第9話:怪物の理

モグマグミ「もぐるるる……、」
ユウ「なんとか、癒せた、けど……、」
モグマグミ「もぐるるるぅっ!」
ユウ「ま、待ってくれ!俺たちには、そのお菓子が必要なんだ!」
メルク「みゅ~っ、癒してこれでは交渉の余地もないみたいなのですよ!」
ユウ「森やモンスターにとっても大事なお菓子なのか……、」
モグマグミ「もぐるるるっ!」
マーガレット「かみさま。」
メルク「で、でも、そう急がなくても、マーガレットさんはモンスターから私たちを助けてくれたのです。もしかして、我に返ったのかも……、」
マーガレット「うぐっ……、」
マーガレット「はー……、はー……。」
ターネス「マーガレット、お前、腹減ってるのに全力で戦ったから……!」
ターネス(いや……、違う)
ターネス(こいつは、町でそれなりの量のエネルギーを吸ったはず。それに、腹が減ってるなら、この土地から吸い取ればいい。それをしないっていうのは……、)
マーガレット「かみさまぁ……。」
ターネス「……!」
マーガレット「たりない、たりない……。おなかすいた。かみさま、おなかすいた……。」
メルク「ターネスさん!逃げるのですよ!」
ターネス「んなこと言ったって、どこに逃げ場が……!」
マーガレット「……じゃ、ま……。」
ユウ「うあっ!」
ターネス「ユウ、メルク!」
マーガレット「はーっ、はーっ……。」
ターネス「……その腹の減りよう、お前、もう土地からエネルギーを取れないのか。俺の涙を、食ったから。」
マーガレット「たりない……。」
マーガレット「たりない……っ!」
「ぐっ……!」

マーガレット「かみさまぁ……、おなかすいた。」

ターネス「お前、そんな顔するのか。」
ターネス(……、似ている)
ターネス(ティーガーが、町を救ってくれと俺に頼みに来た時の顔に。どうしようもなくて、必死で、飴糸にも縋るような)
ターネス(それで、俺は。母さんたちに、絶対にしてはいけないと言われていたのに、涙の飴を、森に撒いた)
ターネス(あいつのことが、村のみんなが、好きだったから)
ターネス(そうだ。そうだった)
ターネス(いつの間にか、また、もってたじゃねえか。やりたくないことを覆すほどの何かってやつを)

ターネス「……しょうがねえなァ。」
ターネス「わかったよ。かみさまになってやる。責任、とりたくなっちまったから、さあ。」
ターネス「……俺がいなくても、ちゃんと着替えも風呂も、ひとりでできるようになれよ。」

「いっ!」
メルク「ターネスさん……っ!」
ターネス「く、くくっ、はは、あははははは!」
メルク「ターネスさん……?」
マーガレット「あむあむ……、」
ターネス「こら、首を舐めるな……っ、ひっ、あはははははっ!」
メルク「みゅっ!涙が、飴に……!」
マーガレット「はぐっ!あぐあぐばりばり!」
ターネス「……、マーガレット、なんで……、」
マーガレット「……。」
マーガレット「ぱぱ!」
ターネス「……、」
ターネス「パパァ!?えっ、俺?」
マーガレット「ぱぱー!」
ターネス「神さまじゃねえのかよ!」
マーガレット「かみさま、いらない。」
ターネス「はあ!?」
マーガレット「まーがれっとは、ぱぱがすきだから!」
ターネス「……、」
ターネス「んだよそれ……、」
ターネス「なんだよそれーっ!」
マーガレット「きゃーっ!ぎゅー、すきー!」
ターネス「んなこと言われたら、もっと好きになっちまうだろ、バカヤロー!」
ガトー「食われかけたというのに、のんきなものだな。」
ターネス「……!ガトー……、」
ターネス「その、マーガレットは……、」
ガトー「俺はお前が大人しく食われるために、送り出したわけではなかったのだがな。」
ターネス「いやー……、別に投げやりになってたわけじゃなくてだな。後であんたたちが、森の菓子をどうにかマーガレットに食わせてくれると思って……、」
ガトー「そうか。」
ターネス「……、さすがにわかってる。悪かったな。」
ガトー「……ふん、この場でこれ以上の無粋はやめておこう。」
ガトー「無事で安心した。お前も、マーガレットも。」
ハロハロ「めでたしめでたし。」

ゲルトルート「おや、これはこれは……、」
ティーガー「暴走は収まった、のか……。」
ゲルトルート「……理性を得たんだろうね。」
ティーガー「理性?」
ゲルトルート「愛と言い換えたっていい。……ふふふ、驚いたな。食欲という、生物の最も根源的な欲望を抑え込むなんて。」
ゲルトルート「そして、あの欲求の塊のような子どもに愛を気づかせるなんてね。私の愛も、まだまだかな。」
ゲルトルート「……いや、愛し方の問題か。」
ティーガー「姫さま……、」
ティーガー「……それなら、俺たちだっておあいこですよ。姫さまが城下町に降りる時は、どれだけ意味のない変装でも気づかないふりをしようって打ち合わせてあったんです。」
ゲルトルート「……、」
ゲルトルート「そうか。」
ティーガー「おかげで姫さまの、お粗末な影武者にも気づかない天然な性格と世間知らずに拍車がかかっちまいました。」
ゲルトルート「それは困ったね。」
ティーガー「……失望しましたか。」
ゲルトルート「いいや。……ますます愛おしくなったよ。」
ゲルトルート「だけど、今のまま甘やかされていては、私もこれ以上、成長できないね。うん……、決めたよ。」
ゲルトルート「手始めに、これからは私の変装を見破ったらその時点で教えてくれ。その次は、さらに完璧な変装をしてみせよう。」
ティーガー「……いいっすよ。なら、姫さまも部下の秘密を見逃すのはやめてくださいよ。ターネスのこと、気づいていたでしょう。」
ゲルトルート「いいのかい?といっても、もうそういうのはやめると決めたけれど。」
ティーガー「姫さまに気づかれるようなやり方しかできなかった俺がまずかったんです。次は、誰にも気づかれないよう、もっとうまくやりますよ。」
ゲルトルート「ううん、それを私の目の前で宣言されるのはなんというか、複雑な気分だね……。」
ゲルトルート「まあ、私がお前を上回るほどの器量を身につければいいだけの話か。」
ティーガー「ははは、愛を感じますね。」

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