第3話:再び動き出すもの

ユウ「なんか、手伝ってもらって悪いな。巻き込んだみたいでさ……。」
?(しぐれ)「いえ……、もともと、僕も村の周りのモンスターをどうにかしようと思っていたところでしたから。」
?(しぐれ)「……でも、ありがとうございます。」
ユウ「え?」
?(しぐれ)「いくら癒し手だろうと、やっぱりモンスターと対峙するのは危険なことですから。」
?(しぐれ)「その危険を顧みずに、村のため、九子那のため、働いてくれたことに感謝します。」
ユウ「あ、ああ……。」
?(しぐれ)「どうして、僕がお礼を言うのか不思議そうな顔ですね。」
ユウ「いや、その……、旅人だって言ってたし、どういうつながりなんだろうと思って……、」
?(しぐれ)「……もともと僕は九子那の生まれなんです。諸事情あって、故郷を離れて旅をしているのですが、九子那の噂を聞いて様子を見に戻ってきたのです。」
ユウ「噂って、あの……、」
?(しぐれ)「……。」
?(しぐれ)「……僕がかつて住んでいたころの九子那は、もっと活気にあふれた、平和な土地でした。まさかこんなに荒れているとは……。」
ユウ「そうか……、故郷を離れても、やっぱり心配なんだな。」
?(しぐれ)「……ええ、僕ももう、そんな思いはとっくに断ち切ったと思っていたのですが。」
?(しぐれ)「……どうにも、捨てきることはできないようです。」

メルク「みゅっ、ユウさんお帰りなさいなのですよ~!モンスターはみんな癒せたのです?」
ユウ「ああ、だいたいは癒せたはずだ。もうこの村も大丈夫だと思うぞ。」
村娘「ほんと!?ありがとう、お兄ちゃんたち!」
?(しぐれ)「……。」
村娘「あ、そういえば、さっき別の旅人さんがきてね。なんでも人探ししてるんだって。」
メルク「みゅ、そうなのですよ!確か、ごんのすけという方だったのです。」
?(しぐれ)「……!?」
ユウ「あれ、どうしたんだ?いきなり笠なんかかぶって……、」
?(しぐれ)「い、いえ!その……、夏も終わりですが、直射日光は美肌の大敵ですので!」
ユウ「は、はあ……、」
村娘「お兄ちゃんたちにもその人を知らないか聞いてみたいって言ってたよ!」
?(しぐれ)「え、えっと……、その、きょ、協力はして差し上げたいのですが、僕はあの、少々用がありまして……!」
?(しぐれ)「で、ではこれにて失礼!」
ユウ「えっ!?」
メルク「い、行っちゃったのですよ……。」

?(しぐれ)「ま、まさかこんなところにまで……、」
?(しぐれ)「わっ……!失礼、少し急いでいた、もの、で……、」
ごんのすけ「おー、よかよー!あ、そうじゃ、少し聞きたいことがあるんじゃが……、む?」
?(しぐれ)「な、なんでしょう……?」
ごんのすけ「お前さん、わしの探しておる人に似ているような……、名を聞かせてもらえんが?」
?(しぐれ)「え、えーっと、し、し……、しゃくれ!しゃくれと申します!」
ごんのすけ「そうじゃが……。ならわしの探し人とは違うがー。引き止めて申し訳なかったが。」
?(しぐれ)「い、いえ……!それではこれで!」
ごんのすけ「はあ、しぐれ様はいったいどこにおられるのか……、」
いろは「あれ、ごん!今の人、しぐれ様に似てたけど……、」
ごんのすけ「ああ、名前を聞いたらしゃくれ殿と……、」
いろは「そっか、別人かあ……、」
いろは「って、なに信じてるの、ごん!どう考えたってウソでしょ!」
ごんのすけ「じゃ,じゃが、あのしゃくれさんという方はしゃくれと名乗って……、」
いろは「しゃくれなんて変な名前の人いるわけないでしょ!それにしぐれ様はあたしたちから逃げてるんだから、本名教えるわけないじゃない!」
いろは「きっとあの人、しぐれ様だよっ!」
ごんのすけ「そうじゃが!?」
ごんのすけ「おーい、そこのお人!待たれよー!」
?(しぐれ)「……!?ぼ、僕は家には戻りません……!」
いろは「あっ、逃げた!ごん、追いかけるよ!」

ユウ「そういえば、あの人の名前も聞いてないなあ……。」
メルク「人助けをして、名乗らすに去っていく……。」
メルク「か、かっこいいのですよ~!」
ユウ「あ、そういえば人探ししてる旅人って……、」
村娘「ちょうどさっき笠のお兄ちゃんの向かった方にいるよ!」
メルク「それなら、その旅人さんもあのお兄さんからなにか情報を聞けたかもしれないのですよ!協力したそうでしたし、ちょうどよかったのです!」

いろは「ふっふっふ、ようやく追いついたよ、しぐれ様!」
?(しぐれ)「ま、待ちなさい!話を……、」
いろは「問答無用!かかれー!」
?(しぐれ)「ちょ、まっ……っ!」
?(しぐれ)「うわあああああっ!」

くろとび「き、聴いてください。やまぶき色の恋。」
みおぎ「……。」
くろとび「ら、ららら~。」
くろとび「お前を初めて見たとき~、雷のように恋に落ちたべいべ~。俺はお前だけにそんぐふぉ~ゆ~。ぷりーず、返事をくれないか~。」
くろとび「てるみ~、お前の望み~。全て俺がかなえてやるから~。おお、いえぇ~、うぉううぉう~、ららら~。」
みおぎ「……。」
くろとび「……。」
みおぎ「……ミコロ。」
ミコロ「きゅう~っ!きゅきゅっきゅ~!」
くろとび「今日もだめか……。わかってるよ、そんなに押さなくてもちゃんと帰るから……。」
ミコロ「きゅ!」
くろとび「それじゃあ、今日も邪魔したな。」
ミコロ「きゅー!」
みおぎ「ミコロ、ご苦労様……。」
ミコロ「きゅ!」
こうめ「あれ!今日もいらしてたんですか?」
みおぎ「こうめ……。ええ、もうお帰りになられたけど……、」
ミコロ「きゅ!」
こうめ「ミコロ~、偉いですよ!こうめがいない間は、ミコロがみおぎ様をお守りするんですよ!」
ミコロ「きゅ!」
こうめ「それにしても、帰るときは素直でいらっしゃるのに、とっても粘り強いお方ですね!もうひと月日ですよ。」
こうめ「よくぞ毎日、手を変え品を変え告白してきますねえ。今日なんか、部屋から歌声が聞こえてましたよ!」
みおぎ「……そうね。外つ国(そとつくに)風の歌を自らお作りになられたそうよ。」
こうめ「はわ~、和歌、短歌、川柳、俳句ときて、とうとう外つ国の歌を取り入れなさるとは、なかなかハイカラなお方ですねえ!」
こうめ「でも、なんだかすごく一途でいらっしゃって、こうめの好感度はうなぎのぼりです!」
こうめ「みおぎさまが幾度断られても、毎夜、忍びの方に贈り物を届けさせたり、歌や踊りを披露させたり……。」
こうめ「ちょっと変なところがある方が殿方はよいと、あまぎ姐さんもおっしゃってましたよ!」
みおぎ「……たしかに、よいお方でいらっしゃるのでしょうね……。」
こうめ「そう思われていらっしゃるのに、どうして本人にお会いしてあげないのですか?」
こうめ「せめて贈り物を受け取るくらいはしてあげてもいいと、こうめは思いますが……。」
こうめ「はっ、もしかしてどなたか好いている方でもいらっしゃるのでは……!」
こうめ「その古い櫛、ずっと肌身離さずお持ちですよね。どなたか心に決めた方でもいらっしゃるんじゃないか、……って、最近噂になってますよ。」
みおぎ「……これは、お守りなのです。」
こうめ「お守り?」
みおぎ「そう。わたくしの大事な人を守ってくれる……、」
こうめ「そうなのですか?それじゃあ……、」
こうめ「はっ!もしや顔ですか!?こうめは忍びの方とも、主の方ともお会いしたことがないのでわかりませんが、もしや顔が……、」
みおぎ「そ、そういうわけではありませんが……、」
こうめ「で、でしたら……、」
こうめ「あれ、みおぎ様。その首のところ、あざが……、」
みおぎ「……!」
みおぎ「……、触ってはいけませんよ、こうめ。あなたまで呪われてしまうかもしれないから……。」
こうめ「みおぎさま……?」

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