第8話:背負い立つ

くろとび「……くっ……、」
よすけ「……くろとび、お前だったか。」
くろとび「……。」
よすけ「みおぎ様は、一緒ではないようだな。失敗したか。」
くろとび「……はい。」
よすけ「そうか。……、」
よすけ「まずは主に報告を。その後に傷の手当てだ。」
くろとび「え?」
よすけ「……主のために傷を負って帰ってきた者を見捨てるわけないだろう。お前が戻ってくるとは、思わなかったが。」
よすけ「……、今まで悪かったな。」
くろとび「……。」
やまぶき「ほらな、俺の言ったとおりだろう。俺が見る目を誤るはずがない。」
よすけ「主。」
よすけ「……は、このよすけ、未熟を痛感いたしました。」
やまぶき「だが、お前はそれでいい。そういう役目だ。俺をいさめられるのは、お前くらいしかいないからな。」
よすけ「……。」
よすけ「はっ……!」
やまぶき「それで,くろ。報告を聞こう。」
くろとび「はっ。実はみおぎ様に関することで……、」

やまぶき「……なるほどな。つまり……、」
やまぶき「今その湖に行けば、みおぎと逢引ができるということか!」
くろとび「……は?」
やまぶき「よしわかった、くろ!」
くろとび「は、はい。」
やまぶき「お前、その場所まで俺を負ぶっていけ!お前の速さなら間に合うだろ!」
くろとび「い、いやですよ!」
やまぶき「なぜだ!?これはみおぎと2人きりで会う絶好の機会だぞ。」
くろとび「俺の足が死ぬからですよ!俊足で仕事とってるのに、働けなくなったらどうしてくれるんですか!」
やまぶき「ふ、心配するな。俺とみおぎの恋愛指南役に任命してやろう。やりがいのある仕事だろう。」
くろとび「……本当に行くんですか?死ぬかもしれませんよ。」
やまぶき「上々だ。それほどの危機から颯爽とみおぎを助ければ、俺に惚れてくれるかもしれん。」
くろとび「色ボケもほどほどにしてください。」
やまぶき「呆けているのはお前だろう。」
やまぶき「この俺を誰だと思っている?この須佐の地を背負う俺が、死ぬはずがないだろう。」
やまぶき「俺は欲深いのだ。欲しいものは全て手に入れる。」
やまぶき「民も、みおぎも、須佐の地も、手に入れたものは全て背負ってやる。」
やまぶき「だから、くろとびよ。安心して、その足、その命、俺に捧げるといい。」
やまぶき「お前のすべて、俺が背負ってやろう。」

ごんのすけ「こっちはもう大丈夫じゃが!」
しぐれ「ありがとうございます。」
しぐれ「……しかし、今のところはどうにか防げていますが、いったいどうしていきなりモンスターが襲ってきたのか……、」
いろは「やっほー、しぐれ様っ!」
しぐれ「いろは!みおぎ殿の方は、どうなりましたか?」
いろは「んー、それがいろいろとややこしいことになってるみたい。」
いろは「それと関係してるんだけど、モンスターがたくさん襲ってきた原因はみつくし湖にあるらしいの。」
しぐれ「……。」
しぐれ「……わかりました。他の者は町を守ることに専念してください。僕は、みつくし湖へ行ってきます。」
いろは「ええ、しぐれ様が行くの!?危険すぎるって!」
いろは「こんなにモンスターがいる上に、あの酒屋のおかみさんの話が本当なら、みつくし湖には……、」
ごんのすけ「それなら、わしも行くがよ。」
しぐれ「ごんのすけ……。」
ごんのすけ「このごんのすけ、しぐれ様の一の家臣として、どこまでもお供させていただく所存じゃが!」
しぐれ「……、ありがとう。」
しぐれ「ではいろは、あなたは……、」
いろは「ちょっとちょっと、まさかこのいろはちゃんをここに置いて行こうなんて思ってたりしないよね?」
しぐれ「しかし、あなたはもともと九子那の家臣じゃありませんし、わざわざ命運を共にせずとも……、」
いろは「ま、確かにそんな義理はないけど。」
いろは「でもあたし、ここの甘味すごく気に入ってるの。こんなにおいしい甘味出してくれたの、ここが初めてだし、一緒に甘味を食べてくれたのも、ここが初めて。」
いろは「知ってた?甘味って誰かと一緒に食べると倍おいしいの。」
いろは「だからさ、こんなおいしい甘味所を手放したくないんだよね。しぐれ様についていく理由なんて、それで十分でしょ?」
しぐれ「……、」
しぐれ「ほんとに、いろはは甘味が好きですね。」
いろは「もちろん。あたしを雇うにはおいしい甘味を用意することから始まるわ。」
しぐれ「……それなら、帰ってきたらごんと、いろはと、3人で甘味を食べに行きましょう。きっと、3人なら3倍おいしいはずですよ。」

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