第6話:チョコレート城

ジネット「はあ~……!」
ミル(ホワイトミル)「どうしたの?」
ジネット「ミル兄……。」
ジネット「それが、半年前にミル兄からもらったチョコレートを売ってるお店が見つからないんだ。限定販売だったのかなあ……。」
ミル「というか、そもそも売ってないけど。」
ジネット「えっ!」
ミル「あのチョコレート、ボクの知り合いが作ったものだから、あれだけしかないよ。」
ジネット「そ、そんなあ……。せっかくフランの誕生日プレゼントにあげようと思ったのに……。」
ミル「フラン?新しい友達?」
ジネット「うん!すっごくかわいくて、ちょっとわがままだけど、ほんとは努力家の照れ屋さんなんだ。」
ジネット「よく知らないけど習い事が忙しいらしくて、たまにしか会えないんだ。でも、おひめさまみたいな女の子なんだよ!」
ジネット「それで、今度その子の誕生日会に誘われたんだ。」
ジネット「その子も、あのチョコレートが好きだったから、プレゼントに持って行こうと思ったんだけど……。」
ミル「ふーん。そういうことなら、頼んどいてあげるよ。」
ジネット「えっ、いいの!?」
ミル「うん。あいつ、そういうの好きだから。」
ミル「あ、でも、なんかチョコレート作ってるのを知られるのが恥ずかしいとか言ってたから、誰かは内緒ね。チョコレートもボクが取りに行くから。」
ジネット「そうなんだ……?」
ジネット「でも、ありがとう!その人にもお礼言っておいてね!」
ミル「うん。その子の好みとかあるなら伝えておくけど。」
ジネット「ほんと!?」
ミル「そういうの好きだから。」
ジネット「やった!フラン限定のチョコレートなんて、最高の誕生日プレゼントだ!」

ジネット「へへへへー。」
フランシール「何を笑ってるの?」
ジネット「明日の誕生日会、楽しみにしててね!ボク、とびっきりのプレゼントを用意したから!」
フランシール「そ、そう……。」
フランシール「それより、あなた、誕生日会にはドレスを着てこないの?」
ジネット「えっ?ドレスかあ……。」
フランシール「あなただって服装をちゃんとすれば、女の子らしく見えるはずよ。」
ジネット「うーん……、たしかに興味はあるけど……。……でもいいんだ。」
フランシール「どうして?」
ジネット「フランがそうやって素敵な格好をしてるから、そんなフランを見てるだけで満足なんだ。」
ジネット「ボクは女の子らしい仕草も苦手だし、フランみたいに素敵な髪じゃないし……、」
フランシール「……、」
フランシール「でも、わたくし……、本当はこの髪、好きじゃないの。……お父様はチョコレート色の髪なのに、わたくしだけ、こんな真っ白……。」
フランシール「これで……、これでちゃんとした女王になれるのかわからない……、」
ジネット「……?えっと、よくわからないけど……、フランはおひめさまより、女王さまになりたいの?」
フランシール「……、ならないと、いけないのよ。1人で立てる、立派な女王に。」
ジネット「ふーん?だから、たくさん習い事してるんだ?」
フランシール「ええ。チョコレート色を受け継がずとも、女王としてふさわしくなるために……。」
ジネット「そっか……。」
ジネット「でもボクは、フランの髪、好きだよ。ホワイトチョコレートみたいだ。」
フランシール「……、」
ジネット「フランは、ちょっとわがままで、偉そうで、すぐ拗ねるし怒るけど……、ほんとは照れ屋で、頑張り屋で、優しい人だから。」
ジネット「大丈夫。フランならきっと素敵な女王様になれるはずさ。」
フランシール「ジネット……、」
ジネット「あっ、でも、ボクにとっては、ずっとおひめさまでいてよ。そうしたら、フランが困ったときは、ボクが助けてあげられるだろ?」
フランシール「……!」
フランシール「うん。」
ジネット「ずっと友達でいてね、フラン!」

ミル「あ、頼まれていたチョコレート、置いておいたから。」
ジネット「ありがとう!……わあ、おいしそう……!」
ミル「まあ、子供向けだからね。」
ジネット「ミル兄はいつも子供子供って……。」
ジネット「まあ、いいや。」
ジネット「……1つくらい食べても……、い、いや、どうせ食べるならフランと半分こして食べるんだ……。」
ジネット「というか、そもそもこれはフランのためのチョコレートなんだから!」
ミル「ね、時間いいの?」
ジネット「あっ、もうでなくちゃ!ミル兄ありがとう!」

ジネット「まずい、急がないとおくれちゃ……、」
ジネット「わっ!?」
ジネット「いたた……、」
ジネット「あっ!?どうしよう、チョコレートが……、」
ジネット「箱はちょっと汚れちゃったけど……、」
ジネット「うん、中身は大丈夫だ!」

ジネット「へへ、フラン、喜んでくれるかな……、」
フランシール「……、」
ジネット「あ、フラ……、」
招待客「フランシール様!」
フランシール「……!」
招待客「こんなとこにいらっしゃったのですね!」
招待客「10歳のお誕生日おめでとうございます。こちらは、私の専属ショコラティエが作りましたチョコレートでございます。」
招待客「Aランクの材料をふんだんに使用し、ショコラティエは昨年のコンテストで優勝を飾ったかの高名なグランマニエ!」
招待客「フランシール様へのお祝いの品として、ふさわしいチョコレートであると自負しております。」
フランシール「……ありがとう、いただくわ。」
招待客「いかがでしょう?」
フランシール「……とてもおいしいわ。」
招待客「そうですか!未来の女王陛下にそう言っていただけると、我が家のショコラティエも喜びます!」
招待客「ああ、そういえば先ほど、私の友人もフランシール様に贈り物をと……。聞けば最高級の砂糖を使った……、」
ジネット「……、」
ジネット「……。」

ジネット「えっと、えへへ、昨日はごめんね。うっかり忘れてて……、」
フランシール「……、」
フランシール「かまわないわ。初めからあなたが来るか来ないかなど、どうでもよかったのだから。」
ジネット「え……、」
フランシール「わたくしには、友人も王子も、必要ないのよ。」

オペラティオ「……完成だ。光沢も、形も、前のものより良くなっている。コンテストなら満点は間違いない。」
オペラティオ「……しかし。」
ルナ「わふわふ!」
フードリィドール「ふゅ~。」
オペラティオ「どんなに美しくても、味が良くても、風変わりでも……!女王は俺のチョコレートを認めてくれない。こんなに美しいのに……!」
ルナ「わふ?」
フードリィドール「ふゅ~?」
オペラティオ「……、」
オペラティオ「お前たち、いい加減にあっちに行っていろ。気が散る。」
ルナ「わふっ!?わふっ!わふっ!」
オペラティオ「……ばかもの。オレはお前と遊ぶから話しかけたんじゃない。あっちに行けと……、」
フードリィドール「ふゅ~?」
オペラティオ「ええい、体を押し付けるな!綿あめが服に付くだろう!昨日は移動するために乗っただけだ!」
オペラティオ「だいたい、お前は女王の配下だろう!なんでここにいる!」
フードリィドール「……?」
オペラティオ「……、」
オペラティオ「もういい。俺が出ていく。女王陛下にチョコレートを献上しなくてはならないしな。」
ルナ「わふっ!」
フードリィドール「ふゅ~!」
オペラティオ「だから、遊びに行くんじゃない!お前たちは留守番だ、いいな!」
ルナ、フードリィドール「……!?」

オペラティオ「女王陛下は、いらっしゃらないのか……、」
オペラティオ「……、」
オペラティオ「出直すとするか。おそらくこれも、作り直しを命じられるだけだろうしな……。」
オペラティオ(……だが、何が、足りないんだ。……師は、あいつは俺にないものを持っていると言われた)
オペラティオ(そのあいつは、俺にコンテストで勝ったこともない。コンテストの作品からも、なにも感じられなかった)
オペラティオ(なんなんだ。まさか、あいつの持っている何かがなければ、女王に……、師にも認められないというのか)
オペラティオ「……馬鹿な。俺は、俺のやり方で、俺のチョコレートを認めさせてみせる……。」
オペラティオ「圧倒的な美しさこそ、チョコレートの魔法……。そのはずだ……。」
オペラティオ「……?」
オペラティオ「なんだ?これは、鏡か……。」
オペラティオ「……!何か映って……、」

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