第4話:相剋する者たち

楼主「みおぎのことが知りたいって?そんなもん、お前もよく知ってるだろう。なんたってみおぎ付の禿(かむろ)なんだから。」
こうめ「そ、そうですけど……。でも、みおぎ様が話してくれないから……。」
楼主「みおぎが話したくねえってことを俺から勝手に話すわけにはいかねえよ。」
こうめ「おやじ様のそういうとこステキって姐さん方も言ってましたけど、今は憎らしいです……!」
楼主「だいたい、なんだって今更そんなこと聞きに来たんだ?」
こうめ「それは……、みおぎ様がいつも悲しげな顔をしてらっしゃる理由を知りたくて……。近頃は前よりもぼんやりされることが増えましたし……。」
こうめ「この間、みおぎ様の首に見慣れぬあざができていたので、尋ねたら呪いだって……。それ以上のことはお話になりませんでした。」
楼主「あざ?」
楼主「……。」
楼主「……だがこうめよ、それはみおぎの問題だろう。それにお前が知ったところで何かできるのか?」
こうめ「うぐぐ……。で、でもみおぎ様は私によくしてくれたし、私がみおぎ様を好きだから私の問題でもあるとおもうのですっ!」
こうめ「そりゃあ確かに、原因を知ったところで私には何もできないかもしれないですけどぉ……。」
こうめ「そ、それでも知ってみないことにはどうしようもないですよ!」
楼主「……ったく、しょうがねえなあ。けど、俺もみおぎがここに来る前のことは何もしらねえんだ。」
楼主「もしかすると、みおぎの生まれ故郷に行ってみれば何かわかるかもしれねえけどなあ……。」

楼主「よう、みおぎ。元気にしてるか。」
みおぎ「ええ、おやじ様にはとてもよくしていただいて……。」
楼主「よせやい。お前のおかげで店も安泰だ。他のやつらも毎日飯が食える。」
みおぎ「いえ、かつての恩を思えば、当然のことです。」
みおぎ「15年前……、あんなにみずぼらしく、行く当てのなかったわたくしを引き取り、育ててくださった恩はまだ返せておりません。」
みおぎ「……もっと、おやじ様に恩返しをしたかったのですが……、」
楼主「……15年前、お前は俺にいずれ自分はここを出る、だからそれまでの間、ここで働かせてほしいと言ったな。その時が、近づいてきているということなのか。」
みおぎ「……ええ、本当に今までありがとうございました。」
みおぎ「少ないですが、これまでわたくしの稼いだお金は、どうぞおやじ様がお好きにお使いなさってください。」
みおぎ「わたくしには、もう使い道のないものでございましょうから……、」
楼主「それはどういう……、」
みおぎ「……そういえば、しばらくこうめの姿を見ていないのですが、おやじ様は何かご存じではありませんか?」
楼主「あ、ああ……、その……。こうめにはちょっと用を言いつけててな。しばらく街を出てるんだ。」
みおぎ「……そう、でしたか。」
楼主「……みおぎよ、事情があるってんなら、俺は何も聞かねえ。けど、もし何か助けが欲しいってことなら、いつでも言え。そして、いつでも帰ってこい。」
楼主「俺も、店のやつらも、こうめも、みんなお前のことは家族みたいに思ってんだ。……いいな。」
みおぎ「……、」
みおぎ「ありがとう、ございます……。」
みおぎ「……。」
みおぎ「わたくしもそろそろ、夢から目を覚まさなくてはいけませんね……。」
みおぎ「……こうめ……。」
みおぎ「……どうか、わたくしのことなど忘れてしまって。あなたは、幸せになって。」

やまぶき「……そうか。」
くろとび「ええ、いつも通り贈り物も受け取っていただけませんでした。」
やまぶき「ふむ……。何がいけなかったんだ……?今回はいけると思ったのに……。」
くろとび「知りませんよ。」
やまぶき「外つ国ではああやって和歌の代わりに、歌って告白するのだろう?つかみは完璧だったと思うんだが……。」
くろとび「むしろドン引きされてたような……。」
やまぶき「やはり、俺本人が歌わねば意味がないということか……。しかし、会おうにもみおぎには断られているしな……。」
くろとび「そうですよ、だから代わりに俺が歌って踊って愛をささやいてるんじゃないですか……。」
やまぶき「しょうがないだろう。俺だって行けるものなら自分で行きたい!」
やまぶき「だが、さすがに楼主に知られずにみおぎの元まで行くのは、忍びくらいにしかできんからな。」
くろとび「というか、そもそも忍者の仕事は恋愛成就の手伝いをすることじゃないんですけど……。」
やまぶき「細かいことは気にするな。お前は俺に拾われた身だろう。つべこべ言わず、協力しろ。」
くろとび「そりゃ、ご命令とあらば従うほかないですがね。給料の分は働きますよ。」
くろとび「でも、ここまで断られてどうしてあきらめないんです?完全に脈なしだと思いますけど。」
やまぶき「ふ、お前はわかってないな。」
くろとび「はあ?」
やまぶき「俺は今まで欲しいものは全て手に入れてきた。それはな、あきらめなかったからだ。」
やまぶき「くろ、覚えておくといい。本当に何かを手に入れたいのなら、決してあきらめないことだ。」
くろとび「はあ……、」
やまぶき「それはさておき、くろ!次の手を考えるぞ!」
くろとび「ああ、つまりみおぎ太夫を落とすまでは、俺の仕事は減らないってことね……。そもそも、こんなの忍者の仕事じゃないってのに……、」
「やまぶき様、ご報告申し上げます。」
やまぶき「入れ。」
よすけ「はっ。」
よすけ「……くろとび。」
くろとび「……。」
よすけ「……。」
やまぶき「俺はみおぎを射止める、次の作戦を練るのに忙しい。報告は?」
よすけ「はっ、もうしわけありません。実は隣国、九子那の地に当主の息子が戻ったとの知らせが……。」
やまぶき「ほう……。いろいろと噂はあったが、まさか実在したとはな……。」
やまぶき「はてさて、いったいどんな男か。野心に燃える虎か、それとも穴ぐらに隠れる兎か……。どんな男にせよ、このやまぶき……、」
やまぶき「須佐家に牙むく相手に容赦はせん。」

九子那家当主「おお~、しぐれ!我が息子よ!よくぞ戻ってきた!」
しぐれ「って、あなたが命じて連れ戻させたのではありませんか!」
九子那家当主「だってだって、帰ってきてほしかったんじゃもん!」
しぐれ「僕は戻りたくありませんでした。」
九子那家当主「そう言って逃げるから、ごんのすけらに頼んで追いかけてもらったのではないか~。」
しぐれ「もとはといえば、あなたが僕を出家させたからでしょう!」
しぐれ「それを今更、家に戻れなどと……。僕はあのまま修行に打ち込む日々を送りたかったのに……。」
九子那家当主「それは、すまないことをしたな……。許せ、息子よ。父もつらかったのじゃ。」
しぐれ「……。」
九子那家当主「実はお前が10になる前にな、とある渡りの巫女からお告げがあったのじゃ。」
しぐれ「お告げ……?」
九子那家当主「うむ、このまま九子那の地でお前を育てれば、よからぬことが起きるとな。わしは苦悩した……。」
九子那家当主「じゃがっ、わしにはこの九子那の地を守る義務があるっ!たとえ息子と離れ離れになっても……っ!」
しぐれ「ち、父上……っ!」
九子那家当主「しぐれっ!」
しぐれ
「って、だまされるか!」
九子那家当主「し、しぐれ……?」
しぐれ「母上から聞いたんですよ!そのお告げをした渡り巫女、どうみても詐欺師だったのに、その色香に惑わされてほいほいうなずいちゃったんでしょう!」
しぐれ「僕を出家させただけでは飽きたらず、幸せの壺やら、祝福の茶器とか買わされて!」
九子那家当主「そ、それはじゃな……、……そのう……、」
九子那家当主「……ゆ、許してくれ、しぐれ!巫女服と巨乳の合わせ技には勝てなかったのじゃあああ!」
しぐれ「……サイッテーです……。」
九子那家当主「ううっ……。と、とにかくじゃな……、今この九子那の地は窮地に陥りつつあるのじゃ……。」
しぐれ「……。」
九子那家当主「お主もここにくるまでにみたじゃろう。九子那の地の有様を。」
しぐれ「はい……。かつて僕が住んでいた時よりも、ずっと荒れ果てておりました……。」
しぐれ「モンスターの対処は間に合わず、辺境の村々は襲撃にいつも怯え、九子那の地を出ようとさえ考えている……。」
九子那家当主「そうなのじゃ。問題はモンスターだけではない。九子那の隣に面する、須佐の地……。」
九子那家当主「数年前にその当主の座についた、やまぶきという男がこれまたやり手でな。」
九子那家当主「独自の政策で商人たちを味方につけ、あっという間に貧しかった街を黄金の街と呼ばれるほどに発展させたのじゃ。」
九子那家当主「おそらくこのあたりで1番の金のある地は須佐じゃろうといわれておる。」
九子那家当主「そのやまぶきはどうにも野心の強い男らしくてな。いつ九子那の地を手に入れようとしてくるかわからん。」
九子那家当主「そのために嫡男であるお前に帰って来てもらったのじゃ。れっきとした跡継ぎがおれば、あの男もそう簡単には手出しできんからのう。」
しぐれ「……、父上のお考えはわかりました。」
しぐれ「つまり、いろいろ問題が起こってきたから、僕に丸投げすると。」
九子那家当主「そうじゃ!」
しぐれ「……わかりました。巫女服と巨乳の件、母上に言いつけておきます。」
九子那家当主「なぬっ!し、しぐれよ!それは少し思いとどまって……、」
九子那家当主「しぐれ!?しぐれええええ!」

ユウ「あれ、ジャモさん。こんなところに村なんてありましたっけ?地図には湖しか載ってませんが……、」
商人・ジャモ「よくみるじゃも。もう、この村には人は住んでいないようじゃも。」
ユウ「ほんとだ……。捨てられた村だから、もう地図には載ってないのか……。」
ユウ「ここが前の村で、宿屋のおかみさんが言ってた村なのかもしれないな……。」
メルク「みゅ……、なんだかお化けでも出そうな雰囲気なのですよ……。」
ユウ「き、気にしないようにしてたのに……!そう言われると……、」
メルク「みゅ?なんだかどこからか女の子の声がするような……、」
ユウ「き、聞こえない!俺には聞こえないからな!」
メルク「みゅ、ほんとに女の子の声が……、」
「みゃああああああっ!」
メルク、ユウ「……!」

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