第11話:示して、神さま

ユウ「ちょっ、オルトス……!そんないきなり……、」
メルク「って、ユウさん!?」
ユウ「メルク!って、あっ、大声を出すとまずい……!部屋の外にいた女の子に聞かれたら……!」
ミシェリア「大丈夫でしょう。この部屋の声は、外へはほぼ聞こえないようになっていますから。」
ユウ「えっ、あ、そ、そうなん、ですね……、」
ユウ(この人が、猊下って呼ばれる聖ミシェリア……。でも、さっき盗み聞きした話だと、この日とは町の人が言うような聖女じゃない……)
ミシェリア「あなたは、翼が欲しいと言いましたね。」
オルトス「……そうだよ。」
オルトス「……けど、冗談だ。つい、言っちゃっただけ。」
オルトス「君がただの翼の大きな女の子ってことはわかった。……兄さんが僕に君のことを教えなかった理由もね。」
オルトス「忍び込んでごめん。神さまに翼をくださるように祈りに来たんだけど、僕が祈るべき場所はここじゃなかったみたい……、」
ミシェリア「その申し出、聞き届けましょう。」
オルトス「えっ……、」
ミシェリア「あなたに、この翼の半分をさしあげます。」
オルトス「……本当に、そんなことができるの?」
ミシェリア「あなたは、その翼なき身でどうやってここへ来たのですか?」
オルトス「それは……、翼を落とされた罪人用の橋を通って……、」
オルトス「……!……もしかして、落とした翼って誰かに与えることができるの?」
ミシェリア「その通りです。夜明けの光と共に、翼は失われ、そして与えられる。」
ミシェリア「ただし、与えられる相手は天空の民のみ。そして、すでに翼を持っている場合は、与えることができません。」
オルトス「そんな……、翼を誰かに譲渡できるなんて……、それは、神さまの……、」
ミシェリア「神が、どうしてこのような魔法を我々にお与えになったのかはわかりません。」
ミシェリア「しかし、聖女として連れてこられたわたしが、初めて知った魔法が、この魔法でした。」
ミシェリア「翼を与えられることは数人の枢機卿の方々を除いて、他の誰にも知られてはおらず」
ミシェリア「そして、翼を持たない天空の民がここまで来ることも、本来あるはずのなかったことなのです。」
オルトス「そんな、ことが……、」
ミシェリア「……どうしますか?」
オルトス「……、君は、いいのか?」
ミシェリア「……。」
ミシェリア「……儀式の準備が必要ですね。ピスティアにお願いしましょう。わたしのことは、心配いりません。」


ピスティア(待って待って待って、どういうことなの……?さっき猊下から言いつけられたことは、現実?それともわたしの夢?)
ピスティア(猊下が自らの翼の半分を落とされるなんて、嘘だよね?そんなこと、神がお許しになるはずがない。猊下がそれをおわかりになってないはずがない)
ピスティア(ああでも、神にもっとも近しいお方ゆえにわたしには理解できないだけ?ラヴィオルさまなら、おわかりになられるの?)
ピスティア(どうしよう、わたしはどうしたらいいの?猊下の言いつけに背くべき?それとも、言いつけ通り儀式の準備をする?)
ピスティア(でも、そうしたら猊下は……)
ピスティア(だけど、猊下のなさることに、侍者であるわたしが口出しするなんてそれこそ神の罰を受けるに値することなのかも……)
ピスティア(ああ、神さま……、わたしはいったいどうすればいいのですか?)


ミシェリア「外は、明るいですね。」
メルク「みんな、ミシェリアさんが聖宮に来たことを一晩中、お祝いしていると聞いたのですよ。」
ミシェリア「……、」
メルク「……ミシェリアさん、本当によかったのですよ?たしかに、翼を半分にすれば翼が軽くなって飛べるようにはなるかもしれないのですが……」
メルク「自分で翼を失おうとすることは、空の国では1番の罪だと聞いたのです。」
メルク「オルトスさんたちには大丈夫だと言ったものの、儀式がうまくいっても、いかなくても、もしかするとミシェリアさんは大変なことに……、」
ミシェリア「メルクさん。」
ミシェリア「あなたもその自ら動くことのかなわぬ身で旅に出ることは、いくらご友人がいたとはいえ、大変なことだったのではありませんか?」
メルク「それは……、」
ミシェリア「あなたには、わかるはずです。この身を賭してでも、望むものがあることを。」
メルク「ミシェリアさんのそれが、飛ぶこと、なのですよ?」
ミシェリア「いいえ。」
メルク「みゅ?」
ミシェリア「わたしには、知りたいことがあるのです。この身を賭してでも、確かめずにはいられないことがある。」
メルク「知りたい、こと……、」
ミシェリア「あなたが自らの真実を探すように、わたしもまた、真実を知りたいのです。」
メルク「では……、ミシェリアさんが探している真実というのは、いったい……、」
「げ、猊下……、」
メルク「ピスティアさん?」
ミシェリア「……あの子には、酷なことをさせてしまったかもしれませんね。」
「ら、落翼の儀の準備が、とと、整い、ました……」


フェイエル「見つかりませんね……。もうほとんど探したはずなんですが……、」
フェイエル「あの、団長?」
ラヴィオル「……、」
フェイエル「えっと、団長、どうかされました?」
ラヴィオル「……いや、なんでもない。引き続き、聖都を探索しろ。」
フェイエル「は!」

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