第2話:不思議な少年

ユウ「小さい村なのに、すごい人ごみだな……。」
ユウ「死者の国はもっと閑散としたイメージだったんだけど、こんなににぎやかだったんだな……。通りが人でいっぱいだ。」
メルク「でも、なんだかみんなどこか目的地があるみたいなのですよ。」
ユウ「たしかに、みんな同じ方向を目指してるな……。どこに向かってるんだろう……。」
「教会だよ。」
ユウ「うわっ!?」
メルク「い、いつの間にいたのですよ!?」
「驚かせちゃったかな?ごめんよ、僕はそういう風にしかできないからさ。」
ユウ「……?そういえば、教会に向かってるって言ってたな。教会でなにかあるのか?」
「輝石祭だよ。」
ユウ「輝石祭?」
「そう。」
「……そうか、君たちはきっと外の国から来たんだね。」
ユウ「え?あ、ああ。キャラバンの護衛で世界中を旅してるんだ。」
メルク「ユウさんはこれでもれっきとした癒術士なのですよ~。」
「なるほど、通りで。なんだかいい人そうな感じがしたよ。」
ユウ「いい人そうって……、」
「それにしても、旅かあ。」
「いいね、僕も1度旅がしてみたかったんだ。屋敷に飾ってある絵を見るたびに思ってたよ。僕も1度でいいから、この目であんな景色を見てみたいって。」
ユウ「……、」
「ああ、そうだった。輝石祭のことだったね。」
「この国では国民はみんな、生まれてから死ぬまで輝石っていう1つの石を身に着けておくんだ。」
ユウ「石?」
「そう。輝く石。」
メルク「みゅ、宝石とは違うのですよ?」
「そうだね。輝く石、というのは比喩じゃなくて、文字通り光り輝くからそう名付けられたと聞くよ。そしてそれが神の奇跡だからって。」
ユウ「神の奇跡……、」
「輝石はね、割るとその断面が光り輝くんだ。教典では、神が始まりの祖を憐れんで光を与えたとされている。」
「輝石を与えられる前までは世界は闇に覆われていて、人々はただひたすらに神に祈ることしかできなかったんだって。」
ユウ「だから神の奇跡、なのか。」
「そして僕らの軌跡でもある。」
ユウ「……?」
「やがて肉体から魂が離れるとき、僕らの魂は輝石に宿るんだ。だから、輝石は僕らの軌跡なのさ。僕らの人生の跡、証、記憶。」
ユウ「奇跡で、軌跡か……、」
メルク「なんだかダジャレみたいなのですよ。」
ユウ「おい!?」
メルク「みゅっ、ご、ごめんなさいなのですよ!別に馬鹿にしてるわけでは……!」
「あははは!大丈夫、怒ったりなんてしないさ。」
「だって僕も教師から習ったときはそう思ったもの。神様はダジャレ好きなのかもしれないしね。」
「輝石祭はね、その輝石を手放す祭りなんだ。」
メルク「そ、そんな大事な石なのにですよ?」
「僕らの国では、親しい人が亡くなった人の輝石を空に流すことで、安息の闇へと誘われると言われてる。」
「その時に輝石を砕くから、祭りの夜は空中に光が満ちて、とてもきれいな光景なんだよ。」
ユウ「そうなのか……。安息の闇っていうから、もっと暗い中でやるのかと思ってた。」
「闇って言っても、死後の世界のことさ。そこは全てが闇に覆われている。まるで奇跡が起こる前のようにね。」
「けど、そこで人は安らかで穏やかなまどろみの中、夢を見るんだって。……何の夢かは解釈が分かれてるんだけどさ。」
「でも、僕に教典の手ほどきをしてくれた教師たちは解釈の違いこそあれ、その闇の中で眠ることは」
「人間の行き着く終着点にして、最大の幸福なんだって、口をそろえて言ってたよ。」
ユウ「へえ……。ということは、今日の祭りは死者の国の人たちにとって、大事な祭りなんだな……。」
「……、そうだね。輝石を流さなければ、大事な人は幸福な眠りにつくことはできず、ずっとこの世界を漂い続けることになるから。」
ユウ「それって、不幸せなことなのか?」
「どうだろう。僕にはまだわからないな。」
「でも、この世界にいるのに誰にも見つけてもらえないのは、悲しいことだと思うよ。」
「……そんな人を救うために神様は、今日という日を作ったのかも。」
ユウ「輝石祭?」
「それとは別さ。」
「ところでお兄さん、オバケは苦手?」
ユウ「えっ……、」
「実はね……、」
ユウ「ちょ、ちょっと待て……!嫌な予感が……、」
「今日だけは、死んだ人の姿が見られる日なんだよ。」
ユウ「だ、だと思ったよ……!」
メルク「と、ということは、もしかしたらさっき通り過ぎた親子も実は……!」
「かもしれないね。」
ユウ、メルク「……。」
「……ふふふ、なんてね。」
メルク「みゅっ!?も、もう、冗談ならやめてほしいのですよ~!」
「怖がらせちゃった?ごめんね?久々に人と話したからうれしくなっちゃって……、」
ユウ「久々って……。そういえば、なんだかお坊ちゃんっぽい服だし、もしかしてどこかの御曹司だったりするのか……?」
ユウ「それでずっと勉強詰めだったとか……、」
「あれ、服装だけでわかっちゃうんだ……。」
「実はそうなんだ。ずっと部屋で勉強ばっかりしててね。でも、ちゃんと友達はいたんだよ。」
メルク「そうなのですよ?」
「けど、今はもう会えなくなっちゃったんだ。いつか一緒に旅をしようって言ってたんだけどね。」
メルク「ま、まさか……、身分違いゆえの……!みゅっ、現実でそんなことがあるとは思ってもみなかったのですよ~!」
「身分違い、というか……、とにかく彼と僕はいろいろ違ってて……。」
「結局こうなることも必然だったのかもしれないね……。彼には悪いことをしたと思ってる。一方的に約束したまま、離れ離れになってしまったから……。」
ユウ「もう1度、その相手に会うことはできないのか?」
「……僕だけの力じゃどうしようもないことなんだ。」
メルク「そ、それなら、私たちも協力するのですよ!どーんと任せてほしいのです!」
ユウ「そうだな……。できることがあったら言ってくれ。」
ユウ「どうせしばらくはこの村に滞在するし、このあたりのモンスターはみんな癒されてるって聞いたからとくに仕事もないしな。」
メルク「ユウさん……、そんな堂々と無職宣言を……。」
ユウ「違う!?こ、これは手が空いてる状態っていうんだ!」
「……ありがとう。」
「それと、ごめんね?」
ユウ「え?」
「実は君たちならそう言ってくれそうだと思って、声をかけたんだ。」
ユウ「意外としたたかだな……!?」
ユウ「……でもまあ、それだけ困ってるってことなんだろうし、それに、そう言うってことは何か頼みたいことがあるってことなんだろう?」
「そうなんだ。実はね、これをあの丘の上の城に住む友人に渡してほしいんだ。」
ユウ、メルク「……これは……、」

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