第3話:離塔

ラヴィオル「ピスティア殿……!」
ピスティア「戦況の方は……!」
ラヴィオル「……ご安心を。無事、雲喰いは追い払ったと猊下にお伝えください。」
ピスティア「ええっ、あの雲喰いをもう!?」
ピスティア「さすがはラヴィオルさまです!きっと猊下もお喜びになられるに違いありません!わたし、すぐにご報告に……、」
ピスティア「あれ……?」
ラヴィオル「……なにか?」
ピスティア「そこにいる方……、ま、まさか……、地上の民ですか……!?」
ラヴィオル「……ええ。しかし、すぐに連れ出しますので。」
ラヴィオル「……フェイエル、持ち物を調べておけ。いくら神のお導きとはいえ、地上の民だ。あまり長居をさせるつもりはない。」
フェイエル「は!」
ピスティア「持ち物を調べるまでもなく、離塔へ連れていくべきです!万が一、地上の民の影響で猊下に何かあったら……!」
ラヴィオル「待たれよ、ピスティア殿。この者は雲喰い討伐の際、癒術なる力でこの聖都を護るために力を貸してくれたのです。」
ラヴィオル「神のお導きゆえの行いであり、聖都立ち入りの罪は赦されるでしょう。」
ラヴィオル「そのような者を離塔へ連れゆくことは、神のご意思に反します。」
ピスティア「地上の民が、聖都を護る……?で、でも、地上の民は、未だに神の許しを得ぬ、翼なき者たちだと侍者見習いの時に……、」
ラヴィオル「翼なき者もまた、天の下にすまうものには違いがない。癒術なる力も、神が慈悲として地上の民に与えた贖罪の力とおっしゃる方々もおられます。」
ピスティア「それはそうですけど……、」
ラヴィオル「安心なされよ。争いごとは聖宮に近づけない定め。」
ラヴィオル「もとより、猊下にもっとも近しきあなたを、地上の民に関わらせるわけにはいかない。」
ラヴィオル「私が守護役として責任をもって、この者をこの地から連れ出しましょう。」
ピスティア「ラ、ラヴィオルさまがそこまで言われるのなら……、」
「あわわわ、ま、待ってください!そのビンは……、」
ラヴィオル「……どうした。」
フェイエル「団長、これは……、」
メルク「みゅ、みゅ~……。」
ピスティア、ラヴィオル「……、」
ピスティア「水が形をとって、お話しなさってる……。」
ラヴィオル「何か地上の魔術では……、」
ピスティア「聖なる水の方です……!そうに違いありません!」
ピスティア「きっと、神さまが地上の民から、聖なる水の方をお救いするために、ここへその者をお導きになったんです!」
ピスティア「聖なる水の方を、猊下のもとへお連れしなくては!」
ピスティア「ああっ、おかわいそうに水の方!地上の者に囚われて……!」
ラヴィオル「それは早計というものでは……、」
ピスティア「で、でも、さきほども、その者は水のお方を隠そうとしていました!あやしいです!」
ユウ「それは……!その、空の国じゃ、水は神聖なものだって聞いてたから、間違われたら駄目だと思って……!」
ピスティア「間違う?」
メルク「そうなのです!私は厳密には水ではないのですよ!というか、私も私が何なのかわからないのです!」
メルク「なので、空の国で大切にされている水と間違われてはいけないと……、」
ピスティア「え、ええっ?み、水の方……、ど、どうしたら……。」
ピスティア「で、でも、あなたさまのお言葉の審議をわたくしが定めるわけにはまいりません。猊下のもとへお連れいたします!」
メルク「みゅっ!?待つのですよ!ユウさんは……、」
ピスティア「で、では、ラヴィオルさま。しばらくの間、その地上の者を離塔へ。罪があるかないかは、猊下がすべて知っておられますから!」
ラヴィオル「……心得ている。」
ラヴィオル「フェイエル、私は先に離塔の様子を見てこよう。」
ラヴィオル「その少年を連れている時に、モンスターに襲われでもしたら面倒だからな、適当に追い払っておく。」
ラヴィオル「お前は後から、その少年を連れて来い。その体格ならば、お前の羽でも持ち上げられるだろう。」
フェイエル「はっ!」
ユウ「えっ、ちょっ……!ま、待ってください!俺は……っ、」
ラヴィオル「―。」
ユウ「え?」
ラヴィオル「では、フェイエル。後は任せた。」
フェイエル「はい!」
ユウ「……。」
ユウ(どういうことだ……。悪いようにはしない、って……)

フェイエル「ついたぞ。」
ユウ「ここが、離塔……。ううっ、酔った……、」
フェイエル「ラヴィオル団長があらかじめモンスターを追い払ってくださってなかったら、もっと大変だったんだぞ。」
フェイエル「だが……、翼を持たない者たちだものな。それも当然か。」
フェイエル「憐れなことだ。」
ユウ「……、」
フェイエル「それにしても、作られてから1度も使われてないはずなのに、やけにきれいだな。」
フェイエル「もっと埃が積もっててもよさそうなものだけど……。それに団長は……、」
ラヴィオル「お前たちを待つ間に片づけておいた。」
フェイエル「団長!?モンスターを追い払うだけでなく、そんなに早くおつきになっていたんですか!?」
フェイエル「す、すみません、そうとは知らず……!言ってくだされば、私がやりましたのに……!」
ラヴィオル「ついでだ、気にするな。モンスターが帰ってこないうちに、先に聖都へ戻っていろ。」
フェイエル「え、団長はどうされるんです?」
ラヴィオル「水の方について、この少年に聞いておきたい。」
フェイエル「それなら私もお手伝いを。団長を地上の民と2人きりにさせるわけにはいきません。」
フェイエル「団長を補佐して、お守りすることも、副団長の役目ですから。」
フェイエル「じゃあ、私はあちらの部屋から机をとってきます。たしか、机とベッドは備え付けられてましたよね?」
フェイエル「離塔に入るのは初めてなので、ちょっと勝手がわからないんですが……、こっちかな……。」
ラヴィオル「いや、待て。」
フェイエル「はい?」
ラヴィオル「ならば、先に猊下へ報告をしたほうがいいだろう。事情を聞くのはその後だな。フェイエル、行くぞ。」
フェイエル「えっ、あっ、は、はい!」
ラヴィオル「……なにもしてくれるなよ、地上の民。そうすれば、悪いようにはしない。」
ユウ「あっ、ま、待ってください!あの、メルクは……!」
ラヴィオル「……、」
フェイエル「……猊下が、あの水の方をお認めになられたら、君が水の方の側に行くことはもうできないだろう。神から翼を与えられない限りは。」
ユウ「……、」
ラヴィオル「フェイエル。」
フェイエル「す、すみません……。かわいそうで……、」
ラヴィオル「……。」
ラヴィオル「行くぞ。そろそろモンスターが風の道を通り始める時間だ。」
フェイエル「はい。」
「それにしても、団長ってやっぱりすごいですね……!部屋を掃除するほど時間があったなんて……。どうやったらそんなに早く飛べるんですか?」
「……風の向きがよかっただけだ。」
「ええっ、それだけであんなに早く塔まで辿りつけるもんなんですか……、」
ユウ「……、」
ユウ(や、やばい……。メルクの正体は俺も知らない。もしかしたら、本当に空の国の神さまに関わりがあるのかも)
ユウ(そしたら、あのフェイエルって人が言ってたように、もうメルクには会わせてもらえないぞ……!そのまえに、メルクに会わないと……!)
ユウ「なんとか、ここから出る方法は……、」
「驚いたな。君、ここから出られるつもりでいるんだ?」
ユウ「え?」

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