくれるってよ。どうにも、交渉上手なようだからな。こいつに交渉事は全部任せる。」
ホイッパー「くええっ。」
ユウ「その顔は、たらふくお菓子をもぎ取った顔だな……。」
ゲルトルート「ユウ、メルク。よかったよ、間に合って。」
メルク「ゲルトルートさん!」
ゲルトルート「そろそろ、この町を発つんだろう?次の町で商隊と待ち合わせをしているそうだね。」
メルク「みゅ、そうなのです!町のことで忙しいのに、わざわざ見送りに来てくれたのですよ?」
ゲルトルート「ふふふ、いろいろと手を貸してもらった相手を見送らないなんて、礼を欠いた行為はしないよ。」
ゲルトルート「といっても、もしかしたら近々、会うことになるかもしれないけどね。」
ユウ「あっ、そうか。ジャモさんの目的地はグミ・ワールドの首都だから……。」
ゲルトルート「そういうこと。ふふふ、その時までによい変装道具を仕入れておかなければね。」
メルク「パン屋のおやじさんから仕入れるのだけはやめておいた方がいいのですよ……。」
ゲルトルート「そうなのかい?チョコレート・ワールドの女王の御用達と聞いたんだけど……。」
ゲルトルート「ああそうそう。ティーガーには会ったかい?」
ユウ「あ、はい。先日の怪我でまだ寝込んでるって聞いてたので、ティーガーさんのいる宿に行ってきたんです。」
ターネス「あいつ、まだ寝込んでいたのか。」
ユウ「あれ?知らなかったんですか?」
ゲルトルート「ティーガーが、彼には知らせてくれるなというものでね。」
ユウ(そう言われたのに、その話題をここで出したのは天然なのか、ワザとなのかどっちだ……)
メルク「みゅっ、ユウさん。そろそろ時間なのですよ。」
ユウ「ほんとだ。それじゃあ、ゲルトルートさんもターネスさんも元気で……、」
ターネス「あ、これ持ってけ。」
ユウ「へっ?って、これ、白い飴……。……いいんですか?」
ターネス「ありがたく受け取っとけ。ま、もっとって言われても、やらねえけどな。」
ターネス「望まれたら望まれた分だけ与えてやらないといけねえって思ってた俺に義務と使命なんかほっとけって言ったのはお前だぜ。」
メルク「では、これは義務でも使命でもなく、ターネスさんがあげたいと思ったからくれたのですね!うれしいのですよー!」
ターネス「礼だ、礼!いろいろ手伝ってもらったからな。」
ユウ「なるほど、感謝の気持ちを換算するとターネスさんの涙2粒分……。」
ターネス「そういう測り方すんのかよ!ちげえよ、単にそれがお前らにはちょうどいいかと思っただけだ。」
ゲルトルート「うんうん、君の愛し方を私も見習わなくてはね。」
ターネス「はっ……!?」
ゲルトルート「ただ、与え、甘やかすだけでなく、愛する者が、自らの力で立てるように愛すること……、それこそが……、」
ターネス「ちょっ、姫さん、何を言い出してんだ!」
メルク「みゅっ、ターネスさんに私たちはそんなに愛されてたのですね~!照れるのですよ~!」
ターネス「恥ずかしいやつらだなァ……、ざらめ肌になるぜ。」
ターネス「ま……、愛だのなんだのはさておき、姫さんの言ってることも、今はわかるけどな。」
ユウ「……?」
ターネス「……マーガレットに食われそうになった時に、なんか、思ったんだよ。」
ターネス「今は手伝いが必要でも、いずれ、風呂も着替えもあいつひとりでできるようにならねえといけねえのと同じなんだって。」
ユウ「……、」
ターネス「その飴、使っても使わなくてもどっちでもいいぜ。なんなら捨てたっていい。使い道は、お前らに任せる。」
ユウ「うぐ、ありがたい贈り物のはずが、すごい重圧を感じる……。」
ターネス「くくく、せいぜい考えてくれ癒術士殿。」
ターネス「それじゃあな。縁があれば、また会うこともあるだろうぜ。」
ユウ「はい、それじゃあまた。」
メルク「お元気で、なのですよ~!」
ターネス「……お前ならその飴、どう使うんだろうな。」

ティーガー「……なんでお前らがここにいる。」
ターネス「いやー、誰かさんが俺には絶対知られたくないとか言ってたらしいから、それならむしろその顔を拝んでやろうかと思って。」
ターネス「で、こっちは……、」
マーガレット「……だいじょうぶ?」
ティーガー「……、」
マーガレット「けが、まーがれっとのせい。」
ティーガー「……、まあ、確かにそうだが……、……お前が悪いわけじゃない。」
ティーガー「元はといえば俺の読みの甘さのせいだしそのことについてお嬢ちゃんに謝る気はないから、お嬢ちゃんも気にするな。」
マーガレット「わかった。」
ターネス「おい、ティーガー。ちょっとはジョーソーキョウイクによさそうなことをだなァ……、」
ティーガー「意味わかってねえくせに、なにもっともらしく言ってんだ。」
ターネス「チッ、バレたか。パパ友の会で仕入れてきたっつうのに。」
ティーガー「どちらにしろ、今言ったことをくつがえすつもりはない。俺はあの時、俺がするべきことをしたと思っている。見通しが甘かったことに関しては、反省するけどな。」
ティーガー「恨むなら恨んでくれていいんだぜ。」
ターネス「別に謝ってほしい訳じゃねえし、なんか……、めんどくせえ男になったなァ。」
ティーガー「は、はあ!?俺は真剣にあの時のことを悩んで……!」
ターネス「もういいだろ、チャラで。」
ティーガー「いや、よくないだろ。」
ターネス「俺がいいって言ってんだから、いいんだよ。これ以上、うじうじされんのも面倒だし、それに……、俺が閉じ込められてた部屋の窓をブチ割ったの、お前だろ。」
ティーガー「……!」
ターネス「やっぱりな。」
ティーガー「あっ、おい!」
ターネス「なんとなくそうじゃねえかと思ったんだよ。つーか、あんなことしそうなの、お前しかいねえし。」
ターネス「だからもう、これでいいだろ。少なくとも、俺はもういい。」
ターネス「そもそも、俺がお前の頼みを引き受けたのは、誰かにそうしろと言われたからでも、そうしないといけないからでもねえ。」
ターネス「俺がそうしてやりたいって思ったからだ。自分で決めた。与える責任も、与えない責任も、俺が背負わねえとなァ。」
ターネス「……、お前だって悪い訳じゃない。」
ティーガー「ターネス……、」
ティーガー「……そう言われても、別にお前に許してもらうためにやってたわけじゃないんだが。」
ターネス「……、」
ターネス「へいへい、そうですか!チッ、腹立つ!」
ターネス「姫さまにコソコソ隠れてやってた時点でわかってたっつーの!お前はそういうやつだった、お気楽野郎!」
ティーガー「はあ!?誰がお気楽だ!」
ターネス「わかんねえからお気楽なんだよ!中途半端なのに開き直ってるのはいいとしても、そのお気楽さを俺に向けてるのが1番腹立たしいっつーの。」
ターネス「お前って昔からそうだよな!悪気なく自分勝手で、人の気持ちってもんをわかってねえ!」
ティーガー「ああ!?これでも、昔よりはかなりマシになったんだよ!というか、お前だって人のこと言えねえからな!」
ターネス「はあ!?お前よりマシだ、自己完結野郎!」
ティーガー「何が……、」
マーガレット「たあー!」
ティーガー「いっでえええ!」
ターネス「マーガレット!怪我人の上に乗んな!」
ターネス「人の嫌がることは、理由がない限りはしねえって約束しただろ!?」
ティーガー「理由があったらいいのかよ!」
マーガレット「まーがれっと、てぃーがー、きらいだもん。」
ティーガー「はっきり嫌われてたのか……。」
ターネス「恨むなら恨めって言いながら、なんで落ち込んでんだよ。」
ターネス「マーガレット、いくら嫌いでも、こいつがお前に何かしたわけじゃねえだろ?先日の件は、さっき片付いたしよ。」
マーガレット「うん。でも、いま、ぱぱとけんかした。」
ターネス「……あ?あーっと……、俺のため?」
マーガレット「ぱぱ、いたい、いやー。」
ターネス「チッ……!こういう時はどう言やいいんだ……!助けてくれ、パパ友のみんな……!」
ティーガー「いや、まずは誤解を解けよ!いだだだだ!」
マーガレット「でやー!」

マーガレット「ぱぱー、おなかすいたー!」
ターネス「おー、そうだな。ならどっかで……、」
ハロハロ「はろーはろー。」
ガトー「ターネス、今日はメレンゲとマシマロが晩菓子をふるまってくれるそうだ。」
ターネス「メレンゲたちが?」
メレンゲ「そ、そのマーガレット……、あのさ、えっと……、」
マシマロ「……メレンゲ。」
メレンゲ「う、うん。」
メレンゲ「その、ま、また一緒にあそぼーぜ!」
マーガレット「……、」
マーガレット「うん、いーよ!」
メレンゲ「……!」
マシマロ「よかったね。」
メレンゲ「う、うん……っ、ぐすっ……!」
マーガレット「どうしたの?」
メレンゲ「なんでも、ねえよ!ぐすっ、マーガレット、ごめん、ありがとう……っ!」
マーガレット「……、」
マーガレット「……まち、こわしてごめんね。」
メレンゲ「……うん。俺も、止めてやれなくてごめんな。」
マシマロ「お腹空いたら言ってね。たくさんお菓子つくるから。」
マーガレット「うん、ありがとう。」
ターネス「……、」
メレンゲ「ターネス兄ちゃんも、ちゃんと食ってくれよ!」
ターネス「俺もか?」
メレンゲ「だって……、」
町人「おっ、ターネスたちじゃねえか!ちょうどいい、できたてのクッキーをおすそ分けしてやるよ!」
ターネス「えっ?そりゃ、ありがてえ……、」
町人「あら、ターネスさん。パパは体力つけなきゃだめよ!この栄養ジャム、試してみたら?」
ターネス「ちょっ、これ食べ物の色してねえんだけど!?」
町人「こないだは助かったわ!これ、お礼のお菓子!マーガレットと一緒に食べて!」
ターネス「えっ、あ、ああ……、」
町人「ターネス!これ、作りすぎちまったんだよ。今日の晩菓子にでもしてくれ!」
ターネス「手がふさがってる俺に、さらに菓子をもたせんな!」
マーガレット「おかし、いっぱいー!」
ハロハロ「きょうはごちそう。ごーごー。」
メレンゲ「行こうぜ、ターネス兄ちゃん!俺とマシマロで腕によりをかけて作ったからさ!」
ターネス「……、ああ。」

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