第1話:傾城

やまぶき「随分な賑わいぶりだな。和の国一の花街の名は、伊達じゃあないってことか。」
くろとび「……主、あんまり変なマネはしないでくださいよ。だいたいろくな護衛もつけずに1人で他家の領地に出かけるなんて、何考えてんですか。」
やまぶき「護衛ならお前がいるだろう。それに、ぞろぞろ手下を引き連れて花街観光など無粋にもほどがある。」
やまぶき「……なに、ここは和の国中の男が1度は来たいと夢見る夜の街だ。俺のように身分を隠して訪れる者少なくなかろうさ。」
くろとび「まったく、よすけさんからも、あんまり長居はしないように言われてるんですから、そこそこで切り上げて……、」
やまぶき「わかってるわかってる。お前まであいつみたいに口うるさくするな。そういう役はあいつ1人で十分だ。」
くろとび「別に俺は……、」
くろとび「……。」
櫛売り「よう、旦那~!」
櫛売り「……って、あり?今、ここに誰かいやしませんでしたかい?」
やまぶき「さてな。それより、何か用か?」
櫛売り「ああ、そうですそうです。その立派な御姿!もしやさぞかし名のある御方じゃあ、ありませんかい?」
櫛売り「あいや、あっしもここで長いこと櫛売りをさせていただいておりやす。もちろん旦那の素性を知ろうなんて野暮なこたぁ言いやせん。」
やまぶき「ほう?それなら用向きはなんだ?」
櫛売り「へへぇ、旦那ほどのお方がこの街にいるってぇこたぁ、お目当ての華でもいらっしゃるんじゃあ、ありやせんか?」
櫛売り「そこでですね、あっしがこの常夜の街に旦那の恋の華を咲かすべくささやかながらお手伝いをさせて頂こうかと……、」
やまぶき「なるほどな。だが、あいにく未だ恋などというものに身を焦がしたことはなくてな。」
やまぶき「その櫛を買ったところで……、」
やまぶき「なんだ?あの人だかりは……。」
櫛売り「ありゃあ、この街……、いや!この国1番の妓女(ぎじょ)。みおぎ太夫の顔見世を待ってんでさ。」
やまぶき「みおぎ太夫?」
櫛売り「そうでさ。かつては潰れかけだったよもぎ屋を、あの太夫1人で立て直した傾城(けいせい)の美女!」
櫛売り「いつも物憂げな顔をして、振られた男は数知れず。だがそれがいいって男が、我こそはってぇ、また貢ぎにいくんでさ。」
櫛売り「どうです、旦那もおひとつ挑戦してみちゃあ!旦那ほどの色男とあっちゃあ、あの太夫も骨抜きになること間違いなしでさ!」
櫛売り「なにこの櫛をちょいと贈ってやりゃあ、すぐさま……、」
櫛売り「おや、みおぎ太夫のお出ましでさ!」
やまぶき「……、」
みおぎ「……。」
みおぎ「……。」
やまぶき「……。」
櫛売り「はああ……、いつみてもこの世のものとは思えねえ……。ね、旦那?」
櫛売り「……旦那?」
やまぶき「……。」
やまぶき「……ずきゅんと来たぜ……。」
櫛売り「……は?」
やまぶき「櫛売りよ、あの太夫に合う櫛を見せろ。いい値で買おう。」
櫛売り「ま、まさか旦那、本気であの太夫に惚れちまったんじゃあ……。」
櫛売り「わ、悪いことは言いやせん!遊びで留めておくが吉でさ!本気になっちまえば、破産しちまいやすよ!」
やまぶき「ふ、俺は欲しいものは全て手に入れる。たとえそれが、何であろうとな。」
櫛売り「だ、旦那~!」
くろとび「……や、やな予感……。」

ユウ「そろそろ村に着くはずだな……。」
メルク「その割には、なんだかモンスターの数も多いような気がするのですよ。」
ユウ「それもそうだよな……。」
商人・ジャモ「このあたりを治める九子那(くしな)家で、跡継ぎ問題が起きているとの噂じゃも。」
ユウ「跡継ぎ問題?」
商人・ジャモ「そうじゃも。今の九子那家の当主はもう結構な年じゃもからそろそろ後継を決めねばならんのだが、どうにもその当主の息子に問題があるらしいじゃも。」
商人・ジャモ「わしもよくは知らないじゃもが、家出したとか、天狗にさらわれて行方不明とか、病弱で寝たきりだとか、いろいろ噂が立ってるじゃも。」
商人・ジャモ「共通して言えるのは、誰も当主の息子の姿を見たことがないということじゃも。」
ユウ「なるほど……。それでモンスター対策に手が回ってないってことなのか……。」
メルク「私たちの目的地は、その九子那家の治めている土地ではないのです?」
商人・ジャモ「キャラバンの目的地は、その隣、須佐(すさ)の地にある、黄金の街と呼ばれるところじゃも。」
メルク「こ、黄金なのですよ!?」
商人・ジャモ「別に街が黄金でできているわけではないじゃもよ。あまりにも栄えている街ゆえに、そう呼ばれているだけじゃも。」
メルク「……そうなのですよ。」
商人・ジャモ「かつてはそんなに有名なわけでもなかったじゃもが、やまぶき、という名の新しい当主を迎えてから、急激に発展した地じゃも。」
商人・ジャモ「商業が特に盛んで、今、和の国で最も金のある地はそこだと言われているじゃも。」
ユウ「当主の人がとても有能ってことですか?」
商人・ジャモ「そうじゃも。これまでの当主の中でも1番の才覚を持つといわれているじゃも。」
メルク「す、すごい人なのですよ~。」
商人・ジャモ「ただ、とてつもなく強欲との噂も聞くじゃも。といっても、本当のところはわからないじゃもが……。」
ユウ「ハーシュさんといい、すごい人がたくさんいるんだな……。」
メルク「なのですよ~、……みゅ?」
ユウ「メルク?」
メルク「ユウさん、大変なのです!あそこで誰かがモンスターに囲まれているのですよ~!」

シャグマル「フルルルル……!」
村娘「か、笠のお兄ちゃん……!」
?(しぐれ)「大丈夫です、あなたは僕がまもりますから……!」
シャグマル「フルルルルッ!」
?(しぐれ)「……ッ!」
ユウ「大丈夫か!?」
?(しぐれ)「あなたたちは……?」

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