第8話:忘却の町を抜けて

シトルイユ「ああ、コゼットはまだだろうか……。なんだか、もうずいぶん長いこと待っているような気がする。」
シトルイユ「……いっそ、彼らのように小さくなってしまえば、一緒にあの家に入ることができたのに……。」
シトルイユ「なぜだろう。私はどうしてこんな大きな体をしているんだろう。なにか、なにかこの体でなければならない理由が……、」
「……、……。」
シトルイユ「かぼちゃ頭に時折響く、この音はいったい何なんだ。私が求めているものは、いったい何なんだ。」
「……、……。」
シトルイユ「君は誰だ、誰なんだ。わからない。君はどこにいるのか、私は誰なのか、君は誰なのか。」
シトルイユ「ただこの音だけが、私にもうひとりの存在を教えてくれる。ひとりでは見ることのできない、君と私の夢。」
シトルイユ「誰でもいい、教えてくれ!」
シトルイユ「君はいったいどこにいるんだ。君の影さえ思い出せない。私の、何か大事なものだったはずなのに!」
シトルイユ「……もし、誰も教えてくれないというのなら、いっそ私に全てを忘れさせてくれ。掴めぬ夢なら、どうか彼女と新しい夢を見させてくれ!」
シトルイユ「ひとりになるのは……、もう嫌だ!」
「」
シトルイユ「……、光が。」

ジャントール「コゼットを探さないと……。」
「うぐぐぐ……、」
ジャントール「……!」
シトルイユ「君か……!私を目覚めさせたのは……!」
ジャントール「……。」
シトルイユ「ああ、いやだ!思い出してしまう!」
シトルイユ「私は忘れたいんだ!きっとあのまま、あの世界にいればやがてすべてを忘れることができたのに!」
シトルイユ「私は誰だ!なんのためにここにいる……!私はいったい……、」
シトルイユ「……いったい、誰を待っているんだ。」
ジャントール「……、」
シトルイユ「……君はどうしてここに来たんだ。誰を探しに来た?」
ジャントール「……娘を探しに。
シトルイユ「娘?」
ジャントール「……コゼットという名の……、」
シトルイユ「……コゼット……。コゼット……、覚えている。」
シトルイユ「私の手を握ってくれた、優しい女の子の名前だ。彼女を連れて行ってしまうのか?」
ジャントール「……、」
シトルイユ「……いやだ、私はもう、ひとりはいやだ……!」
シトルイユ「君に彼女は渡さない……!君は彼女をひとりにした。彼女に自分のこともわからなくさせた。」
シトルイユ「彼女は私と同じだ。求めている相手を手に入れられない、叶わぬ夢を見続けている。」
シトルイユ「君が、求めているのは何だ?本当に欲しいものは、彼女か?」
シトルイユ「もしそうでないのなら、君に彼女を連れて行かせたりなどしない。彼女の手を、取らせたりするものか……!」
ジャントール「……それでも、あの子は連れていく。」
シトルイユ「彼女が望まなくても?」
ジャントール「それがあの子のためになるのなら。」
シトルイユ「悲しい世界でずっと生きていくことになる!」
ジャントール「悲しいかどうかは、これから2人で決めていくことだ!」
ジャントール「あの子を夢の世界に置き去りになんかしない。私の娘なんだ。私の指を、初めて握ってくれた、あの日から……!」
ジャントール「あの子は、私と妻が望んで夢見た、私の、私たちの大事な家族だ……!」

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