第2話:神を貪りし者たち

キャンテ「……!」
ユウ「癒すことはできたものの……、どうにも人間のことを警戒してるみたいだな。」
メルク「この森といい、モンスターといい……、人間に対してなにか思う所がありそうなのですよ。」
?(ゲルトルート)「まあ、そうだろうねえ。」
ユウ「あっ、すいません、お礼が遅れて。さっきは危ないところに駆けつけてくれて、ありがとうございました。」
ユウ「あのひと声がなかったら襲ってくるモンスターに気づけなかったかもしれません。」
?(ゲルトルート)「気づいたのは彼だ。礼なら先にティーガーに頼むよ。」
ユウ「ティーガーさん、ありがとうございました。」
ティーガー「ああ、気づけて良かったよ。それにこっちこそ、戦闘を手伝ってくれて、助かった。」
ユウ「いえ、癒術士ですからできることはしないとと思って。」
ティーガー「ふーん……、真面目だなー。」
メルク「そういえば、先ほどティーガーさんがそちらの方を姫さまと呼んでいたのですよ。もしかして……、」
?(ゲルトルート)「うん、先に自己紹介をすませようか。」
ゲルトルート「ご想像の通り、私はグミ・ワールドの第一王女、ゲルトルートだ。そして彼が……、」
ティーガー「王女殿下付き従官、ティーガーだ。」
ティーガー「どうぞ、以後お見知りおきを?」
ジャモ「ま、まさか王女殿下とは……!気づかずに失礼しましたじゃもよ!」
ゲルトルート「かまわないよ。今は公務で来ているわけではないしね。」
ゲルトルート「むしろ、あまりかしこまらないでくれると助かる。王女が来ていると知れば、皆が気を遣うから。」
ティーガー「えっ。」
ティーガー「それなら初めから、姫さまの素性を明かさなければよかったんじゃないですかね……。」
ゲルトルート「それはそうだけど、しかし、自己紹介しないのは失礼に当たらないかな?第一、私のことを姫さまとお前が先に呼んだんじゃないか。」
ティーガー「それは姫さまが自分の素性を隠しているなんて城を出るときにおっしゃられなかった上に、変装もなにもしてないからっすよ。」
ティーガー「たしかに、俺に私服で来いとおっしゃってましたが、まさか、身分を隠しているつもりだったとは。」
ゲルトルート「そういえば言ってなかったね。せっかくグミに影武者を頼んできたのに……。」
ティーガー「姫さまはいい加減、あの影武者の出来がひどすぎることに気づいたほうがいいと思いますがね……。」
ゲルトルート「だけど、今まで気づかれたことはないよ?それに私が変装しなくとも、城下の者たちは気づいていない様子だったし……。」
ティーガー「そりゃみんな、姫さまに気を遣って……、ああ、いや、なんでもないっす。あんまり言うと、俺が城下のやつらに怒られそうだ。」
ゲルトルート「……?おかしなやつ。」
ゲルトルート「ああ、話がそれてすまないね。そういうわけだから、今の私のことは一般人だと思って接してくれ。」
ユウ「えっ、じゃあなんて呼べば……、」
ゲルトルート「うん?ゲルトルートでかまわないよ?」
ユウ「いや、名前でバレるんじゃ……、」
ゲルトルート「ゲルトルートなんて名前、そう珍しいものじゃないさ。今までも城下町でそう名乗ってきたしね。」
ティーガー「姫さま……。」
ユウ(戦ってるときはすごい頼りになりそうだったのに、結構世間知らずというか、なんかズレてる人だな……)
ユウ「じゃあ、ええと、ゲルトルートさん。」
ゲルトルート「うん、いい調子。」
ユウ「それから、ティーガーさんも。さっきはありがとうございました。」
メルク「おかげで助かったのですよ~!それに、この森でようやく人に会えてうれしいのです!」
ゲルトルート「気にしないでくれ。王女たるもの、己のワールドの責任は取らなくてはね。」
ジャモ「それにしても、どうしてあなたのような方がこんな森にいらっしゃるのじゃも?もしやこの森の異変と何か関係が?」
ゲルトルート「ああ、そうなんだ。きみたちにも、この森が普通の森と異なっていることはわかるだろう?」
ゲルトルート「簡潔に言えば、この森はお菓子を採りすぎた森なんだ。」
メルク「お菓子を採りすぎた?」
ユウ「そういえば、スイーツハンターの知り合いから聞いたことがあります。」
ユウ「お菓子を採取するにもやり方があって、やり方を間違えたり、採りすぎたりすると、質が落ちたり、もうお菓子ができなくなったりするって。」
ゲルトルート「その通り。もともとここは、上質のグミが採れる森として有名で、数々のハンターたちがグミを採取するために訪れていた。」
ゲルトルート「しかし、我々は限度を超えて、グミを採りすぎてしまったようでね。」
ゲルトルート「この森は食用のグミを生み出さなくなり、木に触れれば棘が生まれ、森を歩けばツタが絡みつく、人間を拒む異形の森と変じたんだ。」
ユウ「そんなことが、あるんですか……。」
ティーガー「他国の植物や畑と同じだな。お菓子の森や大地も、荒らし過ぎれば枯れ果てる。」
ティーガー「そして生き残ろうとする土地は、この森のように人間を敵とみなし、自らを守るために環境を変えていくってわけだ。」
ゲルトルート「そうした森からは、もう食用のお菓子は採れない。他国からは食に困らない国だと思われているようだけど、それはもう昔の話。」
ゲルトルート「異形の森のお菓子は、加工したってもう食べられない。他国の者でもわかるように例えれば、毒草のようなものかな。」
ユウ「ど、毒草ですか……。お菓子の国のイメージが塗り替えられていく……。」
ゲルトルート「かつては全てのお菓子が食べられたと聞くけどね。ふふふ、一部の者たちは神を怒らせたのだと言っているらしい。」
メルク「神さま、なのですよ?」
ティーガー「……俺たちの国の神話じゃ、かつてはこの国も、他国のような普通の土地だったらしい。」
ティーガー「しかしある時、飢饉(ききん)が起きて、多くの者が空腹に苦しんだ時代があった。」
ティーガー「それを憂いた優しい神さまは、その身をお菓子に変じて大地に溶け込んだ。」
ティーガー「そうしてこの地はお菓子にあふれる地となり、人々は食べるものに困らなくなった、って話さ。」
ユウ「じゃあ、神さまが怒ってるっていうのは……、」
ティーガー「……与えられたお菓子を、もっともっとと、食っちまうことなんだろうなあ。」
ゲルトルート「まあ、私も子供の頃はグミが大好きでよくグミばかり食べては、執事に叱られていた。ついもっともっとと手が伸びてしまう気持ちはわかる。」
ゲルトルート「だが、そうして森を食らいつくしてしまっては、これからのグミ・ワールドを滅びに向かわせるだけだ。私たちがここにいるのは、そんな未来を防ぐためなんだよ。」
ティーガー「さくっと言えば、異形の森の拡大を防ぐための調査にきたってわけさ。」
ゲルトルート「神が本当にいるのかいないのか、私にはわからないが……、神がいなくとも、グミ・ワールドの存続のためにできることをするのが、私の役目だ。」
メルク「そうだったのですね~。それは、大変そうなのですよ……。木はトゲトゲだし、モンスターはいるし……。」
ティーガー「おまけに森は現在進行形で、拡大中、だしな。」
ユウ「えっ、最初からこの大きさじゃなかったんですか?」
ゲルトルート「もともとは森林群の半分ほどしか、異形と化してはいなかったんだよ。」
ゲルトルート「だけど、ここ数年で少しずつ、無事だった森までが侵食されてきていてね。このままではいずれ、近隣の町まで被害が及びそうなんだ。」
ティーガー「本来なら異形化した土地にそれ以上手を出さなければ、他のところにまで影響することはないはずなんだがな。」
ユウ「なるほど……、その原因を突き止めるための調査ってことなんですね。」
ゲルトルート「うん、そうなんだ。異形化した森を元に戻すには、王が長い年月をかけて力を使わなくてはならない。」
ゲルトルート「だが、ワールド全体のバランスを考えれば、そうやすやすとできることではないし、異形化した森はここだけではないからね。」
ゲルトルート「何年、いや何十年後になるかはわからないが、修復の機が訪れるまで、せめて浸食を食い止めておくことが今の私たちにできることってわけさ。」
ティーガー「……。」
ゲルトルート「というわけで、もしよければきみたちに調査を手伝ってほしいんだけど、どうかな?もちろん、私との契約として謝礼は払うよ。」
ユウ、ティーガー「えっ!?」
ティーガー「姫さま……、それは、ええと、いいんです?」
ゲルトルート「たしかに他国の者に借りを作ることはあまり褒められたことではないが……、」
ゲルトルート「ただ、予想以上にモンスターとの戦闘ばかりで調査が進まない。癒術士殿の協力があれば、少しは調査もはかどるだろう。」
ティーガー「まあ、それはそうかもしれませんが……。」
ゲルトルート「近隣の町の者の話では、年を経るごとに森の浸食スピードが速まっていると聞く。急いだ方がいい案件だろうからね……。」
ティーガー「……たしかに、今以上に侵食が拡大すれば、近くの町のやつらは、みんな町を捨てなきゃいけねえことになるでしょうしね。」
ゲルトルート「そういうことだ。」
ゲルトルート「それで、どうだろうか?」
ジャモ「それなら、ぜひこの2人を協力させてほしいじゃもよ!わしが雇っている癒術士たちじゃもから、しばらくの間、そちらに出向してもらうじゃも。」
メルク「ジャモさんなら飛びつくと思ってたのですよ……。」
ユウ(好感度をあげて、なんとかコネを作ろうとしてるな……)
ゲルトルート「そう言ってもらえると助かるな。ありがとう、後日、謝礼を用意しておくよ。ただのゲルトルートとして、になるけどね。」
ジャモ「わかっておりますじゃもよ~!」
ゲルトルート「それじゃあ、2人とも。調査にはしばらくかかるから、その間、よろしくね。」
ユウ「は、はい……。」
ティーガー「おいおい、大丈夫か?なんなら断ったっていいんだぜ?」
ゲルトルート「む、ティーガー。私がせっかく取り付けた契約なのに。」
ティーガー「ですけどね、姫さま。いくら癒術士って言ったって、こいつら、こんなに頼りないんですぜ?」
ユウ「うっ、が、頑張ります……。」
ティーガー「あ、そう……。頑張っちゃうわけな。」
ティーガー「……、」
ティーガー「それなら、せいぜい気をつけろよ。これからよろしく頼むぜ。」
ユウ「は、はい!」
メルク「そういえば、侵食が拡大する原因について、なにか目星などはついているのですよ?」
ゲルトルート「そうだなあ……。決めつけるのはよくないけど、スイーツハンターが関わっているかもしれないね。」
メルク「みゅ?でも、森には食べられるお菓子はないはずなのですよ。それならスイーツハンターが森に入る理由は……、」
ティーガー「まあ、通常はな。」
ティーガー「ただ……、滅多に発見されないんだが、異形化した森には、たったひとつ、特別なお菓子が存在するそうだ。」
ゲルトルート「それひとつで一攫千金、美食家と研究者が喉から手が出るほど探し求める、幻のお菓子さ。」

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