第13話:正体-identity-

ピスティア「ご、ごめんなさい、ごめんなさい、猊下……っ!でも、でも、わたし……!このままじゃ、猊下が大変なことになると思って……っ、」
ミシェリア「ラヴィオルに、伝えたのですね。」
ピスティア「はい……っ!」
ミシェリア「それがどういうことか、わかってのことですね?」
ピスティア「わ、わたし、どんな罰も受けるつもりです……っ!翼を落とされて、地上に落ちたってかまいません……!」
ミシェリア「……そうなれば、もしわたしが神のもとへ侍ることとなったとしても、あなたにはなんら関わりのないこととなるのですよ?」
ピスティア「そ、それでも……!猊下が翼を失って苦しむことになるのは、わ、わたし、いやなのです!」
ピスティア「もう、もうこんなことはおやめください!」
ピスティア「たとえ、わたしが知らない神のご意思を猊下がご存じで、神のお導きのままに翼を失おうとなさっているとしても!」
ピスティア「皆はきっとわかってはくれません……!翼を失った猊下を、恐れ多くも聖宮から追い出すかも……!そんなのは、猊下があんまりにもおかわいそうです……!」
ピスティア「げ、猊下は……!幼いわたしをお救いくださいました!」
ピスティア「そんな、お優しい猊下が、たとえ神のお導きと言え、苦しまれることになるのは、わたし、いやなのです!」
ミシェリア「神のお導きでは、ないのです。」
ピスティア「猊下……、」
ピスティア「それならば、なぜ……?わたし、いつもわからない。猊下が、何をお考えになっているのかわからないんです……!」
ピスティア「猊下は、神にもっとも近いお方であるのに、地上の者に会おうとしたり、こうして翼を失おうとしたり……!」
ピスティア「こんなに、猊下のお気持ちもはかれないなんて……、ピスティアは、侍者失格です……!」
ミシェリア「ピスティア。」
ピスティア「猊下……?」
ミシェリア「本当はね。あなたがわたしをわからないのと同じように、わたしにも神さまのことがちっともわからないんです。」
ピスティア「え?」
ミシェリア「だから、確かめたかった。」
ミシェリア「……神さまが、本当にいらっしゃるのかどうか、を。」
ピスティア「……、」
ピスティア(……このひとは。わたしと同じ、ただのひとだ。ただの、やさしいおんなのこ。なんだ……)


フェイエル「これは、いったい……、ピスティア殿の話では、翼を持たぬ者を夜明けの光に当たらぬようにしてほしいとのことでしたが……、」
オルトス、ユウ「……、」
フェイエル「翼の見えぬ者が2人います。」
オルトス「に……、」
ラヴィオル「片方には光輪がある。大方、翼に怪我でもおっていて、それを恥じて、布を纏っているんだろう。」
フェイエル「しかし、どうして地上の者とともに……、もしや、あの者が塔から逃がす手引きを……、」
ラヴィオル「まさか、そんなわけがないだろう。そんなことをすれば、その者はここにはいられなくなる。」
ラヴィオル「天空の民であれば、聖都への出入りを禁じられるようなことはするはずがない。」
フェイエル「それもそうですね……。万が一、そんなことをして許されるのは、神のご意思をもっともよくご存じの猊下のみ……。」
フェイエル「しかし、それでは地上の民の隣にいるあの者は、いったい何なのでしょう……。」
ラヴィオル「天空の民に、決まっているだろう。」
ラヴィオル「そうだな?」
オルトス「……、」
ラヴィオル「……地上の民と共にいたのは、偶然だな?」
オルトス「それ、は……、」
フェイエル「なにか答えないか。このままでは、君を地上の民と共に捕らえることとなるぞ。」
オルトス「……、」
フェイエル「まさか、地上の民の手を取る気か?」
オルトス「ぼくは……、」
オルトス「僕は……!」
ユウ「オルトス。」
オルトス「……!」
ユウ「……やっぱり、俺、お前のこと嫌いになれないや。」
ユウ「俺なら、なんとかなるからさ。ほら、ようやく憧れてた聖都の一員になれるんだぜ。いつもみたいに半径1メートルって言えよ。」
オルトス「……、」
ユウ「……まあ、俺が離れればいい話か。」
オルトス「ま……っ、」
オルトス「風が……っ!」
ユウ「……あっ、やばい。お前に落ちるなよって言った側なのに……、」
ユウ「うわあああっ!」
「ユウ……ッ!」

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