第5話:夢咲く街を出て

こうめ「うう、助けて頂いてありがとうございます!お兄さま方はこうめの命の恩人なのです、感謝感激石つぶてです!」
ユウ「恩人に石を投げるな!?」
ユウ「それにしても、どうしてこんなところに?だれか一緒じゃないのか?」
こうめ「こうめは1人でここまでやってきたのです!乙女ぱわーをなめちゃあいけないですよ!」
メルク「1人なんて危ないのですよ!」
ユウ「そうだぞ、現にさっきだってだって、モンスターに襲われてただろ。」
こうめ「うぐぐ、ちょ、ちょっと想定外だったのです……。まさか犬も歩けば棒にあたるとばかりに、モンスターに襲われるとは……。」
こうめ「で、でもこうしてお兄さま方に助けていただいたし、万事解決問題なしなのです!」
ユウ「そ、そうか……?」
こうめ「はっ、そうです!こうめには大事な使命があるのでした!」
こうめ「申し訳ないのですが、お兄さま方たち!こうめはみつくし村という村を目指しているのです!先を急がねばならぬ旅……、これにて御免!」
ユウ「え、ちょっと、待って……、」
こうめ「女に二言はないのです!引き止めないでおくんなせえ……!」
ユウ「じゃなくて!」
ユウ「……みつくし村ならここだと思うぞ?」
こうめ「……へ?」
ユウ「ほら、あの門のところに村の名前が載ってるだろ。もうだいぶんかすれてるけど……、」
こうめ「……、な、なんということでしょう……。いつの間にか目的地に到達していたとは……。」
こうめ「こうめは自らの隠しきれぬ冒険者としての才能に打ち震えています!」
メルク「でも、この村はもう誰も住んでいないみたいなのですよ。いったい何の用だったのです?」
こうめ「……、こうめの、大事な人を笑顔にしたかったのです。」
こうめ「その人はいつも悲しい顔をしているのですが、その理由がこの村にあるかもしれないと聞いて、こうめはここまでやってきたのです。」
こうめ「村の人に何か話を聞くことができればと思い……、」
ユウ「そうだったのか……。けど、この有様をみると、もう随分前に村は捨てられたみたいだな……。」
こうめ「ここに住んでいた人はどこへ行ったのでしょう……。」
ユウ「うーん……、本当にこの村がおかみさんの言っていた村なら、城下町に引っ越したのかもしれない。」
こうめ「城下町ですか?」
ユウ「ああ。確実にそう、とは言えないんだけど……、」
こうめ「それでもかまいません!教えてくれてありがとうございます!」
メルク「ま、待つのですよ!1人でいくのですよ?」
こうめ「はい!大丈夫です!」
こうめ「またモンスターが出たら、今度はこうめ必殺扇子投げで懲らしめてやります!とうっ!」
ユウ「……扇子がひらひら地面に落ちただけみたいだけど……。」
こうめ「うぐぐ……、きょ、今日は調子が悪かったのです!つ、次こそ……!」
ユウ「九子那の城下町なら、どうせ目的地は一緒だし、一緒に行っていいかジャモさんに聞いてみるよ。」
こうめ「えっ、い、いいのですか?」
ユウ「ああ。1人で行かせるわけにもいかないしな、頼んでみるよ。それに、その人探しも何か手伝えるかもしれないし……、」
メルク「1人で探すよりも、3人で探したほうがきっと手がかりも早く見つかるのですよ!」
こうめ「うっ、こうめは人の情けに今とても感動しているのです……!ありがとうございます……!」

しぐれ「……。」
ごんのすけ「お、しぐれ様!こんなところでどうなさったが?」
しぐれ「ごんのすけ……。いえ、少し考え事を。」
ごんのすけ「考え事?」
しぐれ「……。」
しぐれ「ごんのすけは、何を?」
ごんのすけ「……あ、ああ。ちょっとばかし、銃の修行じゃが。まだまだしぐれ様のお役に立てるほど、うまくはないけん。」
しぐれ「そう、ですか……。」
ごんのすけ「しぐれ様?」
いろは「あ、しぐれ様はっけーん!当主様が真面目な話があるから、お部屋に来るようにっておっしゃってたよ!」
しぐれ「ありがとうございます。わかりました、すぐに行きます。」
ごんのすけ「……。」

九子那家当主「まだ、決意はかたまらんか。」
しぐれ「……。」
しぐれ「僕は、これまで修行のみに打ち込んできました。今更、当主になったところで、僕などが満足に役目を果たせるとは思わないのです……。」
九子那家当主「しぐれよ、それでも九子那の血をひくものはもうお前しかおらぬのだ。お前が継がねば、この地はどうなる。」
しぐれ「それは……、」
九子那家当主「そして……、」
九子那家当主「わしはどうなる!お主に後を託して、花街に入り浸るつもりじゃったのに!あのみおぎ太夫に酒を注いでもらうつもりじゃったのに!」
しぐれ「……。」
九子那家当主「あ、いや……、もちろん民のことも心配じゃぞ!うむ!」
しぐれ「父上……、まじめな話があるからと呼び出しておいて……、」
九子那家当主「そ、そうじゃ!まじめな話があるのじゃ!じゃから、落ち着くのだ、な!?」
しぐれ「……。」
九子那家当主「ご、ごほん!」
九子那家当主「実はな、その花街にここひと月ばかり怪しげな者が出入りしているということじゃ。」
しぐれ「怪しげな者たち?正体はわかっているのですか?」
九子那家当主「うむ、それがどうやら須佐の者らしいのじゃ。忍びの者が、みおぎ太夫のもとに毎夜訪れておるという。」
しぐれ「須佐の当主が、みおぎ太夫に懸想しているということでしょうか?」
九子那家当主「にょっほっほ!それはない!」
しぐれ「なぜそう言い切れるのです。」
九子那家当主「なぜもなにも、あの須佐の当主はおなごにうつつを抜かすような阿呆ではない。」
九子那家当主「むしろ自らの望みをかなえるための駒をしか思っておらんじゃろう!」
九子那家当主「やつには人を愛する心がないと言われておる。それほどの冷酷さをもって、あの地を栄えさせてきたのじゃ。」
しぐれ「……では、その太夫も利用されているということですか?」
九子那家当主「おそらくはな。」
九子那家当主「あの花街は、我が九子那と須佐のちょうど狭間にある街じゃ。もしかすると、あそこを足掛かりに我が九子那の地を手に入れる算段なのかもしれぬ。」
九子那家当主「……おぬしが、後を継ぐと決める前にな。」
しぐれ「……。」
九子那家当主「……さて、わしは隠居の準備でもするかの~。」
しぐれ「……は?」
九子那家当主「いや~、息子も帰ってきたし、後は息子に任せてわしは遊興三昧じゃ~。」
しぐれ「はあ!?ちょっと待ってくださいよ!僕はまだ継ぐとは言ってな……、」
九子那家当主「引退、引退じゃ~。あとは任せたぞ、しぐれよ~。」
しぐれ「ち、父上!?」
しぐれ「……ど、どうしたら……。父上があれでは、もう僕がどうにかするしか……。」
しぐれ「しかし、花街一の妓女に、まだはっきりとわかっているわけでもない疑いで手を出すわけにも……、」
しぐれ「直接話が聞けたら早いんだろうけど……、はあ……。」

いろは「聞いたかね、ごんのすけ同志!」
ごんのすけ「うむ、聞いたぞ、いろは同志!」
いろは「これは昇進と昇給の匂いがするわ……!」
ごんのすけ「これが昇進と昇給の匂いじゃが……!?畳とふすまの匂いによく似ておるの……。」
いろは「って、物の例えだよっ、ごんすけ!」
いろは「いーい?しぐれ様はどうやらあの花街一の妓女、みおぎ太夫に用があるみたいね。」
ごんのすけ「じゃが、どうにも手出しが難しいという話のようじゃが……、」
いろは「ちっちっち、ごんすけはわかってないなあ。それじゃあ一流の従者にはなれないよ!」
ごんのすけ「一流の従者……!それになれば、しぐれ様もわしを従者として認めてくださるかもしれんが!」
ごんのすけ「して、いろは殿!一流の従者とは……!」
いろは「ふふふ、一流の従者は主が命じなくても、主の望んだことを成し遂げるものよ。つまりこの場合は……、」

いろは「……。」
ごんのすけ「……。」
いろは「目標発見!」
ごんのすけ「どうやら、櫛を眺めているみたいじゃが。」
いろは「他に人影はなし……。よし、行くよ、ごん!」

みおぎ「……。」
いろは「ちょいと失礼するぜ、お嬢さん!」
ごんのすけ「するじゃが!」
みおぎ「……あ、あなた方は……、」

ユウ「城下町はやっぱり活気があるんだな。」
メルク「でもすごい人なのです。みつくし村の人を探すのは大変そうなのですよ。」
こうめ「……あの、本当にここまでしてもらってよかったのですか?」
ユウ「え?」
こうめ「その、ここまでこうめを連れてきてもらっただけでなく、人探しまで手伝ってもらえるなんて……、」
ユウ「ああ、どうせジャモさんが用事を済ませてる間は俺たちも暇だしな。」
メルク「それに、そのみおぎさんという方のために頑張るこうめさんに感動したのですよ……!ぜひとも笑わせてあげたいのですよ~!」
こうめ「あ、ありがとうございます!」
こうめ「やっぱり、あきらめちゃいけませんね!よろしくお願いします!」

やまぶき「……みおぎをさらったのは、九子那だと?」
よすけ「はっ、当主は帰ってきた息子に跡目を譲るべく、引退の準備をしており、おそらくは息子の方の命だと思われます。」
やまぶき「……なるほどな。一応あの花街は九子那の地の一部……、俺に気づかぬほど腑抜けていなかったということか。」
やまぶき「そして、帰ってきてすぐにことを起こす、その判断力……。」
やまぶき「どうやら九子那の若き当主殿は、なかなかの策士、かつ野心家のようだな。」
よすけ「どういたしましょうか?」
やまぶき「そうだな……、あちらがそういうつもりならこちらも相応の対応を取らねばなるまい。」
やまぶき「……くろ。」
くろとび「ここに。」
やまぶき「みおぎを取り戻してこい。」
よすけ「……!」
やまぶき「なんだ、よすけ。不満そうだな。」
よすけ「い、いえ……。しかし、恐れながら主。くろとびだけに行かせるのは……、」
やまぶき「なら、お前の足でこいつに追いつけるのか?」
よすけ「それは……。」
やまぶき「お前もこいつの速さは認めているだろう。みおぎを誰より早く九子那の元から救い出せるのはこいつしかいない。」
よすけ「……私はそういうことを言っているのではなく……!」
よすけ「……いえ、差し出がましいことを申し上げました。主の意向に、従います……。」
やまぶき「……と、いうことだ。明日の夜明けまでに帰ってこい。もちろん、みおぎを連れてな。」
くろとび「またそんな無茶な……、」
よすけ「……。」
くろとび「……はいはい。行ってきますよ。その代わり、この分の給料上乗せしといてくださいよ。」
やまぶき「ふ、金の心配はするな。あの黄金の街を築いたのは誰だと思っている?」
くろとび「金遣いも人使いも荒いご主人様だ……。」
やまぶき「……。」
よすけ「……主、私は今でもあの者が心から主に忠誠を誓っているとは思えません。」
やまぶき「それはそうだろう。あいつは金で雇われる傭兵のようなものだ。はじめから須佐に仕えるために育てられてきたお前とは違う。」
よすけ「だとしても、あの者の噂をご存じでしょう。金と状況次第で誰にでもつく、信用できぬ男です。」
やまぶき「だからどうした?この俺が、見る目を誤ったとでも?」
よすけ「い、いえ……、そういうわけでは……、ただ私はこのままくろとびが九子那に寝返るのではないかと……、」
やまぶき「よすけよ、お前のその忠誠は俺の好むところだがな。時として、お前は慎重になりすぎる。」
よすけ「……それは、以前のように、何があっても私が主をお守りするのはもう難しいと……。」
やまぶき「ひとつ、忘れているようだな。この俺は誰だ?」
よすけ「……須佐家当主、やまぶき様にございます。」
やまぶき「そう、この俺が。」
やまぶき「手に入れたものをたやすく手放すとでもおもっているのか?」
よすけ「……いえ。」
やまぶき「まあ、明日の朝を楽しみにしていろ。帰ってこなかったときは、その時だ。」

いろは、ごんのすけ「……。」
みおぎ「……。」
しぐれ「……、まったく、どういう解釈をしたら花街から彼女をさらってこようという発想になるのですか……!」
いろは「え、えっとぉ……、しぐれ様がよろこぶかなーって。」
ごんのすけ「一流の従者は主の命がなくとも、その望みを成し遂げると……、」
しぐれ「……。」
しぐれ「……とにかく、さらってきてしまったものはしょうがありません。彼女に話を聞いて……、」
みおぎ「……。」
しぐれ「いや、あなたもいきなりさらわれてきて、不安に思っているのでしょう。その悲しげな顔を見ればわかります。」
いろは「えーっ、最初からこんな顔だったと思うけどなあ……。」
しぐれ「だまらっしゃい!そんな泥棒のような頭巾をしているから怖がっていらしたんでしょう。」
ごんのすけ「わしの自信作じゃったんじゃが……、」
しぐれ「なぜそのかぶり方にした……!」
みおぎ「……。」
しぐれ「ああ、ええと、みおぎ太夫。今日のところは部屋に案内しますから、ゆっくり休んでください。」
しぐれ「さらってきてしまった以上、すぐに返すというわけにもいきませんが、あなたに危害を加えるつもりはないのです。」
みおぎ「……。」
みおぎ「……これも、運命なのでしょう。わかりました、ご随意になさってください。」
しぐれ「……。」
いろは「ふわー、やっぱスッゴイ美人さん!」
ごんのすけ「わしの自信作じゃったんじゃが……、」

くろとび(しかし、城に1人で潜入して女をさらってこいとは……。とりあえず決行は夜として、それまでにいくつか下調べしておくか)
くろとび「……?」
こうめ「い、いたた……、こうめとしたことが、転んでしまいました……。」
くろとび「……、大丈夫か。」
こうめ「あ、はい。こうめは大丈夫です、親切なお方!」
くろとび「……、鼻緒が切れたのか。掌もすりむいている。」
こうめ「このくらいなんてことないのです!」
こうめ「……あいたたたた……、」
くろとび「貸せ。そんな草履じゃまともにあるけないだろ。手も、手当てくらいしろ。」
こうめ「あわわ、わざわざ手当まで……、ありがとうございますっ!このご恩はいつか必ず……!」
くろとび「……。」
こうめ「そ、その顔はなんですか!?こうめの恩返しを侮らないで下さいよっ!そのうちあっと言わせて見せますから!」
くろとび「……はいはい、次は転ぶなよ。」
こうめ「はいっ!お気を付けて!」
くろとび「……。」

ユウ「あ、こうめ!いきなりはぐれたから、心配してたんだぞ……、って、その手どうしたんだ!?」
こうめ「えへへ、申し訳ないのです!実は、先ほど鼻緒が切れて転んでしまいまして……!」
こうめ「でも、親切なお方が、鼻緒を継いでくれて、それから手の手当てもしてくださったのです!」
メルク「みゅっ、それはよかったのです。親切な人なのですよ~!」
ユウ「ああ、そうだ。こうめに言わないといけないことがあるんだ。」
こうめ「……?」
ユウ「実はさっきみつくし村からこの町に引っ越してきた人の居場所がわかったんだ。」

こうめ「酒屋さん……?」
ユウ「みつくし村は酒の特産品で有名な村だったらしいんだ。それで、その村の酒がこの酒屋で売られてるって……。」
メルク「ごめんくださいなのですよー!」
酒屋のおかみ「はーい!お使いかしら?」
ユウ「あ、買い物じゃなくて……。ここにみつくし村出身の人がいるって聞いてきたんですけど……、」
酒屋のおかみ「……!あなたたちは、いったい……、」
こうめ「あ、あの!みおぎ様のことを教えていただきたく……っ!」
酒屋のおかみ「……みおぎ?」
こうめ「ご存じありませんか……?」
酒屋のおかみ「みおぎは、生きているの……?」
こうめ「……?」

酒屋のおかみ「私も詳しくはわからないの。けれど、てっきりみおぎはもう生きていないものだと……、」
メルク「いったい、何があったのですよ……?」
酒屋のおかみ「……15年前、私たちの村をモンスターの群れが襲ったの。みんな村から逃げ出したわ。」
酒屋のおかみ「その時、運よく旅のお坊様が来てくださっていて、原因を探りに湖へ行かれたの。モンスターは湖の方から来ていたから。」
酒屋のおかみ「しばらくしてお坊様は戻ってきて、村の長老と長い間お話していたわ。」
酒屋のおかみ「……でも私は知っていた。その日、みおぎが湖に水を汲みに行っていたって。」
こうめ「え?」
酒屋のおかみ「だって、体調を崩していた私の代わりに行ってくれてたんだもの。……知ってたのに、私には、なにもできなかった。」
酒屋のおかみ「そして、お坊様がみおぎはもう帰ってこないと……。」
こうめ「で、でも、みおぎ様は生きていらっしゃいます!」
酒屋のおかみ「ええ、ええ……。もしかすると、長老なら何か知っているのかもしれないわ。お坊様からなにか聞いているのかも……。」
こうめ「それなら、その人たちの居場所を教えてくれませんか!?」
酒屋のおかみ「……、教えたところで、何か話してくれるとは思えないわ。」
こうめ「どうして……、」
酒屋のおかみ「あの後から、ずっとふさぎ込んでいるの。すっかり人嫌いになってしまって……。」
酒屋のおかみ「長老はみおぎのことを本当の孫のようにかわいがっていらっしゃったから。きっとみおぎのことを思い出したくないのでしょう……。」
こうめ「……それでも、それでもこうめは……っ!」
酒屋のおかみ「だから、私に任せてほしいの。」
こうめ「え?」
酒屋のおかみ「みおぎは私の友達だった。……、同じ村の私になら、長老もなにか話してくれるかもしれないわ。」
酒屋のおかみ「何かわかればすぐにあなたに知らせると約束する。……お願い、今度こそ、私はみおぎの力になりたいの。」
酒屋のおかみ「みおぎには、助けられっぱなしで、お別れすることになってしまったから。」
こうめ「……。」
こうめ「……。」
こうめ「……、わかりました。こうめはあなたを信じます。」

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