第14話:暁光の梯子

ユウ「やばい、これはやばい……!ユウストーリアが終了する……!メルクの記憶も取り戻してないし……、」
ユウ「というか、メルク、宮殿に置いて来ちゃったし……!」
ユウ「そもそもなんだよ、あの風!まさか俺が掟を破って聖都に入ったからか!?それで空の国の神さまが怒って、神秘的な……!?」
ユウ「ああ~っ、そうだとしたらごめんなさい、神さま!でも俺もメルクを置いて、国を出るわけにはいかなかったんです~っ!」
ユウ「今朝、いや昨日?とにかく雲喰いっていうモンスターから聖都を護るのを手伝ったからそれでなんとか許して……、」
ユウ「って、曇天!空中、雲に覆われてもう夜明けのはずなのに一筋の光すらない……!?」
ユウ「えっ、待って、ほんとに!?ほんとに神さま怒らせちゃったから!?だから、俺の祈りは断固拒否するぜ、的な曇天なの!?」
ユウ「あっ……、俺、終わった……!」
「うわああああああっ!」
「あああああ……、」
「……あ?」


「……天使、だ。」
「遅いよ。もう天使じゃなくなった。」


ユウ「……、」
ユウ「手!」
オルトス「なんか、地上の民の手も、僕らの手も、そう変わらないね。」
ユウ「そうじゃなくて!」
ユウ「いいのかよ?直接触ったら、天空の民じゃなくなるとかなんとか……、これじゃあもう聖都には……、」
オルトス「いいさ。僕は、天使じゃなくて、友達と呼ばれたいから。」
オルトス「僕が君のことを、本当は地上の民じゃなくてユウと呼びたいように。」
ユウ「……、」
オルトス「わ、見てみなよ、ユウ!君の向こうに世界が見える!」
ユウ「え?」
オルトス「君の世界は……、君が言っていた通りだ。海は輝いてるし、砂漠のオアシスはまるで宝石みたいだ。」
オルトス「遠くの方で、なにかが煌めいてる。あれは花火ってものかな。まるで翼のきらめきみたいだ。」
オルトス「おっと、危ない!」
ユウ「うわっ!い、いきなり急浮上するなよ……!」
オルトス「それなら君だけ急降下を続けるかい?真下の鳥の群れが受け止めてくれるといいけど。」
ユウ「嘘です、鳥の群れに突っ込むところをひっぱりあげてくれてありがとうございます!」
オルトス「よろしい。」


白い鳥「チチッ!」
白い鳥「チッ!」
オルトス「あっ、あの2羽……!」
オルトス「ユウ、見てみなよ!あの2羽だ!僕の友達!」
ユウ「えっ、どこ!」
オルトス「もうむこうに行った。」
ユウ「というか、これだけの大群の中、俺には見分けが付かないよ……。」
ユウ「ん?この鳥……、」
オルトス「どうかした?」
ユウ「地上でも見たことある種類だ。もしかしたら、地上を旅してたら、ほんとにその2羽と会うこともあるかもな。」
オルトス「……彼らは、知ってたのかな。聖都に負けないくらい、美しいものが地上にもあるって。」
ユウ「オルトス?」
オルトス「ユウ、見上げてみなよ。聖都が、もうあんなに小さい。」
オルトス「塔から憧れてた時は、あんなに大きかったのにな……。」
ユウ「……、」
ユウ「ここからあがっていくの、大変だろうな……。」
オルトス「まったくだよ。それも、君を抱えてなんてさ。」
オルトス「あっ、そうだ!」
オルトス「このまま、地上に降りて君と世界中を旅するってのはどう?悪くないと思うけど。」
ユウ「メルク、置きっぱなしだよ!」
オルトス「あっはっは!それもそうだ!」
オルトス「それじゃあ、戻ろうか。」
ユウ「……ごめん。」
オルトス「もういいんだ。」
オルトス「僕が思っていたもの以外にも、美しいものはたくさんあって、僕が欲しかったものは、翼があってもなくても手に入るものだった。」
オルトス「……それに、僕もあっちに大切な人を置いてきてるからね。」
ユウ「……、」
オルトス「……ねえ、ユウ。」
オルトス「きっと、これから君の世界を、天の世界と同じくらい好きになる。ぜんぶ、君がおしえてくれたんだよ。」
ユウ「……、」
オルトス「だから、ありがとう。」
オルトス「怪我の手当てをしてくれたことも、僕を塔から連れ出してくれたことも。」
オルトス「ありがとう。」
オルトス「僕、君のことが好きだ。」


ミシェリア「……、」
ピスティア「猊下、翼が……!」
ミシェリア「聖テアトリミアの、奇跡……、」
ピスティア「猊下……?」
ミシェリア(罰を、待っていた。神が、わたしにくださる罰を。恐れ多くも、神を確かめようと)
ミシェリア(ああ、でも。神は罰のかわりに祝福の光をお与えになった)
ミシェリア(わたしはきっと、あの2人の向こうに、神を、みているのだ)
ミシェリア(神は、天にいらっしゃる。けれども、ひとしく我らの心にもいらっしゃる)
ミシェリア(ひとが、ひとを愛し、救おうとするこころ。落ちることを恐れながら、それでもなお誰かのために飛び立とうとするこころ)
ミシェリア(そこに神は、静かにたたずんでいらっしゃる。ひとを救うのは、神ではない)
ミシェリア(友を、自らを、敵を救うのは、ひとだ。己なのだ)
ミシェリア(神が、わたしに大きな翼を与えたのは、わたしのなかにお住まいになっているから)
ミシェリア(わたしは盲目だったのだ。こんなに近くにおられる神のことすら見ることができなかった)
ミシェリア(けれど、今、神の光に目を洗われたこの時から、わたしには見える。神が、わたしの中にいらっしゃることを)
ミシェリア(もう、私には大きな翼はないけれど、わたしに救いを求める者を救い、救われよう。愛を求める者を愛し、愛されることを喜ぼう)
ミシェリア(それこそが、神のお側に侍るということ。初めから翼などいらなかったのだ。重かったのは、翼だけではなくて、この肉体だったのだ)
ミシェリア(この心だけが、天へと上ることのできる唯一のものだったのだ)
ピスティア「……、」
ピスティア「猊下……、」
ピスティア(ああ、このひとは。いま、ほんとうに、聖女さまになられたのだ)


ラヴィオル(ああ、そうか。そうすれば、よかったのか)
ラヴィオル(……そうしても、よかったのか)
フェイエル「今、あの少年から翼が生えたように見えましたが……、あの者はいったい何者……、」
ラヴィオル「弟だ。」
フェイエル「え?」
ラヴィオル「つい先ほどまで、翼を持たなかった、私のたったひとりの弟だ。」
フェイエル「翼を持たない……?えっ?えっ!?」
ラヴィオル「……私は、聖宮守護団を辞す。」
フェイエル「それは、どういう……、」
ラヴィオル「もう、鳥籠を護りつづける必要もなくなった。」
「あれだけ分厚い雲だったのに光が……、」
「いったい何が起こったんだ!?」
「聖テアトリミアの奇跡の再来だわ……!ああ、聖翼たるミシェリアさま……!」
「あの少年はなんだ!?」
「地上の民だ……!」
「祝福の光が地上の民になんて、どういうことだ……!?」
ラヴィオル「……その前に、騒ぎをおさめるのが先か。」
ラヴィオル「フェイエル。気にくわないだろうが、今はまだ私に指揮権がある。広場へ向かい、民衆を……、」
「聖都のみなさん。」
フェイエル、ラヴィオル「……、」
「猊下だ!猊下がいらっしゃった!」
「だが、翼が……!翼が半分になられて……!」
「なんてことだ、やはり地上の民が……!」
ラヴィオル「……、」
ラヴィオル(……ミシェリア様は、確かめられたのか。神の、存在を)
ミシェリア「……、」
ミシェリア「翼は、神があの少年に与えました。」
ミシェリア「神が、わたしたちに翼をお与えになったのは、地上の民を憐れむためでも、軽視するためでもない。」
ミシェリア「ひとを愛し、救い、手をさしのべるため。そして、そのこころにこそ、神はいらっしゃる。ゆえに神は……、」
ミシェリア「あの少年に翼を、そして、厚き雲を破られ、祝福の光をお与えになられたのです。」
「聖ミシェリアさま……、」
「なんと神々しい……、」
「この盃を、我らが猊下に……!」
「わたしも……!」
「おれも!」
「聖ミシェリアの奇跡に!」
ラヴィオル「……、」
ラヴィオル(雲、か……、)
ラヴィオル(雲の切れ間に見えた影……、あれは、あの癒術士の少年が癒した雲喰いだった。先ほどの強風に乗ってきたのだろうが……)
フェイエル「聖ミシェリアさま……、」
ラヴィオル(このタイミングで、雲喰いが現れ、雲を食い、光が差し込むなど……)
ラヴィオル(これは、偶然なのか。それとも、神の手による必然なのか。……私には、未だにわからない)
ラヴィオル(だが……、どちらにせよ、それぞれの心にいるのが、やさしい神であればいい)
ラヴィオル(慈しみと寛容にみちた、やさしい神であればいい)

タイトルとURLをコピーしました