第6話:いつかの夢

ユウ「待て……っ!」
?(オバケ)「ケケケ~!」
?(本)「ケケケ~?」
?(カボチャ)「ケケケ~?」
ユウ「ちょ、ややこしい!仲間じゃないのなら付いてくるなよ!」
?(本)「ヤダー。」
?(カボチャ)「ヤダー。」
ユウ「なんで!」
?(本)「オマエタチ。」
?(カボチャ)「ヘンダカラー。」
ユウ「変?」
?(本)「ナニカ、ハコンデキタ。」
?(カボチャ)「ザワメクモノ、ハコンデキタ。」
ユウ「ざわめくものって……、」
メルク「あの預かりものくらいしか心当たりもないのですよ。」
?(本)「アズカリモノー?」
?(カボチャ)「ダイジナモノー?」
メルク「そうなのですよ!私たちはあれを届ける約束をしてるのです!」
?(本)「ヤクソク。」
?(カボチャ)「ヤクソク……。」
ユウ「どうかしたのか?」
?(本)「ボクラ、マッテタ。」
?(カボチャ)「ヤクソク、マッテタ!」
ユウ「あっ、どこにいくんだよ!」
「ヤクソク!」
「オモイダシタ!」
メルク「な、なんなのですよ?」
ユウ「わからん……。とにかく、先にあの白いオバケを追いかけるか……。」

スクウィーク「……ケッ!」
町の住人(本)「オコッテルー!」
町の住人(カボチャ)「ネズミ、オコッテルー!」
スクウィーク「うるせえやい!ったく、オレにもあんな美人な嫁さんが欲しかったってえの!」
町の住人(本)「ヒガンデルー!」
町の住人(カボチャ)「ネズミ、ヒガンデルー!」
スクウィーク「ったく、せっかくならオレの運命の相手でも考えてくれりゃあ……。」
町の住人(本)「タノミニイクー?」
町の住人(カボチャ)「オヨメサンー?」
スクウィーク「いかねえよ!」
スクウィーク「今割り込むのは、イケてるネズミにふさわしくねえ野暮ってもんだぜ、まったく。」
町の住人(本、カボチャ)「……?」

ジャントール「上着は?冷えると体に障る。」
エレオノール「ふふ、相変わらずね。でも、大丈夫よ。ここは夢の町だもの。」
エレオノール「それより、あなたの言ってたとおりね。」
ジャントール「え?」
エレオノール「スクウィークのこと。口が悪くて、ひねくれ者で、だけど人情味あふれる優しくて不器用なネズミ。」
エレオノール「素敵な相棒じゃない。みんなに自慢したいくらい。」
ジャントール「君にしか、話したことはないよ。君にしか、……話せなかった。」
ジャントール「……父は僕の空想癖を嫌っていたから。母がいなくなってからは、特にね。」
ジャントール「……母以外で、君が初めてだった。君だけが僕の話を聞こうとしてくれた。」
エレオノール「あなたの話、わたしはとても好きよ。デートに行くたびに、わたしが話してってお願いしたの、覚えてる?」
ジャントール「覚えてる。君はいつも話を聞きたがってた。……だけど本当言うと、もっと君の話を聞いてみたかった。」
エレオノール「それでも、わたしのために話してくれてたのね。」
エレオノール「……ありがとう。あなたのお話は、いつも優しいものばかりだった。」
エレオノール「悪いドラゴンが出てきたって、最後には仲直りしたし、スクウィークはいつも一緒にいてくれた。」
エレオノール「あなたのお話は、わたしの夢だった。あなたとなら、夢を現実にできるって、思ったの。あなたと、わたしの、2人なら。」
ジャントール「……。」
エレオノール「わたしは毎日おいしいパンを焼いて、あなたは絵本をかくの。村の子供たちがあなたの絵本を気に入って、あなたの夢をみんなで見るわ。」
エレオノール「そんな日をずっと夢見てたのよ。」
ジャントール「……私は、絵本作家にはなれなかったよ。」
エレオノール「……どうしてか聞いてもいい?」
ジャントール「……君がいないと、夢を見る方法も忘れてしまった。」
ジャントール「つらいことばかり思い出す。いつも後悔しそうになる。」
ジャントール「君といたときは、現実と夢の区別がつかないくらい、毎日輝いていたのに。」
エレオノール「……、」
エレオノール「ねえ、闇の中で見る夢は、どんな夢なんだと思う?」
ジャントール「……教典の話か?」
エレオノール「そうね、もしかしたらあなたの話かもしれないわ。そして、わたしの。」
エレオノール「……わたしはね、きっと残してきた人たちの姿を見ているのだと思うの。」
エレオノール「そしてその姿を見守りながら、やがて一緒に眠りにつく日を待っているのよ。」
ジャントール「……、でも、君は傍にいない。」
エレオノール「……それは仕方のないことよ。ジャン。出会いは別れの始まり、そして別れは出会いの始まりだもの。」
ジャントール「だから再び会う日まで、待たなくてはならない。」
ジャントール「……君がいない日々は、一瞬という時間さえも永遠のように長く感じる。」
ジャントール「君を愛しているんだ。君がいないと、夢も見れない。君は僕の救いで……、でも僕は……、」
エレオノール「あなたはわたしの救いだった。」
ジャントール「……、」
エレオノール「言ったでしょう、わたしの王子様。あなたはわたしを助けてくれたのよ。あの部屋から手を引いて連れ出してくれた。」
ジャントール「……、君は、いつも僕に微笑んでいた。それが僕にはうれしかった。君の幸せが、僕の幸せでもあった。」
ジャントール「……でも、君は本当に幸せだったのか?本当に、僕と一緒にいて幸福だった?僕が、君を連れ出さなければ、もしかしたら君は今も……、」
エレオノール「幸せよ。」
エレオノール「あなたと会った日から、不幸な日なんて2度もなかった。夢を見たことのなかったわたしに、いろんな世界を教えてくれた。」
エレオノール「あなたの夢を一緒に見ることで、いつもの窓から見る景色なのに、見るたびに違って見えた。あなたの見せてくれる世界が、好きだった。」
エレオノール「あなたといられて……、本当に幸せだった。」
ジャントール「……、」
ジャントール「そうか……、」
エレオノール「……知ってる?わたし、スクウィークのぬいぐるみも作ってたのよ。」
ジャントール「……知ってるさ。君の寝室にしまってあっただろう?」
エレオノール「うまくできてたでしょう?」
エレオノール「できれば、直接渡したかったけど……、あなたが渡してくれたから。」
ジャントール「……、」
エレオノール「わたしね、あの子とあなたと3人で、あなたの絵本を読みたかった。あなたの素敵な夢をあの子にも見せてあげたかった。」
ジャントール「……、僕も、そうしたかった。けど、もう僕は、……私は、夢の見方がわからないんだ。」
ジャントール「あの子のことも、わからない。あの子が何を望み、何を思っているのか、私にはわからないんだ。」
エレオノール「ジャントール……、」
ジャントール「あの子にどう接したらいいのかわからない。」
ジャントール「父のようにも、母のようにもなれない。あの子は友人といる方がずっと楽しそうなんだ。私にはあの子が欲しがっているものもわからなかった。」
ジャントール「……君は私といて幸せだと言ってくれた。だが、あの子はそう思ってくれているのだろうか?私には、……そうは思えない。」
エレオノール「……ジャン、大事なのはあなたがあの子を愛しているかどうか。あなたが何を求めているのか、よ。」
ジャントール「……愛しているとも。君と、私が望んだ。」
ジャントール「だけど、もう君はいない。……君と共に、あの子とのつながりも失ってしまった気分だ。」
エレオノール「簡単なことよ。」
エレオノール「一緒に夢を見るの。同じ夢を見て、同じ夢を語るの。あなたがわたしにしてくれたように。」
ジャントール「だが、私は……、」
エレオノール「大丈夫。」
ジャントール「……?」
エレオノール「あなたは忘れてしまっているだけなの。決してあなたの中から消え去ってしまったわけではない。」
エレオノール「夢はいつだってあなたの中にある。それを思い出して。」
エレオノール「声に耳を傾けるの、そして呼びかけるの。それだけで、夢はいつだってあなたの前に現れる。」
エレオノール「あなたがわたしに教えてくれたことよ、そうでしょう?」
ジャントール「……、」
ジャントール「あの子は……、私を望んでくれるだろうか……?」
エレオノール「それは……、これまでと、それから、これからのあなたが、あの子と決めていくことよ。」
エレオノール「さあ、あなたは次の冒険にいかなくちゃ。王女様を助けたら、このお話はもうおしまい。」
エレオノール「だって、王女様は王妃様になってしまったんだもの。あなたが助けるのは王女様でしょう?だからね、今度は別の王女様を助けてあげなくちゃ。」
ジャントール「……、」
スクウィーク「お、なんだ、相棒?また次の冒険に出るのか?」
スクウィーク「道しるべはあるのかよ?こんな広い世界じゃ、標がなくちゃ迷っちまうぜ?」
エレオノール「道しるべはもういらないわ。……あなたは夢から目を覚まさなきゃ。夢は見るものであって、住むものではないから。」
スクウィーク「なるほど、それじゃあ目覚ましが必要だ。」
スクウィーク「鍋とお玉の騒音?それとも、まぶしい朝の光?揺り起こしてくれる優しい手?」
エレオノール「……光なら、ここにあるわ。」
ジャントール「それは……、」
エレオノール「わたしの輝石……、大事に持っていてくれたのね。」
ジャントール「……、君の、傍にいたかった。」
エレオノール「……。」
エレオノール「あの子は、ここじゃ助けられないの。あの子の手を引いて、ここから連れ出してあげられるのはあなたしかいない。」
ジャントール「だが、そうすると君は……、君はまた僕の前から……、」
エレオノール「言ったでしょう?夢はいつだってあなたの中にある。わたしも、スクウィークも。」
ジャントール「……、」
エレオノール「気づいてる?あなたはこの世界ならどんな姿にだってなれるのよ。」
エレオノール「なのに、あなたはずっとその姿のまま。あの子の知るあなたのまま。」
エレオノール「わかるでしょう?もう答えは出ているの。」
エレオノール「初めから、あなたはちゃんと自分の求めているものがわかっているのよ。」
スクウィーク「剣なら俺のレイピアを貸してやるよ。こいつは何でも貫く無敵の剣だ。どんなに硬い石だって、簡単に貫いちまうさ。」
スクウィーク「そうだろ、相棒?」
ジャントール「……ああ、そうだったな。」
スクウィーク「そんな顔すんな。オレは、いつだってお前と共にいる。お前の中にな。」
エレオノール「そう、あなたが夢を見る限り、わたしたちはずっとあなたと一緒にいる。」
エレオノール「そしていつか、本当に隣で眠って同じ夢を見られる日が来るのを、わたしはずっと待っているから。」
エレオノール「……そうでしょう、ジャントール。」
ジャントール「……。」
ジャントール「スクウィーク、剣を借りるぞ。」
スクウィーク「ほらよ。しっかり砕けよ、そうじゃなきゃしっかり輝かねえ。」
ジャントール「わかってるさ。」
ジャントール「……ありがとう、スクウィーク。」
スクウィーク「な、なんだよ、照れるじゃねえか。」
スクウィーク「……ま、感謝の代わりにオレの運命の相手でも見繕ってくれよな。」
ジャントール「お前はそういうやつだった。」
エレオノール「……。」
ジャントール「……、さよならだ、エレオノール。」
エレオノール「……、」
ジャントール「……本当は、君が望むなら、僕はここで朽ちてもよかったんだよ。」
エレオノール「……、」
エレオノール「嘘つきね。そんなこと、できないくせに。」
ジャントール「……。そうだな。」

ジャントール「……。」
ジャントール「……さよなら、エレオノール。」


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