第5話:似ている二人

キーフェルン「……るん。」
ルスティ「危なかったな……。ユルエ、大丈夫だったか?」
ユルエ「う、うん。おかげさまで、何とか……。」
ユルエ「でも、ピエトロくんとリュカリュカちゃんも、るーくんと一緒にわたしたちを守ってくれて、助かったんだよ。」
ユルエ「ありがとう、二人とも!」
リュカリュカ「ひえっ!あ、うぅ、えと……、」
ピエトロ「こら!リュカリュカをいじめたら、友達のおれが許さんぞ!」
リュカリュカ「ピ、ピエトロ……!違うの、そうじゃなくて……、その……、」
アイザック「大丈夫だから、かな?」
リュカリュカ「あ、お師匠さま……、う、うん……。」
リュカリュカ「えと……、ユルエ、ちゃん。ど、どういたし、まして……!」
ユルエ「うん!」
ユウ「……森の異変って、結構深刻みたいだな。このモンスターたち、住処がずっと寒くて気が立ってたみたいだ。」
メルク「みゅうぅ、森に入ったとたんに襲われるとは思ってなかったのですよ……。」
ユウ「……あのモンスター、いなかったな。」
ユウ「俺があの時、癒せてたら……。」
シエラ「過ぎたことを口に出しても仕方がないわん。前向きに捉えようじゃない、私があなたの癒術をばっちり観察できたって。」
メルク「それは単純にシエラさんの得でしかないのではないのですよ?」
ユウ「でも、以外でした。シエラさんたちが俺たちを呼んだ目的が、癒術を見るためだったなんて……。」
シエラ「研究に役立ちそうだと思ってねん。」
ユウ「研究?」
シエラ「ええ。心の、研究。」
シエラ「心の業、心の情、心の理。心あるものが起こしうる神秘、人にすら度し難い『まじない』。それが……、」
ユウ「シエラさん!」
キーフェルン「……ルルン!」
メルク「みゅわわっ!まだ癒やしてないモンスターが居たのですよ!?」
ユウ「任せてください!俺が癒……、」
キーフェルン「……ルン!」
ユウ「へ……変幻自在のフットワーク!」
アイザック「くっ!『星よ。輝け。夜闇の果てまで』。『切れよ。防げ。障害と』……、」
シエラ「必要ないわ。」
ユルエ「わああっ!お、おっきな火の玉!?」
ルスティ「無詠唱であれ程の魔法を……!」
シエラ「『厄災』に立ち向かったこと、褒めてあげるわん。でも、相手が悪かったわね。」
シエラ「もっと面白くなって、出直して……、」
「はあっ!」
キーフェルン「……ルン!?」
ユウ「怯んだ……!」
キーフェルン「……るん。」
シエラ「……。」
アロイス「間に合ってよかった。……遅くなってごめんね。」
ルスティ「師匠!来てたんですね!」
アロイス「ごめんね、ルー君。魔法剣の性能向上の発表、質問攻めで長引いちゃって。」
シエラ「……あなたの助けなんて、いらなかったわ。」
アロイス「ああ、ごめんね。でも、勝手に体が動いちゃったんだ。」
アロイス「君が無事でよかった。」
シエラ「余計なお世話だわ。『厄災』が禍(わざわい)に見舞われるなんてありえないでしょ。」
シエラ「……まあ、恰好はついてたんじゃない。」
アロイス「ふふ。」
キーフェルン「るん……。」
ユウ「ん?」
キーフェルン「るん。」
キーフェルン「……るるん!」
「るんるん。」
メルク「あのモンスターたち、どこへ行くのですよ?」
ユウ「えーと……、こっちか?一体何が……、」
ユウ「って、何もないぞ?」
キーフェルン「るん!るん!」
アロイス「一体どうしたんだい?」
ユウ「それが、俺達にもよく分からなくて……。」
シエラ「ふうん。そうね……。」
メルク「シエラさん、どうしたのですよ?」
シエラ「癒やされたモンスターとなら、心を通わせることができる。なら、この魔道具も調整次第で通じるかも。」
メルク「魔道具……なのです?」
シエラ「ええ。最近、いくつか試作品を作ってたのん。」
シエラ「……丁度、心の研究をしていたものだからね。」
アロイス「心の……、」
キーフェルン「るん、るん!」
シエラ「そうねぇ、これをこうして……、この光を放つと……。」
キーフェルン「『まずったぜ。一族総出で見張ってたアレが、いつの間にか忽然と消えちまうとはよォ……!』」
ユウ「こゆい!こんなキャラだったの!?」
シエラ「読み取れた内容は、全部こんな感じで伝わるわ。」
ユウ「そのオプション、必要なんですか!?」
メルク「そ、それで、一体何がなくなったのですよ?」
キーフェルン「『……だ』」
メルク「みゅ?」
キーフェルン「『呪いだ!』」

キーフェルン「……。」
レルハルニー「『呪い』の欠片をモンスターが見つけているとは思わなかったが、……まぁ、大したことにならなくてよかったかな。」
レルハルニー「……へえ。」
レルハルニー「まさかお前が『ついてる』とは思わなかった。というか、こんなに小さいんだね。知らなかったよ。」
「……!……!」
レルハルニー「そう慌てるなよ。僕はお前からこれを取り上げたりしない。その代わり……、」
レルハルニー「お前には悪いが、しばらく大人しくしてもらうよ。」
「……!?」
「……。」
レルハルニー「うーん。面倒ごとばかり続くと、なかなかしんどいものがあるなぁ。」
レルハルニー「祭りの日は厄介事が起こると聞いたことはあるが、始まる前から、予想外のことばかりだな。」
レルハルニー「……『お前』のことも。」
レルハルニー「ところで……、僕はこれから屋敷に帰るつもりですが、君を招く予定はありませんよ?」
「気づいていたのか。」
レルハルニー「監視者を監視しようとするなんて、突飛なことをする人ですね。お名前聞かせてもらっても?」
「それよりも手っ取り早い方法がある。教えてやろう。」
レルハルニー「……おや、珍しい。魔道糸ですか。」
レルハルニー「そういえば、『彼』にはすこぶる優秀な教え子がいるんでしたね。」
リュナリュナ「白々しいな。僕のことも、あいつのことも、お前は知っているはずだろう。」
レルハルニー「違いますよ。アカデミーだけは、ゼディー最高議会員との取り決めで僕は直接、監視しないことになっているんです。」
レルハルニー「君の顔も今初めて見たところです。現に僕、とってもびっくりしているんですよ?」
リュナリュナ「……その『呪い』とやらをかき集めて、一体何をする気だ?」
レルハルニー「そういう君の目的も謎めいていますよね。僕の知る限りでは、君は愛する妹を案じてそのあとをつけていただけのように見えていましたが。」
リュナリュナ「はぐらかすな。この僕が尋ねているんだ、お前は従順に答えればいい。」
レルハルニー「うーん、そうですね……。」
レルハルニー「僕が君の言う通りにすると思いますか?」
リュナリュナ「なら答えてもらうまでだ。この僕の妹が生きる世界に、得体のしれない呪いなどは必要ない。」
リュナリュナ「『応えよ。縛れ。枷と謳え』!」
リュナリュナ「逃げたか。……まあいい、糸の先はつけておいたしな。」
リュナリュナ「……最後まで本気を出さないとは、不愉快極まる奴だ。あの男を思い出す。」
リュナリュナ「己の本心を全て教えず、腹を探ると姿を消すあたりもな。」

「『ーー報告は以上。引き続き、実地観察を継続する。』」
「『追記ーー』」
「『予想外の事態ばかりが起こるが……、魔術協会はそれでも、干渉してはならない。』」
ルナティーア「との、ことです。」
マリスジェム「……ふむぅ。」
ルナティーア「いかがされましたか、アポロシウス最高議会員。」
マリスジェム「ここまで来てもなお、手出し無用とは。『らしい』と言わざるを得ん。……そう思ったまでのことじゃよ。」

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