第1話:逃亡と邂逅

メルク「みゅー、賑やかな町なのですよー!」
ユウ「常夏の国でも結構大きな港町だって、ジャモさんが言ってたな……。人通りも多いし、商船もたくさん泊まってるみたいだ。」
メルク「この町にはどれくらい居る予定なのですよ?」
ユウ「少なくとも数日はいるって聞いたけど……。なんでも他の国の商人と情報交換とか、いろいろ用事があるらしい。」
メルク「そうなのです!?それなら出発までは観光してていいのですよ!?」
ユウ「まあ、こんな町中でモンスターが襲ってくるとは思えないしな。ジャモさんも好きに過ごしてていいって言ってたし。」
メルク「やったーなのです!そうと分かれば、さっそく観光に繰り出すのですよ!」
ユウ「そうだな……、」
ユウ「って、うわっ!?」
ユウ「いたた……、な、なんだ?」
?(セオドア)「……!す、すまない。先を急いでいて……、」
「……!……!」
?(セオドア)「もう追っ手が……、」
ユウ「……よくわからないけど、何かから逃げてるのか?」
?(セオドア)「あ、ああ……。」
メルク「それなら早く隠れるのですよ!ここは私たちがごまかすのです!」
?(セオドア)「……どうしてそこまで……、」
メルク「話はあとなのです、先に隠れるのですよ!」
?(セオドア)「わ、わかった……!」
「いたぞー!!」
ユウ「って、隠れる間もなく見つかったぞ!?」
メルク「こうなったら……、」
メルク「に、逃げるのですよー!」
?(セオドア)「……!」
ユウ「ちょ、何ぼーっと立ってるんだよ!逃げるんじゃないのか?」
?(セオドア)「あ、ああ……。」
ユウ「なら、早く行こう!」
?(セオドア)「わ、わかった……!」

ユウ「と、とりあえず、ここに隠れよう……。はあ、つ、疲れた……。」
メルク「ユウさん、情けないのですよー。ユウさんと同じ年頃のこの方は全然……、」
?(セオドア)「……。」
メルク「し、しっかりするのですよー!?」
?(セオドア)「……こんなに走ったの、初めてだ……。」
メルク「ユウさんより貧弱な人を初めて見た気がするのですよ……。」
?(セオドア)「し、仕方がないだろう……。僕は体を動かすのは嫌いなんだ……。」
ユウ「……それにしても、どうして逃げてたんだ?」
?(セオドア)「……鳥が、見えたから……。」
ユウ「え?」
?(セオドア)「ふと空を見上げたら、鳥が飛んでいて……、僕の上に影を落として、青い空に大きく羽ばたいてた。」
?(セオドア)「鳥なんて見慣れているはずなのに、どうしてか目が離せないんだ。」
?(セオドア)「そうしてその姿が太陽と重なって、まぶしさに目を閉じた一瞬のうちに……、鳥はもういなくなっていた。」
ユウ「えっと……、」
?(セオドア)「……あ、すまない。僕は詩や空想小説が好きなんだ。そのせいか、つい影響を受けてしまって……、」
メルク「みゅー、詩人になれそうなのですよ!」
?(セオドア)「はは、それもいいかもしれないな。」
?(セオドア)「……けど、僕の将来はもう決まってるから。」
ユウ「え?」
?(セオドア)「僕の父は、海軍の中将なんだ。父はその後を継がせようとしている。」
?(セオドア)「……あと数週間もすれば士官学校さ。」
?(セオドア)「そのあとはもう父の用意したコースを走るだけだ。卒業したら海軍に入って、父の計らいで昇進して……。」
?(セオドア)「こんなに恵まれているのに家から逃げるなんて……、僕はどうかしてるな。正義を貫く光栄な仕事なのに……。」
?(セオドア)「巻き込んで申し訳なかった。僕は……、」
メルク「みゅ、待つのです!誰か来たのですよ!」
?(ヨー)「お、ソロ!食料の調達は終わったのか?」
ソロ「あったりめえよ!ヨーの方こそ、弾の補給はうまくいったのかよ?」
ヨー「おうともさ。ちょっとばかし値は張ったが、いい弾だぜ!」
ソロ「そりゃあ上々だ!なんでも次の目的地は宝の島だって言うからな、うまい飯といい弾は外せねえってもんだ。」
ヨー「それにしても、まさか海軍がお宝を隠し持っているとは、思いもよらなかったぜ。」
ソロ「そうかあ?俺はいつかこんなことがあるんじゃないかとガキの頃から思ってたさ!」
ヨー「ウソつけ!前もそんなこと言ってただろ!」
ソロ「う、ウソじゃねーし!」
ソロ「……ま、まあともかく?さっさと船に戻ろうぜ。」
ソロ「この町には船長の因縁の相手がいるからな。あんまり長居はしたくねえってよ。」
ヨー「因縁の相手?」
ソロ「お前、知らないのか?エストレシアっつー、おっかない海軍だよ!」
ソロ「どういうわけかしらねえが、船長にご執心でな。いつもしつこく追ってくるのさ。」
ソロ「銃の腕は一流で、そこらの男じゃまずかなわねえ。」
ソロ「俺も昔、船長を守るためにあいつと一騎打ちをしてな。その時に土手っ腹に一発食らったが、俺は倒れなかった。船長を守るという崇高な意志が……、」
?(メティエ)「ハ、その傷はテメェが入ってきたばっかりの頃にうっかり転んでできた傷だろうが。誰がその傷、縫ってやったと思ってやがる。」
ソロ、ヨー「メ、メティエ姐さん!」
ヨー「またウソかー!」
ソロ「う、うっせぇ!」
メティエ「ンなこたどうでもいいんだよ。」
メティエ「こんなところで無駄話してるってことは、もちろん仕事は終わってんだろうな?」
ソロ「は、はい!」
ヨー「あとは積み込むだけです!」
メティエ「おいおい、まだお使いの途中じゃねーか。さっさと積み込んできな。」
メティエ「テメェらのせいで出航が遅れたら、酒場でショーに出てもらうからな。」
メティエ「なに、頭にリンゴ乗せてジッとしているだけの簡単な役だ。ま、リンゴの汁にまみれるか、別のもんにまみれるかは運次第だがな。」
ソロ、ヨー「は、はいいいい!」
メティエ「わかったらさっさと……、」
メティエ「待て。」
ソロ、ヨー「は、はい……?」
メルク、ユウ、?(セオドア)「……。」
メティエ「チッ、ネズミだ。」
ユウ「……!?」
メルク「か、顔のよこにナイフが……!」
ソロ、ヨー「ヒュー!姐さんのナイフ投げは世界一いい!」
メティエ「その世界一位の腕を自分の身で試したくなけりゃ、そこに隠れてるネズミどもを船まで連れてきな。話を聞かれた。」
ソロ、ヨー「アイアイサー!」
メティエ「うかつに外でぺらぺら喋ってたテメェらのお仕置きはそのあとだ。」
ソロ、ヨー「ア、アイアイサー……。」

メティエ「それで?あそこにいたのは偶然で、聞いた話も漏らすつもりはないと?」
ユウ「そ、そうです!それに、話を盗み聞きするつもりなんてなかったんです!」
メティエ「なるほどなるほど?そいつがマジな話なら、まあ逃がしてやっても構いやしねえ。」
メティエ「……だが、そのためには信用が必要だ。信用ってのは積み重ねだ。少なくともあたしはそう思ってる。」
メティエ「しかし、あたしたちの間になにかあるか?いいや、なにもない。」
メティエ「本当にテメェらが海軍にチクらねえっていう信用にたるものが何ひとつありゃしねえ。」
メティエ「……さァて、どうしたもんかな。」
ユウ、?(セオドア)「……。」
ソロ「……姐さんも人が悪いぜ。初めから考えるつもりなんてねーのに。」
ヨー「なあ、どうせ船長の決定に従うっていうのに……。」
リベルディ「……なんの騒ぎだ?」
ソロ、ヨー「船長!」
メティエ「ハァイ、船長。ようやくのお出ましか。ごきげんの方はいかがなもんだい?」
リベルディ「眠い。……そいつらは?」
メティエ「そこのタコスケどもが外で次の目的地を話してやがった。それを聞かれたのさ。」
メティエ「どうする船長。アンタ次第だぜ。」
リベルディ「……んー。」
ユウ、?(セオドア)「……!」
リベルディ「……眠くて頭が回らん。あとで考える。」
メティエ「オイ、またか!チッ、あの寝坊助。いい加減にしろ。」
メティエ「ここには長いこといられねえってのに、保留じゃ外に放り出すこともできやしねえ。」
メティエ「だがまあ、船長が一眠りするくらいの時間は……、」
ソロ「大変です!今見張りから、海軍に動きがあったとの報告がきやした!町中で海兵の姿が見えると!」
メティエ「……ああ?妙だな……。……だが、考えてる暇もねえか。」
メティエ「ソロ。船員が全員いるか確認して、出航の準備だ。あたしは船長を叩き起してくる。」
メティエ「船長がノーと言わないことを祈るぜ。」
ソロ「アイアイサー!」
ユウ「一体何が……。」
?(セオドア)「……。」
メティエ「ヨー、テメェはここでネズミの監視だ。抜かるなよ。」
ヨー「アイアイサー!」

ヨー「……、あー、まあ。その、船長も姐さんも悪いお人じゃねえからさ。」
ヨー「だから大人しくしときゃあ、悪いようにはしねえって。」
ユウ「あ、ああ……。」
ヨー「お、船が動き出したな。……しっかし、なんだって海軍が動き出したのかね。」
ヨー「お前らも災難だなあ。船長の気分次第じゃあ、無事に港に返してやれたかもしれねえのに。」
ヨー「出航しちまったからには、しばらくは船旅に付き合ってもらうことになりそうだぜ。」
?(セオドア)「……。」
ユウ「どうかしたのか?」
?(セオドア)「……いや、その……。」
ヨー「……?なんか外が騒がしいな……。」
シェルプシ「プウ……!」
ヨー「うわあッ!?」
メルク「モンスターなのですよ!?」
ヨー「船の中にまで……!」
ヨー「ここらは癒されたモンスターばかりだったっていうのに、どうなってんだよ~!」
ユウ「……と、とにかく、モンスター癒すのが俺の仕事だ。」
メルク「緊急事態なのです、疑問も海賊のこともとりあえずは後回しなのですよ!」
?(セオドア)「……癒術士……?」

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