第3話:犯人と探偵と店の主

ソリッソ「さあさあ皆様、ご覧あれ!星祝祭特別ステージ、ソリッソ&コモーツィのマジックショー!」
ソリッソ「帽子の中から~、ワン、ツー、スリー!ななな、な~んと、火の玉だぁ!」
コモーツィ「更に、この火の玉が……、それ!ワン、ツー、スリー!」
ソリッソ「モンスターの形にぃ~!」
チリッカ「なみなみさま、ご注目くだされー。魔法の輝きを放つ、ガラス細工の指輪でございまするー。星祝祭の思い出に、ぜいぜいどうぞー。」
シンレット「『皆々様』だよ、チリッカ。あと『ぜいぜい』は『ぜひぜひ』だよ。」
マヌカ「と思うじゃろ?」
シンレット「姉さん!?」
シルヴァリア「あら、なんて素敵な指輪……。こちら、全て言い値で買い取らせていただきますわ。」
カーマイン「お客さん、とってもお目が高ーい。星祝祭のクライマックスに爆発する時限式指輪魔道具をお買い求めとはー。」
アシステア「わぁ……。」
アシステア「すごいわ、すごいわ!星祝祭の町って、こんなに賑やかなのね!」
ヨルスウィズ「アシステアちゃんちって、星祝祭は家でひっそりお祝いするタイプ?」
アシステア「ええ!こんな風に、おまつりの町に来たのって、初めてなの!」
ヨルスウィズ「そっかー。じゃ、めいっぱい楽しんでこうねー。」
ヨルスウィズ「そんなアシステアちゃんに俺からプレゼントー。宝石ドロップのファンシーフレーバーとファンタジーフレーバー!」
アシステア「すごいわ!ぜんぜん見分けがつかないわ!」
ヨルスウィズ「食べればこの違いが分かるよ。」
アシステア「食べれば、ちがいが分かる女の子に……!」
アシステア「でも……いいのかしら。お姉さまは、たくさんおかしを食べちゃダメよ、って。」
ヨルスウィズ「ちょっとペロペロするなら平気だよー。」
ヨルスウィズ「俺と一緒に、未知の世界の扉を開かない?」
アインレーラ「おい。」
ヨルスウィズ「あいたー!」
アインレーラ「道端で妙な発言すんな!仮にも学園長だろ、お前!」
ヨルスウィズ「当たり前だろ。俺は学園長だぜ。権力を盾に女の子に迫るとか、マジでありえねえ。」
アインレーラ「……ならいいんだよ。」
ヨルスウィズ「何で早とちりするかなー。生き急ぎすぎじゃないの?」
ヨルスウィズ「あー!さてはお前、思春期だな!いろんなことが気になっちゃうんだな!」
アインレーラ「バッ……!はぁ!?」
ヨルスウィズ「やっぱりねー、当たいたたたたたた!」
アシステア「せ、先生!ヨルくんのほっぺをつねっちゃダメ!」
アインレーラ「痛かったよな、ごめんな。」
ヨルスウィズ「謝ってる人間の顔じゃねえ……。」
アインレーラ「お前、もっと危機感持てよ。食べ歩きしてる場合じゃねーだろ。」
ヨルスウィズ「えー、お前がテンパり過ぎなんだって。そんなに焦らなくても真相は逃げないぜー。」
アインレーラ「犯人は逃げるかもしれないだろうが。」
ヨルスウィズ「うーん、そいつに関しちゃまったくお前の言う通りだ。でも、これが不思議なことなんだけど……、」
ヨルスウィズ「アシステアちゃんを見てると、心がワクワクドキドキしちゃうっていうか、何でもあげたくなっちゃうっていうか……。」
ヨルスウィズ「やっぱ俺、若い子好きなんだよなー!」
アインレーラ「孫に構ってるジジイかよ。」
ヨルスウィズ「言えてるー。」
ヨルスウィズ「それに俺も、ちょっと気になってるんだよねー。、お前が気にしてる視線。」
アインレーラ「……回りくどい言い方するんじゃねえよ。」
ヨルスウィズ「あんまり直接言うと、彼に悪いじゃん。」
アインレーラ「じゃあ、その話しない方がいいんじゃねえの。特に俺の前では。」
ヨルスウィズ「アインレーラったら、青いなー。」
ヨルスウィズ「そんなお前に、俺からそっと差し入れ。」
アインレーラ「何だこれ。」
ヨルスウィズ「やみつきペロペロ、宝石ドロップ!俺の一押しクレバーフレーバー!」
アインレーラ「パス。」
ヨルスウィズ「えー!この前、酒のつまみで一緒に仲良くペロペロしたのに?」
アインレーラ「俺は、酒はやらねえ。そんな時間あったら、魔道具磨いてる方がマシだ。」
ヨルスウィズ「アインレーラのアイデンティティが……。」
アインレーラ「そんなアイデンティティ、いらねえ。」
ヨルスウィズ「このクレバーさが分からないなんて、お前もずいぶんおこちゃまになっちゃったんだな……。しくしく、俺は悲しいよ……。」
アインレーラ「……。」
ヨルスウィズ「アインレーラ、お腹減ってない?」
アインレーラ「……、」
アインレーラ「……何だっけ。クレバーフレーバー?」
ヨルスウィズ「1ペロする?」
アインレーラ「何だその単位。」
アインレーラ「別に、腹減ってたわけじゃねーから。俺はもうガキじゃな……、」
アインレーラ「……!?」
ヨルスウィズ「フッ……。こんなフリに引っかかるとは、お前もまだまだだな。」
ヨルスウィズ「それはクレバーフレーバーじゃない!今冬新発売のイカれたテイスト、その名もクレイジーフレーバーだぁー!」
アシステア「クレイジーフレーバー……!?なんだか、危険な匂いがするわ!」
ヨルスウィズ「クレイジーだからね。」
アインレーラ「……。」
ヨルスウィズ「あー!俺のクレイジーフレーバーがぁ!」
アインレーラ「もういい!俺一人でやる。」
アシステア「ええっ!や、やだ!おいていかないで先生!」
ヨルスウィズ「それは俺のアメちゃんだろー!」
シルキー「こら~っ!お前たち~っ!星祝祭だからといってむやみに騒ぐんじゃな~いっ!」
ヨルスウィズ「あれ?シルキーとリービットじゃん。」
シルキー「って、むむっ!?そこにいる年齢詐欺は、学園長ではないか!」
アシステア「ねんれいさぎ?」
ヨルスウィズ「俺がいつまでも若々しいってことだよ。」
アインレーラ「こいつら、アカデミーの生徒か?」
ヨルスウィズ「そ。おまえの後輩だぜ。」
ヨルスウィズ「二人とも、冬休みも自主活動かー。ずいぶん精が出てるじゃん。」
シルキー「知れたこと。風紀に休みはない!」
リービット「すまない、学園長。これには色々と訳があって、できればシルキーをこのままにさせてやっては……。」
ヨルスウィズ「ふーん。じゃあ、俺からはお前がついてる場合に限り細かいことは不問ってことで。」
リービット「……感謝する。」
アインレーラ「……そういうところ、年食っても変わんねーんだな。」
ヨルスウィズ「ま、家より学校の方が気楽な生徒もいるからねー。」
アインレーラ「……。」
リービット「……アインレーラ教授?」
アインレーラ「え……、」
シルキー「いや、違うな。よく見ろ、こいつはただのそっくりさんだ。」
シルキー「あの教授の容姿を思い出せ、リービット!髪はきっちりツートンカラー!帽子にバカでかいツノ!そして、帽子にかじりかれてる頭!」
アシステア「おもしろそう!」
アインレーラ「冗談だよな。」
ヨルスウィズ「うーん、ノーコメント。」
リービット「すまない。知り合いによく似ていたもので、見間違えた。」
アインレーラ「あ……ああ。」
シルキー「リービット、次の違反者を探しに行くぞ!風紀の乱れは我々を待ってはくれんのだからな!」
リービット「今行く。」
ヨルスウィズ「じゃねー!」
アシステア「さ、さようならー!」
アインレーラ「……。」
「だがさっきの奴、確かにアインレーラ教授に似ていたな。親戚……、あの年なら、弟とかか?」
「教授の兄弟か。そういえば、そんな話はまだ一度も……、」
アシステア「アカデミーの人たちって、なんだか自由で、楽しそう。」
ヨルスウィズ「それが、俺の創ったアカデミーのモットーだからね。」
アシステア「……いいなぁ。」
アシステア「ね、ね、先生もアカデミーにいたのよね。楽しかった?」
アインレーラ「……家よりはな。」
アシステア「先生はおうちが好きじゃないの?」
アインレーラ「嫌い。」
アシステア「先生って、変わってるのね。あたしはおうち、大好きよ!」
アシステア「あのね、あたしにはお姉さまがいるのよ。お姉さまは、すごい魔法使いなの。あたしなんかよりずっとすごいのよ!」
アインレーラ「……。」
アシステア「お姉さまは、きれいで、やさしくて、りっぱな人なの。あたし、いつかお姉さまみたいな魔法使いになりたいわ。」
アインレーラ「んなこと俺に話して、何が言いたいんだよ。」
アシステア「あたし、お姉さまが大好き!」
アシステア「……。」
アシステア「でも、時々……、」
アインレーラ「……、」
アシステア「……ううん、それだけ。」
アインレーラ「嫌いになるのか?」
アシステア「……。」
アシステア「……あたし、お姉さまみたいな子じゃないから。」
アシステア「……こういうところがダメなの、あたし。」
アインレーラ「姉でも兄でも、どうせ他人なんだから、好きな時も嫌いな時もあって当然だろ。」
アインレーラ「兄弟だからって理由でずっと好きでいる必要なんかないんだ。」
アシステア「……。」
アシステア「……で、でも……。」
アインレーラ「……、」
アシステア「あ……、その、ごめんなさい。先生が教えてくれたのに、あたし……、」
アインレーラ「お前、姉貴のことが好きなんだな。」
アインレーラ「納得できないなら、それでいいよ。こんなこと、お前に教えたくて教えたわけじゃねーし。余計なことを言って悪かった。」
アシステア「わ、悪くなんかないわ!だって……、その……、ちょっとだけ、すっきりした、から。」
アシステア「ありがとう先生。あたしのおはなし、聞いてくれて!」

アシステア「おじゃましまー……、」
アシステア「むぐ!」
アインレーラ「忍び込んでるのに声をかける奴がいるか。」
アシステア「むむんむむむ……。」
ヨルスウィズ「うわー、明らかに怪しい店だなー。魔法古物店という名の通り古美術を扱ってるってことは確かっぽいけど……。」
アインレーラ「それだけじゃねーんだろうな。並んでる品に嫌な魔力を感じる。」
アシステア「むむむむむむむむむむ。」
アインレーラ「お前は俺の影に隠れてろ。相手が攻撃してくるかもしれねーし。」
アシステア「む!」
ヨルスウィズ「俺は?俺は?」
アインレーラ「お前は自分で戦えるだろ!」
アシステア「む!むぐむむ、むむ!」
アシステア「むー!むー!」
アインレーラ「何だよ、少し静かに……、」
アインレーラ「……は?」
アインレーラ「……。」
アシステア「は……、」
アシステア「犯人だわー!」
?(フレデリック)「んなっ!?」
?(フレデリック)「ま、待ちたまえ、君!何を勘違いしているのか知らんが、私たちは犯人ではない!」
アインレーラ「じゃあ不審者だな。」
?(フレデリック)「探偵だ、探偵!この美学溢れる変装を見れば一目瞭然だろう!クリフォード、お前も何か言ってやれ!」
?(クリフォード)「ハハハハハハッ!ハハハハハァーッ!!」
?(フレデリック)「クリフォード!?」
アインレーラ「不審者だな。」
アシステア「犯人だわーっ!」
「まあまあ、みんな落ち着いて。クリフォードくんも、有給が消えちゃったからってそんなに騒いでると……、」
?(クラフト)「近所迷惑だって、呪われちゃうかもよ?」
アインレーラ「……!」
?(クリフォード)「クラフト……!」
?(フレデリック)「むっ!何だかよく分からんが正気に戻った!」
クラフト「驚かせてごめんね、お客さんたち。僕はクラフト。この『クラフト魔法古物店』の主人をやってる。」
クラフト「そこの二人は僕の知人なんだ。恰好は怪しいかもしれないけど、決して怪しい人たちではないよ。」
アシステア「そうなの!?」
クラフト「そうだよ。」
アシステア「そうだったの……。」
アシステア「あたし、また知らない人にごめいわくを……!それもただ知らない人じゃなくて、知らない上に怪しくない人に!」
アシステア「ごめんなさい、怪しくない人たち。あたし。怪しいのはお面だけって分からなくて……!」
?(フレデリック)「うーむ、何故だか非常に複雑な気分だ。」
アインレーラ「おい。お前が謝る必要、無いかもしれないぜ。」
アシステア「え?」
アインレーラ「俺の糸に引っ掛かったのはあの店主だ。」
アインレーラ「……お前、最近エルバスの森の奥深くに入っただろ。訳を聞かせてもらおうか。」
?(フレデリック)「な……、待て!何を言ってるかよく分からんが、それこそ誤解だ!彼は決して疑われるような人物では……、」
アインレーラ「あからさまに怪しいやつのいうことなんか、信用ならねーな。」
ヨルスウィズ「いや、そうでもないんじゃないかなー。な、フレデリック。」
アインレーラ「は?」
フレデリック「何ッ!?貴様、何故私を知っている!」
フレデリック「……。」
フレデリック「って、あなたはゼディー最高議会員!?何故こんなところに!」
ヨルスウィズ「久しぶりー。」
クリフォード「はあっ!?さ、最高議会員!?」
クリフォード「おい、フレデリック!何故すぐに気づかなかった!?」
フレデリック「クリフォード……、お前には言ってなかったが、このお面を装備すると視界が50パーセントカットされるのだ。」
クリフォード「道理でよく転ぶと思ったぞ!」
クリフォード「ということは、売りつけられたときの『呪いのお面』という文句は……、」
クラフト「嫌だなぁ、なじみの君たちに呪いの品なんか売るわけないじゃないか。ただの呪いジョークだよ!」
アシステア、アインレーラ「……。」
アシステア「先生、つまりどういうこと?」
アインレーラ「ここにいる奴は全員、癖が強いが怪しくはないってこと、だな。」

フレデリック「……なるほど、だからゼディー最高議会員がこの店に来ていたのだな。」
ヨルスウィズ「そ。つーわけで、俺らはアインレーラ……、」
アインレーラ「おい。」
ヨルスウィズ「アインレーラにクリソツのこの子が探り当てた君の行動について、話を聞きたいわけだなー!」
アインレーラ「わざとやってねーか、お前。」
アインレーラ「つーか、何であいつらが知り合いだって先に言わなかったんだよ?初めから知ってたんだろ。」
ヨルスウィズ「えー、だって口を挟む暇なくってさー。お前ら、ノリノリなんだもん。」
アインレーラ「……。余計な恥かいちまった。」
アインレーラ「『あいつ』に知られてたら、癪だろうが。」
クリフォード「それにしても、クラフト。何故立ち入り禁止の森に入ったんだ?」
クリフォード「お前が信用できる人間だということはオレもフレデリックもよく知っている。だが、説明くらいは聞かせてもらわねばな。」
アシステア「あら?お兄さんたちも、あたしたちみたいにこのお兄さんに会いに来たんじゃないの?」
クリフォード「それは……、」
フレデリック「部外者には話せない事情がある。」
フレデリック「と、普段なら言うのだが……。今回ばかりは、違うかもしれん。」
ヨルスウィズ「こっちの二人は信用していいぜ。俺が保証するよ。」
ヨルスウィズ「つーか、今は俺がアシステアちゃんと一緒にこのクリソツ君の助手をしてるから、話はクリソツ君を通してになるんだなー。」
アインレーラ「おい、俺はそんな話聞いて……、」
アシステア「あたしが……先生の助手!」
アシステア「せんせいの……、じょしゅ……」
アインレーラ「……。」
フレデリック「……ならばお話しよう。我々はどうやら同じものを追っているようだからな。」
フレデリック「あらためて、我々は魔術協会治安維持部捜索課の者だ。情報課からの依頼を受けて、エルバスの森の異変の調査をしている。」
ヨルスウィズ「ふーん。治安維持部が動いているとは聞いていたが、お前らのことだったんだな。」
アインレーラ「お前が魔術協会ときっちり報連相しねーからこういうトラブルが起こるんだよ。」
ヨルスウィズ「あー、それで?何か分かったことある?」
フレデリック「原因が分かった。」
ヨルスウィズ「はっや!」
クリフォード「伊達にオレも有給を返上してないということですよ。」
フレデリック「そんな顔をするな、クリフォード。今度の休みは一緒にミステリーツアーにでも行こう。」
クリフォード「何故休日にまでお前と付き合わねばならんのだっ!」
アインレーラ「……それで?異変の原因って何なんだ。」
クラフト「『呪い』だよ。」

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