第5話:夢の向こう側

シトルイユ「空中散歩はお気に召したかな、お嬢さん?」
コゼット「うん……!わたし、空を歩いたのなんて初めて!ミスターってすごいね!」
シトルイユ「はっはっは!君だってそのうち私の力を借りなくても、空を歩けるようになるさ。」
コゼット「こんなふうに?」
トルイユ「……!すばらしい!君には素質がある!」
コゼット「何の素質?」
シトルイユ「夢を見る素質さ。」
コゼット「夢を見るのに素質なんているの?」
シトルイユ「いいや。夢は誰だって見られるものさ。」
シトルイユ「だけど、お嬢さん。君のその素敵な想像力はきっとすばらしい夢を育てるだろう。この世界の王女様になることだってできるに違いない!」
コゼット「そうしたらあなたが王様?」
シトルイユ「それはいいね!2人で町中を旅しよう。いろんな夢を渡り歩いて、いろんな空想を生み出して。」
コゼット「この町はとっても広いから、きっとどこまでもいけるね。空から見下ろしても、終わりが見えないの。」
シトルイユ「それはそうさ。なんたって、夢は見果てぬものだからね。」
シトルイユ「ああ、なんだろう。からっぽのはずのこのかぼちゃ頭の中に何か響くものがある。もしかすると、君といれば私は……、」
コゼット「……たぶんそれは、後ろから別のかぼちゃがぶつかってる音だと思うよ。」
町の住人(かぼちゃ)「アイタタ!」
シトルイユ「ああ、君か。私の頭にぶつかってくるのはやめたまえよ。おかげで響いてしょうがない。」
町の住人(かぼちゃ)「ゴメンヨ、ミスター!」
町の住人(本)「オジョウサンダ!ハロー!」
コゼット「こ、こんにちは……、」
町の住人(シーツオバケ)「ハロー、ミスター。」
シトルイユ「ああ、今晩は。」
コゼット「さっきの人たちは?」
シトルイユ「ああ、この町の住人さ。もしくは、誰かの幻想とも言える。」
コゼット「幻想?」
シトルイユ「そう、ここは様々な夢の入り混じる所だから。誰かの夢が紛れていることもある。」
コゼット「あなたの夢も?」
シトルイユ「……かもしれないね。」
コゼット「……?」
シトルイユ「長いことここにいると、一体どれが自分の夢で、どれが自分の夢でないのかわからなくなる。」
シトルイユ「けど、私にも求めているものがあるということは、がらんどうのかぼちゃ頭でもちゃんと覚えているんだよ。それがなんだったかは、思い出せないんだがね。」
コゼット「……わたしもいつかはそうなるの?」
シトルイユ「かもしれないね。」
シトルイユ「だけどそれでなにか問題があるかい?君の望むものすべてがここにある。それならずっとここにいたっていいんじゃないか?」
シトルイユ「だって現実じゃあ、ひとつのものしか選べないときだってあるんだから。」
シトルイユ「ここにいれば、すべてが君の手の中さ。何にだってなれる、王女だって、旅人だって。」
コゼット「でも、自分の欲しいものもわからないのに、手に入っているなんて言えるの?」
コゼット「あなたはわたしと会ったとき、大事なことは何を求めてるかだって言ってた。」
シトルイユ「……その通りだとも、小さなお嬢さん。」
シトルイユ「……実はね、私はずっとこのからっぽのかぼちゃ頭の中に詰まるべきものを探してきた。」
シトルイユ「この世界は楽しい!いろんな夢がある。」
シトルイユ「だがね、その夢は私の頭の中にはとどまってくれない。いつだって、音も立てずにこの穴から出て行ってしまうんだ。」
シトルイユ「だが、君と出会ってからはどうだ!君と夢を語るたび、私の頭の中に響くものがある。からっぽのかぼちゃがぶつかる音じゃない。」
シトルイユ「君となら、私は、私の夢を見つけることができるかもしれない。もしくは、新しい夢を創ることができるかもしれない。
シトルイユ「コゼット……、君と私の、2人でなら!」
コゼット「……ずっとひとりぼっちだったの?」
シトルイユ「ひとり……、そうなのだろうか?私にはよくわからない。」
シトルイユ「初めからひとりだったような気がするし、そうじゃなかった気もする。」
シトルイユ「だけど、今わかるのは、君が傍にいてくれると、私はなんだか大事なものを思い出せそうな気がするってことだよ。」
シトルイユ「一瞬の、ひと月の、1年の。はたまた永久の向こう側に置いてきた、なにか、私の……。……そして、私の望む夢は、きっとひとりじゃ創れないんだ。」
コゼット「……あなたの気持ち、ちょっとわかるような気がする。わたしの夢も、きっとひとりじゃ創れない。」
シトルイユ「それなら、ぜひとも私とここで暮らしてくれないか?私には、もう見つからない夢を探すことに疲れてしまったんだ。ここにはたくさんのものがありすぎて。」
シトルイユ「だけど、コゼット。私は君を見つけた。」
シトルイユ「君はきっと私の夢のかけら、いずれ夢になる種、夢をはぐくむ泉なんだ。」
シトルイユ「お願いだ、コゼット。私をひとりにしないでくれ。どうかイエスと言ってくれ。」
コゼット「……、わたしもひとりはきらい。」
シトルイユ「……!」
コゼット「だけど……、」
コゼット「あなたと話すたびに、何か忘れものをしているような気になるの。」
コゼット「もしかしたらそれは、家の鍵をかけたのに、後で心配になって戻るようなものかもしれないけど。」
コゼット「鍋の火を消したかどうか、確認せずにはいられないようなものかもしれないけれど。」
コゼット「でも、あなたの言葉はわたしの手の中にぬくもりを思い出させるの。」
コゼット「今まですっかり忘れていたけど、もしかするとわたし、この手に何か求めてるものがあったんじゃないのかな。」
シトルイユ「……そうか、つまり今のところの返事はノーということだね、お嬢さん。」
コゼット「そうだね、ミスター……。」
コゼット「だけど、いつかわたしがあなたと同じくらいひとりに耐えかねる時が来たら、その時はきっと言うよ、イエスって。」
コゼット「だけど、今は本当にわたしの求めてるものが見つからないのか、ちゃんと探してみたいの。わたしはまだここに来たばかりだから。」
コゼット「それに、あなたとだってまだ会ったばかりだよ。」
シトルイユ「……一瞬は1日、1日は1年、1年は一瞬。」
シトルイユ「君がそう思うのなら、私は待とう。好きなだけ探すといい。」
シトルイユ「大事なものは簡単に捨てられない。見つからなくても、本当は心のどこかにあるはずなんだ。」
シトルイユ「……君のその手のぬくもりを忘れないうちに、探すといい。心というものは広すぎて、標がなくちゃ迷ってしまうから。」
コゼット「……。」
シトルイユ「……私はもうずいぶんと長いこと、迷い続けているんだ。それに疲れてしまっただけのことなんだ。」
シトルイユ「だからもう、ひとりでいる時はほんの一瞬さえも、今の私にとっては気の遠くなるような時間に感じられてしまうんだ。」
シトルイユ「だけど、もし君が傍にいてくれるなら、私はいつまでだって待てるから。」
シトルイユ「さあ、君の夢を探しに行こう!エスコートの仕方も、なんだか思い出してきたような気がするよ。」
コゼット「……あなたは優しいね。」
シトルイユ「……そうだろうか?もうずぶん優しくする相手もいなかったから、よくわからないよ。」
シトルイユ「でも、君がそう思ってくれるなら、きっと私は優しくあれる。そんな気がするよ。」

ドラゴン「クゥーン……。」
スクウィーク「どうだ!これに懲りたら、もう悪さなんてするんじゃねえぜ!」
ジャントール「ま、もしまた何かしてきても、僕とスクウィークで何度だってこらしめてやるさ。だろ?」
スクウィーク「そうだぜ、相棒!悪いドラゴンが何回来たって、2人ならなんてことないさ!」
ドラゴン「クゥーン!」
スクウィーク「ジャントール!ドラゴンが謝った!」
ジャントール「僕たちの勝利だ!」
スクウィーク、ジャントール「イェーイ!」
ドラゴン「クゥーン……!」
スクウィーク「おっと、忘れるところだった!王女様を助けなきゃな!」
ジャントール「そうだった。ドラゴンの示した方にいるのか?」
スクウィーク「よーし、王女様のキスはすぐそこだ!」

ジャントール「ここは……、」
スクウィーク「相棒、人影があるぜ!きっと王女様だ!」
ジャントール「……待ってくれ。……なんだか、ここは……、」
ジャントール「ここにいると、悲しくなる。僕は……、なにかを忘れて……、」
スクウィーク「なら思い出せばいいだけの話だろ?ほら顔を上げてみろよ。」
ジャントール「……、」
?(エレオノール)「……。」
ジャントール「……、君は……、」
?(エレオノール)「私の、たったひとりの王子様。助けに来てくれてありがとう、ずっとあなたを待っていたの。」
ジャントール「……、ずっと君に会いたかった。僕の、ただひとりの……、」
ジャントール「エレオノール……。」

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