第12話:祝日

オルトス「ふふ、きれいだなあ。見てみなよ、地上にこんな景色あるかい?」
ユウ「おい、あんまり端に行くなよ。手すりも柵も、何もないんだぞ。」
オルトス「町中が、聖ミシェリアの日を祝って、輝いてる。来年からは僕も、あの中に混ざることができる。僕も、聖都を彩る輝きのひとつになれるんだ!」
ユウ「聞いてないな……。」
オルトス「ほら、こっちに来てみなよ。ここからの眺めが1番素敵だ。」
ユウ「だから、危ないって……、」
ユウ「……たしかに、きれいだ。」
オルトス「だろう!?夜明けの光とともに、僕はこの光景を手に入れることができる。」
オルトス「みんなと同じように、翼に光をきらめかせ、水の模様を映して、聖都を輝かせるんだ。」
オルトス「それから、雨の日には、みんなで雨を喜び合って、お祝い事に日には、知らない人とだって、一晩中、歌って、騒いで、踊り明かす!」
オルトス「兄さんは、驚くだろうな!でも、きっと喜んでくれる!」
オルトス「僕らはもう兄弟だってことを隠さなくたっていい!兄さんも、他の人に隠れて塔へ忍んでこなくたっていい!僕らは、本当に自由になれるんだ!」
オルトス「……、」
オルトス「……。」
ユウ「……、」
ユウ「オルトスの言う通り、こうやって見ると綺麗な町だよな。あちこちで光が輝いてさ。あの下で、雨に濡れて走ってたことなんて嘘みたいだ。」
オルトス「……そうだね。」
ユウ「半径1メートルって言わないのか?」
オルトス「……最後だからね。」
ユウ「なら、握手でも……、」
オルトス「そこまでは許してない。」
ユウ「なんだそれ。」
オルトス「……ねえ、この光景を見てもまだ、地上にも聖都に負けないくらい綺麗な場所があるって言える?」
ユウ「言えるさ。」
ユウ「たとえば……、常夏の国の海には月の光を弾く魚が泳いでて、まるで海が光ってるみたいだし」
ユウ「雪の国には冬想祭ってのがあって、その夜はミルカっていう民族衣装を着た人たちが町中にいて、賑やかなんだ。」
ユウ「砂漠の国の夜は寒いけど、透き通った感じがするし、月明かりの下のオアシスはとても幻想的だ。」
ユウ「動物の国では綺麗な花火を見たし、それから……、」
オルトス「ほんとかな。」
ユウ「まだ信じてな……、」
ユウ「……、」
オルトス「彼らは、どこへ飛んで行ったんだろう。どうして、飛んで行ったんだろう。」
オルトス「この聖都を離れるほど、すばらしい場所があったのかな。それが、君のいう綺麗な場所なのかな。」
ユウ「彼ら?」
オルトス「僕の友達の話だよ。真っ白な翼をした、2羽の渡り鳥。」
オルトス「片方は、まだ巣立ったばかりの子供で、飛ぶ練習の途中で、よく塔に来てたんだ。もう1羽は、たぶん親か、兄弟だろうな。」
オルトス「この数か月、仲良くしてたけど……、今朝、僕を置いて、どこかへ飛んで行ってしまった。」
ユウ「……どんな鳥なんだ?」
オルトス「こう……、白い翼で、結構大きい。」
ユウ「その説明に当てはまる鳥が、いくらいると思ってんだよ……。」
ユウ「けど、世界中を飛び回る渡り鳥もいるって聞いたことあるし、もしかしたら俺も見たことある鳥なのかもしれないな。」
オルトス「もし会えたら、僕のことをよろしく伝えておいてよ。」
ユウ「だから、どの鳥かわからないって……。」
オルトス「これだから地上の民は……、」
ユウ「これは明らかにお前の説明が駄目だろ。」
オルトス「……彼らのこと、好きだったのに今思い返したら、どんな風だったのかよく思い出せないんだ。」
オルトス「ただ、塔から遠ざかっていく2つの翼のきらめきだけが残ってる。」
オルトス「……、好きと同じくらい、うらやましかったのかも。」
ユウ「……翼なら、夜明けになれば手に入るだろう?」
オルトス「……?」
ユウ「……?翼がうらやましかったんだろ?」
オルトス「……あ。」
オルトス「……ああ、そう、だね。そうだ、そうだよ。だから、もう羨む必要もないんだ。」
オルトス「ほら、見てみなよ、中央の広場。みんなが集まってる。夜明けが近いんだ。」
オルトス「ああ、でも今日は雲がやけに分厚いから、夜明けの光はまだかな……。」
ユウ「雨が降ったしな……。けど、どうして夜明けに広場に集まるんだ?」
オルトス「大抵のお祝い事の日では、夜明けと同時に、みんなで空に向かって乾杯するんだよ。」
オルトス「今日は聖ミシェリアの日だから、彼女が聖宮に来たことを祝うんだろうな。」
ユウ「それにしても、すごい人だな。」
オルトス「そりゃそうさ。町中の人が彼女を祝うんだ。」
ユウ「へえ……、」
オルトス「あと少し、あの乾杯の声が聞こえた時が、僕が生まれ変わる時だ。」
オルトス「……あーあ、後1日早ければ、15歳と16歳で区切りがよかったのに。」
ユウ「区切り?」
オルトス「僕は今日で16になったんだ。でも、夜明けになると、16歳と1日だろ?」
オルトス「だから、あと1日早ければ、16歳から心機一転って感じだったのになって。」
ユウ「今日、誕生日だったのか。」
オルトス「そうだよ。まあ、聖ミシェリアの日に比べればたいしたことない……、」
ユウ「おめでとう。」
オルトス「……、」
ユウ「オルトス?そりゃあ、地上の民である俺に祝われるのは嫌かもしれないけど……、」
ユウ「って、どうした!?」
オルトス「……わからない。あと少しで君とお別れできる、うれし涙かも。」
ユウ「ええっ、そんな涙嬉しくない……。」
オルトス(なんだろう、止まらない。勝手に出てくる)
オルトス(はじめてだ。こんな、……こんなの)
ユウ「えっ、ちょっ、待って、俺のせい?ほんとに俺のせい?そんなに嫌だったのか、えっ、なんかゴメ……、」
「あそこですっ!」
ユウ「なんだ……!?」
オルトス「あれは……、」
オルトス「兄さん……?」

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