第8話:誕生日前夜

フランシール「……おいしくないわ。」
オペラティオ「かしこまりました。また別のチョコレートを作ってまいります。」
フランシール「そうして頂戴。」
オペラティオ「……、その……、」
フランシール「なにかしら。」
オペラティオ「折り悪く、陛下のいらっしゃらない時に、チョコレートをお持ちしたのですが、その時に不思議な鏡を見たのです。」
オペラティオ「その鏡には、どこかの風景が映っておりました。あれは、なんだったのでしょうか。」
フランシール「……、」
フランシール「……あれは、チョコレート・ワールドの内であるなら、望んだ場所の景色を見ることができるのよ。あなたは、何を見たのかしら。」
オペラティオ「場所は存じませんが、以前報告申し上げたショコラティエたちが映っておりました。」
フランシール「……、」
オペラティオ「陛下?」
フランシール「ティラミスタ。」
ティラミスタ「ぐるる……?」
フランシール「……。」
フランシール「……その者たちを追い出して。」
ティラミスタ「ぐるる……、」
オペラティオ「な……、」
フランシール「オペラティオ……、あなたはスイーツハンターとしても優秀だったはず。あなたにも同じことを命じるわ。」
フランシール「これは、女王としての命令よ。」

ユウ「まさかあの地下が城につながっているとはな……。」
メルク「でもラッキーだったのですよ!途中、どうなることかと思いましたが、これで無事、女王様のところにいけるのです!」
ジネット「結局、誕生日ギリギリになっちゃったけどね……。」
ジネット「……あのさ、レド兄。」
タルトレード「なんだよ。」
ジネット「報酬はいくら払えばいい?」
タルトレード「ああ?」
ジネット「ボクはレド兄に依頼したんだ。だからちゃんとその分の報酬は払わないといけない。」
ジネット「……特に、このチョコレートは、ボクにとってすごく価値のあるものだから。」
タルトレード「……、」
タルトレード「ま、それは今じゃなくてもいいだろ。お前はとにかく、女王サマにそれを渡すのが大事だろ。」
ジネット「それも、そうだね。」
メルク「では早速、女王様のところに……、」
オペラティオ「残念だが、女王陛下は、お会いになりたくないそうだ。」
タルトレード「オペラティオ……!」
タルトレード「……それはどういうことだ?すでにお前が女王を満足させるチョコレートを作ったってことか?」
オペラティオ「……いや、俺も先ほど突き返されてきたところだ。訳は知らん。だが、陛下がお前たちを追い出せと命じたのだ。」
タルトレード「お前、ショコラティエじゃなくて衛兵だったのかよ。」
オペラティオ「そんなわけないだろう、ばかもの。」
オペラティオ「俺は興味があったのだ。お前がどんなチョコレートを作ったのか、追い出される前に見たかった。」
オペラティオ「……特Sレベルのチョコレートなど、俺もはじめて見たものでな。」
タルトレード「知ってたのか……、」
オペラティオ「偶然な。」
オペラティオ「それで、お前はあれをどう使った。チョコムースか、オペラか、それともチョコレートタルト……」
オペラティオ「まさかその安そうなチョコレートがそうだとは言わないだろうな。」
タルトレード「まさか。」
オペラティオ「なら……、」
タルトレード「あのチョコレートは使わなかった。」
オペラティオ「……なんだと?」
タルトレード「使ったのは、Bランクのものだ。他も特に高級なもんは何も使ってねえ。」
オペラティオ「お前は、本当に……、ばかものだな。」
オペラティオ「女王に献上するチョコレートにBランクだと。それも単に形が変わっているだけの……!その薄さでは中に何かを仕込んでいるわけでもない……。」
オペラティオ「……こんな、男に師は……!」
オペラティオ「……気が変わった。手を出すつもりはなかったが……、そのチョコレートを陛下に出すわけにはいかない。」
オペラティオ「お前だけでなく、師の恥だ……!」
タルトレード「なっ!」
メルク「タルトレードさ……、」
メルク「みゅっ!?」
ティラミスタ「……、」
ユウ「お前は……!」
オペラティオ「この男は俺が相手をする。後は任せた。」
ティラミスタ「ぐるる……、」
メルク「ど、どうしてなのですよ……!あなたは……、」
ティラミスタ「グルルルルッ!」
ジネット「メルクちゃん、ユウくん!」
ユウ「……だ、大丈夫だ!」
ジネット「えっ。」
ユウ「いいから、ジネットは先に行ってくれ!」
ジネット「で、でも……、」
メルク「ユウさんは癒術士なのです!モンスターに負けるわけないのですよ!」
タルトレード「お前には、そのチョコレートを渡したい相手がいるんだろーが。今度は遅刻するんじゃねーよ。」
ジネット「……!」
ジネット「わかった。今度は必ず、渡すから……!」
タルトレード「おう……。」
ユウ「とかっこよく送り出したものの……、」
タルトレード「ぜ……、」
メルク「絶体絶命なのですよ~。」
オペラティオ「……、」
オペラティオ「わざと見逃しただろう。」
ティラミスタ「ぐるる……、」
オペラティオ「まあいい。師の恥は俺が払拭すればいいだけだ。」
タルトレード「ぐっ!」
オペラティオ「どうして師が、お前のような職人に目をかけられたのかわからない……!」
オペラティオ「師のチョコレートは美しく、俺の心を打った。」
オペラティオ「たとえ手に入れられずとも、ショーウインドウ越しに見ているだけでその美しさは俺を引き付けて離さなかった。」
オペラティオ「子供の頃、俺の心を慰めたのは、あのチョコレートだけだった。」
オペラティオ「あんな作品を俺も作りたいと、師に恥じぬショコラティエであろうと、俺はこれまで腕を磨いてきたのだ!」
オペラティオ「なのにお前は……!」
オペラティオ「同じ師を仰ぎながら、あんな美しさの欠片もないチョコレートを女王に差し出そうとするなど……!」
タルトレード「ごにょごにょ、うるせー!」
タルトレード「オレは、あのチョコレートが女王にふさわしいと思ったから作ったんだ!お前にどうこう言われる筋合いはねーよ!」
オペラティオ「ふん、相変わらずどこにナイフを投げているのやら。スイーツハンターとしての腕も一向に上達してな……、」
ルナ「わふん!」
タルトレード「ええー……、」
オペラティオ「……ばかもの……。」
オペラティオ「敵の放ったナイフをわざわざキャッチして持ってくるやつがあるか!」
ルナ「わふ……、」

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