第8話:無垢なる飢餓

マーガレット「おなかすいた……。たりない、もっと……、」
マーガレット「もっと……。」
メレンゲ「うわああっ!」
マシマロ「……っ、」
メレンゲ「マシマロ、大丈夫か!?」
マシマロ「……うん。でも、マーガレットが……、」
メレンゲ「……あれ、ほんとにマーガレットなのか?あいつ、いったいどうしちゃったんだよ……!」
マシマロ「わからない。でも、マーガレットが町をしぼませてる。」
マーガレット「たりない、たりない……。」
メレンゲ「やめろよ!それ以上、町が壊れたら……、」
マシマロ「メレンゲ、矢が降ってくる……!」
メレンゲ「へ……!?」
ティーガー「っと……!降り注ぐ矢、しかも残数無限とは……、やっかいな相手だな……!」
メレンゲ「あっ……、」
ティーガー「危機一髪だったな、お2人さん。」
メレンゲ「あ、ありがとう……。」
ゲルトルート「きみたちも早く避難を。行くよ、ティーガー!」
ティーガー「はいよ!」
マーガレット「おなかすいた……。」
メレンゲ「おれ……、こわいよ。なあ、あいつはほんとにマーガレットなのか?あんなの、おれたちの知ってるマーガレットじゃないよ!」
マシマロ「……。」

ユウ「町がボロボロだ……。」
メルク「見るのですよ!ゲルトルートさんたちが戦ってるのです!戦ってる相手は……、」
マーガレット「……、」
ターネス「マーガレット!?なんで……、」
ティーガー「ぐっ……!」
メルク「ティーガーさん!大丈夫なのです!?ひどいケガなのですよ……!」
ティーガー「はは、あのお嬢ちゃんの髪だかグミだかに苦戦しててな。あの姫さんでも、攻撃をいなして町から注意をそらすのが精いっぱいだ。」
マーガレット「……もっと。」
ゲルトルート「どこへ行くつもりかな。これ以上、町を壊させるわけにはいかないんだ。」
マーガレット「おなかすいた……。」
ティーガー「空腹で正気を失っちまってる……。」
ターネス「なっ……、腹いっぱいに食わせるって言ってただろ。」
ティーガー「悪い、俺の見立てが甘かったんだ。お嬢ちゃんは、異形の森で土地から直接エネルギーを吸収していた。」
ティーガー「いくら菓子を休みなく食べ続けたところで、口から摂取し、消化してたんじゃ、エネルギーとして吸収するまでの効率が悪すぎる。」
ティーガー「そして、あの華奢な体だ。腹に入れられる量もそう多くはねえ。」
ティーガー「高カロリーのものを用意すれば、しばらくはしのげるかと思っていたが……、それだけじゃ、お嬢ちゃんの空腹を満たせなかった。」
ティーガー「それこそ、もっと常識外れのエネルギーの塊じゃねえと。」
ターネス「……、」
ティーガー「悪いな、ターネス……。お嬢ちゃんは、すでにかなりの量の町のエネルギーを吸ってるはずだ。」
ティーガー「それなのに、止まらねえってことは……、極限の空腹による暴走だ。」
ティーガー「今まで通り腹が満たされても、食えるうちに食えとばかりにもっともっとと食い続けてるのかもしれねえ。そうだとすれば、もう、力づくで止めるしかない。」
ターネス「……それで、お前は俺にどうしろって?」
ティーガー「……あのお嬢ちゃんに見つからねえように逃げろ。」
ターネス「な……、」
ティーガー「お嬢ちゃんにとって、お前は都合のいい餌だ。今の状態のお嬢ちゃんに見つかれば、涙1粒どころか、丸ごと食われるのが目に見えてる。」
ターネス「……それで、マーガレットもお前たちも置いて、俺ひとり、逃げろって?……はは、俺は、お前のことがわからなくなってきた。」
ティーガー「……、今回のことは俺の責任だ。」
ティーガー「いや、昔のこともだな。」
ティーガー「お前は何も悪くない。お前を神さまに仕立て上げて、もっともっとと求め続けたやつらが……、」
ティーガー「俺たちが悪いんだ。お前は人間だ。」
ティーガー「ただお前を利用するやつらのために神さまみたいに慈悲の心で全てを捨てられなくて、自分を守るために逃げて、それが当然なんだよ。」
ターネス「……、」
ターネス「ふざっけんなよ。ぶん殴るぞ、テメェ!お前がそれを言うのか、今更!」
ターネス「お前らが散々、義務だの使命だの言ってくれたせいで、何をするにもその言葉ばかり思い出す!」
ターネス「おかげで、この場から逃げ出すこともできねえ……!義務と使命に背く、つまらねえ罪悪感でな!」
ティーガー「……、」
ターネス「……っ、だからって、神さまにもなれねえがな。」
ガトー「ターネス。」
ターネス「……、」
ターネス「……なんだよ、ガトー。」
ガトー「異形の森へ行け。」
ターネス「……は?」
ガトー「幻の菓子を手に入れて来い。加工の仕方はお前がよく知っているだろう。そして、それをマーガレットに食べさせろ。」
ガトー「幻の菓子のエネルギーなら、今の状態のマーガレットも正気に戻るかもしれん。」
ターネス「なっ……、あんた、今の話……、」
ガトー「何を呆けている。急げ、俺もマーガレットを押さえるよう努めるが、いつまで持つかわからん。」
メルク「みゅっ!?」
ハロハロ「はろはろ?きみのすてきなおへんじきかせてほしいな。」
マーガレット「……。」
メルク「ハロハロさんがいつのまにか参戦してるのですよ!?」
ガトー「あいつ……、」
ガトー「とにかく、わかったな、ターネス。俺とハロハロで、どうにかマーガレットがこれ以上被害を増やさないよう止めてはみよう。」
ガトー「だからお前は……、」
ターネス「ガトー、聞いてなかったのかよ。あんたたちがそんなことしなくても、俺があいつに食われれば今すぐ収まるかもしれないんだぜ。」
ガトー「……ターネス、お前にははっきり言わねばわからないし、はっきり言ってもわからないだろうから、これまで言わなかったが。」
ガトー「お前の体質のことは、町の者の多くが気づいていた。」
ターネス「……、は?」
ガトー「考えても見ろ、汗が金平糖になるんだぞ。数回ならともかく、何度もあった相手だ。気づかない方がおかしいだろう。」
ターネス「……、」
ターネス「なら、なんで、俺を閉じ込めようとしなかった。」
ターネス「あんたたちはみんな、俺が旅に出るたび、別れは惜しめど、引き止めようともしなかった。誰も、異形の森を治してくれとも言わなかった。」
ターネス「……なんでだ。んなの、俺は知らねえ……。そういうのは、知らねえよ……!」
ガトー「そういうと思ったから、言わなかったんだ。」
ターネス「はあ!?なんだよ、それ……!」
ターネス「なんだよ……、なんで……、なんで今更……。」
ガトー「行け、ターネス。お前が信じようが信じまいが、俺たちのやることは変わらない。」
ターネス「……、」
ユウ「ターネスさん、乗ってください!」
ホイッパー「くえっ!」
ターネス「そのモンスター……!」
メルク「ユウさんがさっきよんだのです!異形の森まで、最速で泳いでくれるそうなのですよ!」
ホイッパー「くええ。」
ターネス「……。」
ユウ「どうしますか?……行き先、変えられますけど。」
ターネス「……、今のままでいい。今のままで、最速で、頼む!」
ホイッパー「くええええっ!」
ターネス「……。」
ターネス「……くそっ。」

マーガレット「……、」
ガトー「く……、これだけの人数でかかっても、押さえきれないとは。」
ゲルトルート「力づくで止めるどころの話じゃなかったか。」
マーガレット「……?」
ガトー「……なんだ?急にしゃがみこんで……。」
マーガレット「……かみさま。」
ゲルトルート「あれは……、白い飴?」
マーガレット「かみさま……、かみさま……。」
ゲルトルート「なっ、待て!」
ガトー「まずい……!ターネスを追ったのか……!俺たちも追いかけるぞ!」

ホイッパー「くえええっ!」
ターネス「この先だ!」
ユウ「それにしても、さっきまではあんなにモンスターがいたのに、このあたりにはあまりいませんね……。」
メルク「なんだか不気味な静けさなのですよ……。」
ターネス「それは……、」
ターネス「チッ!そうか、あいつがいるからだ……!」
ユウ「あいつって……、」
メルク「ユウさん、ターネスさん!あの光ってるのが、幻のお菓子なのですよ!?」
ターネス「ああ、あれが……、」
ホイッパー「くえっ!」
ユウ「うわっ!ど、どうしたんだ、いきなり止まって……、」
ホイッパー「くえええ……っ!」
メルク「ユウさん、み、見るのですよ。」
ターネス「……あいつってのは、こいつのことだよ。」
ユウ「……、」
モグマグミ「モグルルァアアアアッ!」
ターネス「……チッ、駄目だ!俺たちだけじゃ、真正面から挑める相手じゃねえ!」
ユウ「なら、俺たちがホイッパーに乗って注意をひきつけますから!その間に、ターネスさんは……、」
モグマグミ「モグルルウアアッ!」
メルク「は、早いのですよ……っ!」
ターネス「まずい、逃げられな……、」
「かみさま!」
モグマグミ「モグルルルアアッ!?」
ターネス「へ?」
マーガレット「ふふふ、ふ。かみさま……。」
ターネス「マーガレット……。」

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