第10話:夢の浮橋を渡って

みおぎ「……、」
こうめ「……みおぎ様、どうして悲しいお顔をされているのですか?あの大蛇は癒やされました。みおぎ様は、もういなくならないでいいのに……。」
みおぎ「……、わからないの。ずっと、どうしようもないことだと思っていたから。今が、夢なのか、現実なのか、わからないの。」
こうめ「みおぎ様……。」
こうめ「……夢じゃないですよ。だって、もう夜は終わったんですから。夢見る時間は、終わりですよ。」
みおぎ「そう……。」
みおぎ「……ずっと、あの常夜の町で、夢を見ていたの。つかの間と知りつつ、夢だということを忘れるくらい、あなたと過ごすのが楽しかった。」
こうめ「……こうめのこと、好きでしたか?」
みおぎ「ええ。」
みおぎ「本当の妹みたいだった。わたくしに、家族ができたみたいだった。」
みおぎ「……だから、何よりも守ってあげたかった。あなたのためなら、あの大蛇と湖の底で夢のない眠りについたってかまわないと思ってた。」
みおぎ「でも、本当は……、花街に訪れる殿方が名残惜しむ別れのように、ずっと一緒にいたいなんて、そんなことを思っていたの。」
みおぎ「こうめ、……ありがとう、わたくしを止めてくれて。わたくしを、好きでいてくれて。」
こうめ「み、みおぎ様……、こうめは、こうめはみおぎ様のお役に立てましたか……?ご恩を、お返しできましたか……?」
みおぎ「……、ええ。小さな、わたくしの家族。誰よりもあなたを愛しているわ。」
みおぎ「わたくしを助けてくれて、ありがとう。」

メルク「そういえば、くろとびさんの上司の、ええと、やまぶきさんの恋の行方はどうなったのですよ?」
ユウ「ああ、みおぎさんにアタックしてるって聞いたけど。」
くろとび「それが……、」
メルク「な、なにかあったのですよ!?」
くろとび「文通から始めるらしい。」
メルク、ユウ「文通……?」
くろとび「あれでうちの主も初恋らしいし、意外と奥手なんだよなあ……。」
メルク「人は見かけによらないですよ……。」
くろとび「……、さてと、俺ももういかないと。」
メルク「そうなのですよ?」
くろとび「みおぎ太夫とお近づきになれても、人使いが荒いのは変わらないんだよ。」
くろとび「あの大蛇がみおぎ様に毎夜花を届けに来るって聞いて、今度は珍しい花を摘んで来いってさ。」
くろとび「……ユウたちは明日出発なんだよな。」
ユウ「ああ。」
くろとび「……もし、何かあれば俺を呼んでくれ。できる限りのことは、協力するから。」
ユウ「え?」
くろとび「お前とあのオカッパにはいろいろ世話になったし、まだ、礼もしてなかったから。」
くろとび「……一応、恩返しってやつだ。」
ユウ「……、」
ユウ「ありがとう。」
くろとび「……じゃあ、元気でやれよな。」

よすけ「……しかし、よかったのですか?」
やまぶき「何がだ?」
よすけ「九子那の嫡男はみおぎ様誘拐の……、」
やまぶき「そのみおぎが許せというのだ。しょうがないだろう。」
よすけ「だからといってわざわざ同盟を結んで、さらにあれこれ世話を焼いてやる必要は……、」
やまぶき「みおぎの住む地だぞ。侵略などできるか!」
やまぶき「それに、同盟を結んだ以上、あの地には須佐にふさわしい地になってもらわねばならん。」
やまぶき「……あと、大蛇と戦った時に少々借りもできたしな……。」
よすけ「……主。申し上げますが、少々みおぎ様にうつつをぬかしすぎでは……?」
よすけ「毎夜毎夜、文通内容を考えて夜更ししてるせいで、朝議で居眠りしてるの知ってるんですよ。」
よすけ「足が治ったばかりのくろとびにはあちこちに花を探しに行かせるし……。だいたい、やまぶき様は……、」
やまぶき「お前、前にもまして小言がうるさくなったなあ。」
よすけ「それが、私の今の役目と存じまして。」
やまぶき「……。」
やまぶき「ふん、まあいい。心配はするな。」
やまぶき「言っただろう。須佐もみおぎも、お前も、あいつも、すべて背負ってやると。何1つ、手放したりはせん。」
よすけ「……でしたら、明日の朝議はちゃんと起きていてくださいね。」
やまぶき「……。」

しぐれ「……うーん……、やまぶき殿から出された課題が解けない……。」
ごんのすけ「ふむ……、この場合はこうするのでは……、」
しぐれ「いや、それでは……、」
ごんのすけ「うーむ……。」
いろは「やっほー、しぐれ様っ!奥様から甘味もらってきたよ~って……、」
いろは「また課題?息抜きしようよ~。」
しぐれ「早く一人前の跡継ぎとして成長しなくてはいけませんからね。」
ごんのすけ「うーむ……。」
いろは「ごんのすけもやってるの?」
ごんのすけ「うむ、一緒に考えると約束したが!」
しぐれ「2人で考えても、なかなか進まないのですがね……。」
いろは「ふーん。」
いろは「もう、しょうがないなあ。後でいろはちゃんも手伝ってあげるよ!」
いろは「でも、先に甘味食べてからね!やっぱり、3人で食べたほうがおいしいもの!」

みおぎ「あら、こうめ。その櫛、誰かに頂いたのですか?」
こうめ「えっ?ああ、これですか?」
こうめ「そうなんです、お礼だって、いただいたんです!みおぎ様こそ、櫛を新調なさったんですね!」
みおぎ「……ええ、もう、前の櫛は必要がないから。……まだ見慣れないけど、そのうち大切な櫛になるわ。……大事にしなくてはね。」
こうめ「……?」
こうめ「……、あの、みおぎ様。今日はありがとうございました。」
こうめ「酒屋さんで酒まんじゅうも食べられたし、三味線も見てもらったし、ミコロの散歩もしたし。」
こうめ「また、一緒に遊んでいただけますかっ?」
みおぎ「……。」
みおぎ「……ええ、よろこんで。」

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